本格謎解きミステリの味わい方 「死の扉」(レオ・ブルース)

きのうは軽い眩暈がしたので、逼塞してミステリを読んで過ごす。
歩数ゼロ、過去一か月平均が8200歩に下がったが、たまにはこういう運動をしない日があってもいいか。
けさは機嫌よく洗濯(すぐ乾きそう)して、サンチと散歩してきた。
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1955年にイギリスで出版された原書は稀覯本になっている由、訳者小林がたまたま所持していたために、新訳(昭和32年に清水俊二訳で創元社から出ている)され、僕は猫額洞さんのブログで教えられて図書館に予約したというわけだ。

1955年のイギリスのニューミンスターという小さな町で起きた、老婆と見回りの巡査の二重殺人事件を、パブリックスクールの歴史教師・キャロラス・ディ-ンが解決する、本格謎解きミステリだ。

キャロラスは生意気な生徒を連れて関係者に当たる。
表向きはファンシ―グッズの店になっているけれど、なにやら後ろ暗いことに手を染める金の亡者みたいな老婆を殺したい町民(息子すら)はゾロゾロ出てくるが、犯人として決めつけるには決定打がない。

僕はミステリが好きだが、謎解きができたためしがない。
なんとなく怪しいってのは、かならず無罪だし、そうかそうくるなら此奴かと思うとそれも疑似餌なんてことばかり、作者の手のひらで遊ばれている。
この小説も、もちろん、考えもしない人物が犯人だった。
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ミステリ、とくに本格ものを知ったのは高校時代、酒屋の息子で本を買う金に困らない友人からエラリークイーンの国名シリーズを借りまくったりもした。
あの頃のミステリの読み方はストーリーの進行や謎解きが中心で、物語の舞台や登場人物の性格、その描き方などは二の次だった。
今は、
エミリー・パーヴィスが殺された前日、ニューミンスターという小さな町は、イングランドで言うところの酷暑だった。すなわち日照時間が六時間以上あり、そのうちの二時間は塗りたてのペンキをふくらませ、老紳士にアルパカ地の夏服に着替えさせるほどの暑さだったということだ。
冒頭のこんな書き出しでニューミンスターという田舎の町の佇まいを想像しながら読む。
イングランドに行ったのはロンドンに二日か三日だから、想像の翼はすぐに折りたたまざるを得ないのだけれど。
ペットショップを二人の女性が経営して居たり、大女の看守や婦長が出没し、大声の牧師や、話し始めると止まらない壁職人もいて、ダンスパーテイや降霊会が開かれてもいる。
ミステリファンでちょっと偏屈な牧場主が、キャロラスが素人探偵と知るや喜んで、いつでもいらっしゃいという言葉に乗って、キャロラスは集めたデータから解答を引っ張り出すために、何日か(釣りは嫌いだが)釣り竿を傍らに川辺で寝ころがったりするのだ。

キャロラス・ディ-ン、40歳スポーツ万能、戦争中は向こう見ずなこともやったが、常に独自のエレガンスを失わないことで名高かった。
持て余すほどの遺産をもらって、歴史教師という仕事にそれほどの情熱も抱けず、でも「赤顔王を殺したのは誰か」みたいな歴史の謎解き本で少しは知られているし、生徒たちはなんとかして授業を脱線させて町の殺人事件についての見解を聞き出そうとする、人気教師キャロラスは生徒の成績も悪くない。
人類の歴史は犯罪の歴史であり、毒殺犯クリッペンとリチャード三世も、ネロ皇帝と新聞の見出しをにぎわす現代の殺人犯も彼にとっては同列の存在なのだ。
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今は失われた世の中、どこがどう失われたかはつまびらかにしないけれど、喪失感を感じる(もともと僕のまわりにこんな世の中は存在しなかったのに)。
風ではためきそうな大きな耳の持ち主である俗物校長が登場すると必ず耳尽くしになる。
「私はいつも耳をそばだててるさ」かくも巨大な耳の持ち主が、自分から耳のことを持ち出すとは不思議だった。

校長の大きな耳が(怒りのために)燃えるように赤く色づくと、それに気づいた牧師は「便秘なんだな」と思うし、キャロラスは校長のお説教を聞きながら「なんて大きな耳なのおばあちゃん」と内心つぶやく。
こんな文章を読んでメモしながら眩暈を封じ込めていました。

小林 晋 訳
創元推理文庫




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Commented by byogakudo at 2019-05-24 13:21
眩暈が治まりますよう。お大事に!
Commented by saheizi-inokori at 2019-05-24 14:19
> byogakudoさん、ありがとう。
どうすればいいのかわからないのがいささかです。
お陰様で楽しいミステリーを読めました、ありがとうの繰り返しです。
Commented by takoomesan at 2019-05-24 14:35
面白いもんで封じ込めるんですな、
和多志は最近、youtubeでシャーロックの朗読を聞いていますよ、
Commented by saheizi-inokori at 2019-05-24 15:30
> takoomesanさん、それで調子はよくなりましたね。
Commented by stanislowski at 2019-05-24 16:45
そういう日は休養してまた気分がよくなったらお散歩へ!
わたし、みなさんのコメントを読んでいて気がつきました。
自分も妄想に陥りやすい。疑心暗鬼に駆られる。
どうしましょう。
Commented by saheizi-inokori at 2019-05-24 17:11
> stanislowskiさん、今私は自由ヶ丘の初めて入るカフェで窓の外を歩く人を眺めています。
妄想はまだ湧いてきません。
妄想は楽しいですね、早く沸いてこい!
Commented by rinrin1345 at 2019-05-24 22:02
私もミステリー好きです。若い時かなりハマりました。ずーっと入院していたので謎解きは一番の楽しみでした。
私の母は目眩と肩こりを勘違いして細かい手仕事を辞めて目眩の薬もやめたら良くなりました。のんびりすることが出来ない人でしたから、お大事に
Commented by saheizi-inokori at 2019-05-24 23:18
> rinrin1345さん、身体は一つながりですものね、頭も肩も耳も目も。
ありがとう、今日は12000歩、本も一冊読みました。
Commented by j-garden-hirasato at 2019-05-25 07:09
赤いモコモコの花、
ブラシの木って名前だったかな。
長野では見られない、南国の木ですね。   
Commented by saheizi-inokori at 2019-05-25 09:32
> j-garden-hirasatoさん、赤と白があります。
今が盛り、一年は早いなあ。
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by saheizi-inokori | 2019-05-24 12:22 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(10)

ホン、映画・寄席・芝居、食べ物、旅、悲憤慷慨、よしなしごと・・


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