不在に気づかないリアル 「あなたを選んでくれるもの」(ミランダ・ジュライ)

昨夜は酒をがまんして早めに寝た、そのせいかどうかわからないが、けさはフツー、ゴミ出しに洗濯もした。
せんじつの生化学検査結果に内視鏡の写真までもって近所のクリニックへ。
ここに来るのは久しぶりなので(かみさんの順番取りにはなんどか来ている)、目下の体の状況をしゃべる。
循環器、呼吸器、整形外科、眼科、、それぞれの治療部位と薬を、、先生は丁寧に入力しつつ聴いてくださる。
あっちこっち、いまさら驚くくらいに医者の世話になっている。
それをまとめてやさしい女医さん(15年前に開業して以来のつきあい)に報告していると、なんとなく安心感がわいてくる。
葛根湯医者もまんざら根拠がないわけじゃない。
不在に気づかないリアル 「あなたを選んでくれるもの」(ミランダ・ジュライ)_e0016828_11142813.jpg
片足ずつ立って、歩いて、、右足で立った時にちょっとよろける、先生の目が光る。
先生の指先をみて視線を動かし、目の検査も。
脳の末しょう神経にちょっと問題があるかもしれない、内耳にウイルスが悪さをしたかもしれない、どっちにしても様子をみてまた症状が出たら、神経内科に行くか耳鼻咽喉科にするか、いずれにしてもうちにきなさい。
懐かしいトラベルミンを処方してくれた。
近くに信頼できるホームドクターがいるのはほんとに有難い。
不在に気づかないリアル 「あなたを選んでくれるもの」(ミランダ・ジュライ)_e0016828_11124973.jpg

三年前に読んだミランダ・ジュライ「あなたを選んでくれるもの」、せんじつ紹介した「最初の悪い男」つながりで図書館からひょいと借りてきたのだが、そのときは読んだことがあるとは思わざりし。
じつに面白くて、これならもう一回でも二回でも読みたい、こっちはノンフィクション、しかも楽しい写真がたくさん載っている。
不在に気づかないリアル 「あなたを選んでくれるもの」(ミランダ・ジュライ)_e0016828_11151321.jpg
郵便ポストに放り込まれる「ペニーセイバー」の売りたい広告メッセージ
「Lサイズの黒革ジャケット 10ドル」「インドの衣装 各5ドル」「ウシガエルのオタマジャクシ 一匹2ドル50セント」「ベンガルヤマネコの仔 値段応相談」「87色のカラーペンセット 65ドル」「クリスマスカードの表紙部分のみ50枚 1ドル」、、
を眺めて、脚本書きが進行しないイライラを紛らわせるミランダが、ふとこの広告を出した人間はどんな人でどんな生活をしているのかと、電話をする。
ほとんどは断るけれど、いらっしゃいと言ってくれた人をカメラマンとボデーガードを連れて訪ねるのだ。
不在に気づかないリアル 「あなたを選んでくれるもの」(ミランダ・ジュライ)_e0016828_11144438.jpg
どこに行っても驚きが待っている。
これはおとぎ噺でも教訓話でもなく、本当のことなのだ。わたしは目を閉じて、そう気づかされるたびにいつもやって来る、ズシンという静かな衝撃波を全身で受け止めた。それはわたしがボンネットみたいに頭にかぶって顎の下でぎゅっと結わえつけているちんまりとしたニセの現実が、巨大で不可解な本物の現実世界に取って代わられる音だった。
この感覚は、↑の「最初の悪い男」のテーマでもあった。
不在に気づかないリアル 「あなたを選んでくれるもの」(ミランダ・ジュライ)_e0016828_11130610.jpg
20代の前半に映画監督になろうとしていたミランダが骨身にしみて感じたことは、
女性が撮った映画がこの世に皆無に等しいという事実だけが、この仕事を難しくしているんじゃない。問題は、その事実を女たち自身が、このわたしでさえ、当たり前だと思ってしまっていることだった。
インタビューに応じた人たちはをパソコンを使わない、パソコンの不在を何とも思わない。
ミランダは、そのすばらしさを想う。
ネットの外にある物事は自分から遠くなり、かわりにネットの中のものすべてが痛いくらいに存在感を放っていた。顔も名前も知らない人たちのブログは毎日読まずにはいられないのに、すぐ近くにいる、でもネット上にいない人たちは、立体感を失って、ペラペラのマンガみたいな存在になりかけていた。
この二つの話のつながりは分かりにくいかもしれないけれど、どっちも引用したかった。
不在に気づかないリアル 「あなたを選んでくれるもの」(ミランダ・ジュライ)_e0016828_12202256.jpg
この世界に存在する無数の物語を人は生きている。
人はみな自分の人生をふるいにかけて、愛情と優しさを注ぐ先を定める。そしてそれは美しい、素敵なことなのだ。でも独りだろうと二人だろうと、わたしたちが残酷なまでに多種多様な、回りつづける万華鏡に嵌めこまれたピースであることに変わりはなく、それは最後の最後の瞬間までずっと続いていく。きっとわたしは一時間のうちに何度でもそのことを忘れ、思い出し、また忘れ、また思いだすだろう。思い出すたびにそれは一つの小さな奇跡で、忘れることもまた同じくらい重要だーだってわたしはわたしの物語を信じていかなければならないのだから。
こんど読み直してみたら、前回読み落としていたことが沢山出て来て、ここではまとめられない。
さいごに登場する老人が余命二週間の癌を宣告されながらもミランダが完成させた映画に出演するくだりは圧倒的だったこと。
機知溢れる文章にも笑わされたことを付け加えておしまいにする。
不在に気づかないリアル 「あなたを選んでくれるもの」(ミランダ・ジュライ)_e0016828_13114715.jpg
そうだ、もう一つ!あと何年しか生きられない、それは小銭しか残っていなようなものだと思っていた主人公が、人生が瞬間の寄せ集めであることを知り、時間の流れに抗わずに、老いていく身体とも折り合って生きていこうと思うに至る。
ここにも感じ入ったな。

