カネはあった方がいいけれど 「一億円のさようなら」(白石一文)

ずいぶん長い行列の末に届いた小説、540頁の厚さだが一気に読んでしまった。
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図書館の予約の行列だから長くても平気、いくらでもほかの本を読んでいればいい。
じっさいに並んだとしたら(行列嫌いの僕にはあり得ないけれど)、腹がたっただろう。
面白くて、一気読みするだけの筋の運びだが、一日半という読書時間をあてるのにはちょっと惜しい。

福岡に住む50を過ぎた男・鉄平、役員を目前にして理由の分からない左遷、いまは従兄弟が社長の会社で窓際に追いやられている。
二人の子供はそれぞれ地方の大学に進学、美人で賢い妻と二人の暮しが始まる。

ふとしたはずみで妻に46億の資産があることを知る。
中古で買ったマンションの風呂を治すのに70万円かかると聞いて、子供の学資がでないと諦めているつましい生活、妻はアルバイトもしている、それでも息子の医学部志望をあきらめさせて歯科大学にさせもした。
妻は、20年前に亡くなった叔母の遺産を「一切ないものとして利子もつけずに弁護士に預託しておいた」という。
自分にとってないものだから夫にもないものとして話をしなかった、ないものだから寄付などもしなかったと。
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(散歩でみつけた「五郎様の森緑地」)

子供たちがそれぞれ知らぬ間に恋人をみつけ、娘は妊娠、産むの産まないのの騒ぎ、息子も年上の、しかも社長の娘と学生同士で同棲生活、妻はそういうことを知りながら鉄平は蚊帳の外だった。
いったい、自分の人生は何だったのだろう。
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(森の中のカブトムシ小屋)

妻が一億円を差し出して、私も一億円をもってしばらく考えるから、あなたもそうして欲しいという。
新しい人生が開ける!
妻も子供も会社もいっさいサヨナラだ。
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金沢(どこでもよかったけれど)に行って、マンションを借りてベンツ(中古だけど)を買ったりする。
でも、お金はそんなに減らない、減らないけれど、あと30年とか40年生きていこうと思うと足りないような気もする。

事業を始めると思いがけず繁盛し二号店を出す。
そのプロセスで男と女の物語の中に入って面倒を見たりもする。
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(用賀駅)
現実離れしたお伽噺なのだが、ディティルがリアルで、たとえば中年男の炊事風景とか、金沢や博多の地理や風景、うまい店だとかに引き込まれて、大金をどうするのかという興味もあって読んでしまう。
いちばん、身につまされたのは、ホテルの朝食(2500円)を食べて、妻とたまにゼイタクをしてこの朝飯を食べた時の、妻の嬉しそうな顔を思い出し、捨てたはずの妻に食べさせたかったと思うシーン。
僕もショッチュウそんなことがある、僕は捨てたわけじやないけれど。
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銭湯のあと用賀で入った店、「変わり奴」、酒もうまかったけれど、やっぱり「はじめ」に行きたくなった。
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「茄子のはさみ揚げ」、行ってよかった。
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今日も暑い。ゆっくりの告別式とあらばなおのこと。
Commented by ruhiginoue at 2019-05-30 11:38
世田谷区立代田図書館ですか。その界隈に住んでいたので、よく利用したものです。舛添要一の事務所もあって、だから時々見かけました。テレビで聴いたことがある声がすると思ったら女性と一緒に歩いていて、それは片山ではなかった。
Commented by saheizi-inokori at 2019-05-30 12:29
> ruhiginoueさん、私の利用している図書館は深沢なのですが、区内の図書館は融通しあつて回送してくれます。代田のあたりもよく歩いたのですが舛添さんには会わなかったなあ、彼は湯河原にいなかったかな、人違いかもしれない。
Commented by hiromama2015 at 2019-05-30 14:04
なんだか面白そうな本ですね。
早速 予約したいと思います。
46億円もいらないけれど
一億円なら欲しいです(笑)
Commented by ikuohasegawa at 2019-05-30 15:06
読みたいです。
Commented by そらぽん at 2019-05-30 16:07
ああ saheiziさんには、「はじめ」もありますね!

目と目を合わせない。。 微笑んだら怪訝な顔をされる国
人が集まって生きるキモチを表し合えない社会が亢進中?
子供を見ても足止め声かけダメのルールとかで縛るのかしら 
 
Commented by saheizi-inokori at 2019-05-30 16:24
> hiromama2015さん、買わないで予約、正しいかも。
Commented by saheizi-inokori at 2019-05-30 16:29
> ikuohasegawaさん、並小には向かないかもしれないですが。
Commented by saheizi-inokori at 2019-05-30 16:32
> そらぽんさん、そうです。昨日も若い女性歌手とママと三人でこの社会のあり方に大いなる疑問を投げかけました。
Commented by ppjunction at 2019-05-30 23:56
家族それぞれに1億円できると、家族は必要なくなるんですかね。。。
奇想天外な発想でーーワクワク楽しそうな本ですね!
Commented by saheizi-inokori at 2019-05-31 05:10
> ppjunctionさん、そこがこの小説の肝かな、もっとも話は逆で家族から必要とされなくなったと感じたときにお金が転がり込む、いやお金の発見がそういう気持ちを起こさせる?まあ、一読されてご覧遊ばせ。
Commented by j-garden-hirasato at 2019-05-31 06:48
そんな夢物語、
自分だったら、嬉しいですけどね。
Commented by k_hankichi at 2019-05-31 07:52
告別式だったのですね。
猫が昼寝をしているゆっくりとした風景が気持ちを穏やかにします。
小説は作家自身の回帰の過程を描いているかのようでした。
Commented by saheizi-inokori at 2019-05-31 07:53
> j-garden-hirasatoさん、子供の頃、よく百万円あったらどうしようとか小公子だったらいいなあ、などと空想したものです。
Commented by saheizi-inokori at 2019-05-31 07:56
> k_hankichiさん、ベランダの手すりに気持ちよさそうでした。
落ちる心配をしないから安心ですね。
鉄平はどこか私に似ているところがあります、だから面白く読んだのかもしれないなあ。
Commented by ruhiginoue at 2019-05-31 17:26
世田谷区立図書館は互いに貸し借りの他、目黒の図書館からも借りてくれますね。
こういうことが何かと色々あって知的とか文化的とか言われ、目黒か世田谷でないと嫌だという人もいるわけですね。
また戻ろうかとも思います。今は多摩川の近くの東京都と神奈川県の境目にいますが。いい所だけど、あんな事件があってしまってびっくりです。
Commented by saheizi-inokori at 2019-05-31 17:44
> ruhiginoueさん、そういえば私は世田谷区高齢者入浴券をありがたく使わせてもらっているのですが、世田谷区の銭湯に入る機会が少なくて年に12枚の無料券をムダにしてしまうのです。
ところが池尻大橋(目黒区)の文化浴泉は世田谷区の入浴券を受けてくれる、ついつい途中下車して行きたくなるじやないですか。
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by saheizi-inokori | 2019-05-30 10:38 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(16)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


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