意志が勝った三茶散歩

まいにちの散歩で半径2キロ360度、たいていの道は馴染みになっている。
たまにはバスで少し離れたところの街を歩いて銭湯に入り赤提灯でいっぱいやって帰ろう。
ちょうどやってきたバスの行き先がよかったのだが、学校帰りの子供たちが大勢待っているので見送って、次のバスは渋谷行、あんまり珍しくもないがまあいいか。
中里で降りて銭湯「栄湯」を探す。
だいぶ前に迷ったあげくにたどり着いたら休みだったのだ。
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迷わないとつまらないから、ぐるぐる同じようなところを歩いて煙突と空き地を見つけ、
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あれ、つぶれちゃったのかと思ったら、
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その裏側にあった。
でも人の気配がしない、玄関まで行くと「4月9日をもって閉店」との貼り紙、残念、さびしいこった。
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近所のがんばっている、
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または既にやっていなさそうな店
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にまざって「え~い!」子供たちの気合が聞こえる。
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この銭湯がダメとあらば、三軒茶屋へ。
世田谷警察署でトイレを借りて、またもや迷いながら歩く。
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変わった形の滑り台をみると、子供たちが遊んだ板橋の「おっぱい公園」を思い出す。
あっという間だよ、笑いさざめく公園ママたちに言ってもしょうがないことだ。
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マジ迷ってこの豆腐屋は二回、鍋物料理屋の前は三度歩いた。
見あげるとキャロットタワー、はなからここを目指せばものの5分くらいの距離なのに、ぐるぐる回って5千歩、途中で小学校の前でフロントがつぶれた事故車を見て、子供が巻き添えにならなくてよかった(電柱にぶつかった)と思ったり、この程度の歩数で膝が痛くなるのは困ったことだと悲観したりしていると
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ああ、あの(やめた魚店)の隣が銭湯「駒の湯」だ、やれやれ。
となりでブツブツ言ってはため息をつくくせに明るい顔をしている爺さん、ぼくはどんな風に見えるのだろうか、どう見えてもああいい気持。
世田谷区高齢者無料の入浴券12枚の本年使い初め、去年は余所で入ることが多く、かなり無駄にしてしまったのだ。
風呂をでて6時前、いい塩梅だぶらぶらいくと、煮しめたように汚れて端っこが破れている暖簾の焼き鳥屋、しめしめと入っていくと、「お客さん、今日は団体が入っちゃって、悪いね、わざわざ来てもらって」、その言葉の感じがいい、なに、店はいくらでもあるさ。
前に来た「居酒屋、東京名店のひとつ」、きょうはそういう、いわばちょっと気取った太田和彦風ではなく、ざっかけない吉田類風で行きたい気分。

あったあった、
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入るとけっこう大きな店でテーブルが7つ8つほど、僕は厨房に面したカウンターに座る。
隅に年輩の女性が一人酒、コップ酒をうまそうに飲んでいる。
その隣に座って、一つ置いて右のオバサンは空いたジョッキと大皿を前にずっとスマホにむかって話している。
その向こうも女性が一人らしい。
いつもは日本酒から始めるのに「ビール小ジョッキ」、歩いて風呂そして5月並みの気温、喉がそう言わせた。
お通しの「ゼンマイと竹輪の炊いたん」がちょうどよい濃い味付けだ。
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スグできるもの、それは「冷奴」、ドーンと半丁ほどに、葱の太めに刻んだの、生姜、カツブシの山盛りが小皿に出てくる。
薬味をこぼさないように食うのが難しいけれど、夏の酒の味わい、いいね。
「ボンジリ、ハツ、ナンコツ、首肉」を塩で、わさびをつけて食う。
噛み応えがあるけれど、黙々と噛んでいると、甘味が感じられて実にうまいのだ。
なんでも「やわらか~い」なんて燥いでいる連中とは年季が違うのよ。
酒は、富山の純米吟醸「幻の瀧」650円、むかし僕が採用したヤマノリに似た感じのいい娘が一升瓶を持ってきて、コップからあふれるように注いでくれる。
「焼き鳥は串からそのまま食う、コップに口をもっていってズズッと飲んだ隙間に零れたのを注ぐ、そのアンバイが楽しい」亡き喜多八が、そうそうその調子と言ってみている。
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飲み頃に冷えた酒の、奥底の幽かな甘みが、まだ見ぬ富山の渓谷の峻烈な水をしのばせる。
ゆっくり、と言ってもいつもが速すぎるのだが、食って飲んで、窓の外が暮れていくのを鑑賞する。
となりの女性は、大ジョッキに変えて、焼き鳥やブリの刺身も食べ終わってスマホでゲームをしている。
話しかけようか、いや、やめとこう、今日は(酒を飲む)孤独のグルメなのだ。
「ザーサイの浅漬け」、これがまた孤独の愉悦だった。
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もう一杯をやらずに勘定をして、びっくりするような大声の「ありがとございました~」の合唱に送られて、昇りはじめた月を見て、もう一軒はやらないで
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電車に乗った。
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桜新町で「はじめ」に行こうとするアンヨを意志の力で抑え込む。
ちょっとだけ、ということにはなるはずがないのだ。
一合と小ジョッキ、飲み足りないくらいがいいのだ、そろそろ8時じゃないか。
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意志が勝った!