岸本佐知子 訳

Commented by テイク25 at 2019-05-13 15:06 x
話をちゃんと聞いてくれて、的確なテストもして、〇〇の疑いがあるかな、様子を見て何かあったらどこそこに掛かりなさい、でもまずは私の所へ、と言ってもらえる医者が居ることの心強さと有難さ。安心ですね。

小銭しか残っていないようなもの・・・。そんなもんだろうと私も思っていて、でも、心細くならず、それなりに心豊かに残りを生きていきたいです。

おそるおそるコメント欄に侵入しました。
Commented by saheizi-inokori at 2019-05-13 15:15
> テイク25さん、歩いて一分くらいのところにあるクリニックです。宮内庁病院の医長をしていた先生、私も雅な世界とこんなところでつながっていますよ。
心配なのでアプリでなくウェブから操作します。その違いがわかっているわけではないのですが。
Commented by tona at 2019-05-13 20:37 x
眩暈もいろいろ原因があるのですね。
このままおさまるといいですね。
私もきついのを3回やったことがあって原因は3種類自分でもわかりましたので医者には行きませんでした。
お大事になさって。
Commented by saheizi-inokori at 2019-05-13 20:43
> tonaさん、ありがとうございます。
Commented by unburro at 2019-05-13 21:30
「めまい」は、なかなかに複雑な病気ですね。
どうぞお大事になさって下さい。

今日、私も我が家のホームドクターである小さな医院で、
義母の近況など、細々と相談して来ました。
家族構成や病歴、家業などを踏まえた上でのアドバイスは
本当に頼りになります。

専門医を探して、原因を追求し、治療する事も大切ですが、
百歳超級の義母には、こういう地元の総合内科が有り難いです。
もちろん、お医者さんの力量、人柄が伴わないと駄目ですが、
先日引退した大先生と、若先生、ベテラン看護師チーム、
それぞれ個性的で信頼できる、ホームドラマのような医院です。
Commented by みい at 2019-05-13 22:02 x
近くにいいお医者様がいてくれると心強いですね。
くれぐれもお大事に!

お花のお写真きれい~
Commented by saheizi-inokori at 2019-05-13 22:49
> unburroさん、義母もかみさんもずいぶん世話になりました。私が引っ越してきたときに開業、ほんとにラッキーです。
Commented by saheizi-inokori at 2019-05-13 22:51
> みいさん、ありがとう。
ラッキーです、それを活かさないと。
Commented by ikuohasegawa at 2019-05-14 05:58
トラベルミン処方と聞いて、なんだか安心してしまいました。

気が小さいので、車酔いと同じ程度と思いこもうとしています。


Commented by ikuohasegawa at 2019-05-14 06:00
木(最後の写真)の周りに生えているのはタケノコですか。
Commented by j-garden-hirasato at 2019-05-14 06:43
「近くに信頼できるホームドクター…」
ほんとそうですよね。
信頼できるかどうか、
先生の技術とか人柄もありますが、
患者との相性もあるんでしょう。
Commented by saheizi-inokori at 2019-05-14 07:40
> ikuohasegawaさん、私も懐かしいやら、ちょっとほっとしました。
Commented by saheizi-inokori at 2019-05-14 07:42
> ikuohasegawaさん、根っ子だと聞きました。幻想的でした。
Commented by saheizi-inokori at 2019-05-14 07:43
> j-garden-hirasatoさん、そうですね、なんでも相談できる先生がありがたいです。
名前
URL
削除用パスワード

※このブログはコメント承認制を適用しています。ブログの持ち主が承認するまでコメントは表示されません。

by saheizi-inokori | 2019-05-13 13:25 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(14)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori