白く笑う 「すべての、白いものたちの」(ハン・ガン)

サンチと散歩に出て、朝飯のことなんか忘れて、ずっと外にいたいような気持のよい朝だ。
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きのう読んだ小説は「すべての、白いものたちの」という表題だったが、けさの僕は「すべての、緑のものたち」に囲まれている。
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自然に深呼吸をしたくなる。
サンチが、何してるの?と見あげている、お前もやってごらん。
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ハン・ガン、韓江という名前の女性作家の「すべての、白いものたち」
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母親が22歳のときに早産で二時間しか生きられなかった姉の命を生きている。
ワルシャワでアパートを借りて壁を白く塗って、住民がナチスに銃殺された壁や、川や町を歩き、亡くなった人や犬たちの魂を想い、命の再生を考える。
故国で虐殺された若者たちの魂は、十全に哀悼を受けとれなかったこと、ワルシャワのような鎮魂碑すらできていないことも想う。
彼女にはいくつかの仕事が残されている:
嘘をやめること。
(目を開いて)カーテンを開けること。
記憶しているすべての死と魂のために―自分のそれも含めてーろうそくを灯すこと。

おくるみ、ゆき、こおり、つき、こめ、なみ、はくもくれん、、生と死の寂しさをこもごもたたえた白。
白く笑う
白く笑う、という表現は(おそらく)彼女の母国語だけにあるものだ。途方に暮れたように、寂しげに、こわれやすい清らかさをたたえて笑む顔。または、そのような笑み。

あなたは白く笑っていたね。
例えばこう書くなら、それは静かに耐えながら、笑っていようと努めていた誰かだ。

その人は白く笑ってた。
こう書くなら、(おそらく)それは自分の中の何かと訣別しようと努めている誰かだ。
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(渋谷駅)

歯医者で待たされて、名前を呼ばれると同時に最後のページを読み切った。
大学病院の片隅にひっそりともうけられた心療歯科、白い服を着た人たちが行きかう病院の無機質な廊下の長椅子に座って読むのにふさわしいような、静謐な、温度のない世界、モノトーンのきらめきを感じさせる文章だった。
視覚も言語もないままに、「死なないで」という母の言葉を音として聞いて逝った姉と母親の「追想」が切なく熱いが、それは氷の衣に包まれている、涙さえ。
見本帳のように様々な白い紙が集められて、いのちと白のつながりについての表白を包みこんでいる。
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病院の帰りは、神保町に寄った。
景観なんとか賞を受賞したという銘板があるビルの6階、エレベーターのドアが開くと、倉庫に紛れ込んだかと思うような古本屋、身体を板のようにして横に進みながら探したけれど、文学全集のバラなんか売ってない、そんなことを尋ねたら主に憫笑されそうな古本のオーラを感じる店だった(店の人も客も誰もいなかった)。
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斎藤真理子 訳
河出書房新社
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Commented by unburro at 2019-05-08 16:29
朝鮮半島の人にとっての白は、葬送の色ですね。
昔は、日本の喪の色も白だったのに…

いつの頃からか、日本は冠婚葬祭全て黒、ということに
なってしまいましたが、色に対して貧困な感じがします。
Commented by saheizi-inokori at 2019-05-08 17:28
> unburroさん、寿衣ですね。この本にも出てきます。ほんとに本書の装丁製本は凝っていてさまざまな色や手触りの白い紙が使われています。
Commented by sweetmitsuki at 2019-05-08 20:23
新皇后がド派手な真っ黄色の服を着てましたけど、あれにもきっと何かの意味があるのでしょう。
あの笑顔はきっと、黄色い笑いだったのですね。
Commented by saheizi-inokori at 2019-05-08 20:30
> sweetmitsukiさん、雅子さんでつか?
こんどあったら聞いときます。
Commented by jarippe at 2019-05-08 22:49
こわれやすい清らかさをたたえて笑む顔
という白く笑うその表情 つかみどころがない感じですが
とっても気になる〝白く笑う”って表現です
Commented by ikuohasegawa at 2019-05-09 05:27
装丁を見たい。
様々な白い紙に触れてみたい。と思います。
Commented by saheizi-inokori at 2019-05-09 05:45
> jarippeさん、人間をそのようにとらえる感覚、日本語の表現にはないですね。
Commented by saheizi-inokori at 2019-05-09 05:51
> ikuohasegawaさん、あなたのことを考えましたよ。きっと興味をもたれるだろうと。
Commented by tona at 2019-05-09 09:57 x
心療歯科というのがあるのですか。
初めて聞きました。
サイトで調べてみました。とても信じられない病気という感じでした。
とはいうものの、心療内科は時々行って診察してもらいたい衝動にかられます。
Commented by saheizi-inokori at 2019-05-09 11:16
> tonaさん、教授は向精神薬を処方しましたが、拒否して、今は若い医師と、私からみたら雑談を5分ほどしています。
舌の運動などをアドバイスしてくれて、それは違和感をそらすのに効果がありました。
認知療法というのだそうです。
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by saheizi-inokori | 2019-05-08 11:43 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(10)

ホン、映画・寄席・芝居、食べ物、旅、悲憤慷慨、よしなしごと・・


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