Commented by slow33jp at 2019-04-19 14:20
夕飯は?
ご夫婦で食べないんですか?
Commented by saheizi-inokori at 2019-04-19 14:30
> slow33jpさん、昨日はこれが私の夕飯です。いつもは一緒に食べますよ。

Commented by unburro at 2019-04-19 14:32
女性の1人呑み、増えているのか、
お店の雰囲気が呼ぶのか…
その一つ置いて隣、に座りたいものです。

もう一軒、を止める意志。
素晴らしい!
噛みごたえのある焼き鳥を噛みしめるように、
グッと奥歯を噛み締めて、ちょっと遠くを見る眼差しで、
「はじめ」の前を通り過ぎる、苦み走った良いお顔が
見えるようです(^.^)
Commented by saheizi-inokori at 2019-04-19 15:18
> unburroさん、まあ、あんまりからかわないで下さいよ。見栄、六方でも踏みますか?
Commented by cocomerita at 2019-04-19 16:30
>意志が勝った!

偉い!!
Commented by cocomerita at 2019-04-19 16:30
>意志が勝った!

偉い!!
Commented by saheizi-inokori at 2019-04-19 16:44
> cocomeritaさん、冷やかしなし!
Commented by saheizi-inokori at 2019-04-19 17:59
> cocomeritaさん、たしかに、意志薄弱な私にとつては偉大なる勝利ではありました。
恥ずかしい!
Commented by jarippe at 2019-04-19 18:10
意志が勝ったですかー  よ勝ったよ勝った
saheiziさんはどこを歩いても楽しんでおられるご様子
我が道を楽しみながら行かれていいなーって思います
saheiziさんのような楽しいリズムのある文が書けるようにって
落語の本を読みました  引きずり込まれて2冊目を探しています
Commented by saheizi-inokori at 2019-04-19 18:23
> jarippeさん、まさに小さな旅気分です。
落語の本、ご紹介くださいね。
Commented by tona at 2019-04-19 20:46 x
いわばちょっと気取った太田和彦風ではなく、ざっかけない吉田類風で行きたい気分・・・なんとなくわかるような気がしました。
吉田さんテレビでしか見たことがないですがこんなにおいしそうに飲む人を知りません。太田さんは椎名さんの本で馴染みです。
saheiziさんも類さんのようなお顔で飲んでいらっしゃるのでしょうね。
キャロットタワー、懐かしいです。

Commented by soymedica at 2019-04-19 22:05
ここ、世田谷通りはさんでキャロットタワーの反対側の三角地帯ですか?昔世田谷パブリックシアターがはねた後でそこの居酒屋に行ったら、お店の人が物凄く何か聞きたそう(女の一人客だからだと思う)だったので、「〇〇さんがここを勧めてくれたので」、と言ったら納得してくれて、サービスしてくれました。
Commented by saheizi-inokori at 2019-04-19 22:34
> tonaさん、太田和彦は松本深志高校、私は長野高校、さいきん松本が好きになってきた私としては彼の居酒屋探訪もいいのですが、酔っ払った類さんの行く庶民的かつ良心的な店の味わいも捨てがたい、というか、それを求める日も多くなりました。
Commented by saheizi-inokori at 2019-04-19 22:47
> soymedicaさん、そうです。
今は女性の一人客は珍しくないような感じがします。
私の行きつけだった店が閉店しました。
同い年だったオヤカタが元気でいてくれればと願います。
Commented by saheizi-inokori at 2019-04-19 23:04
> unburroさん、追伸、ぜひ一つおかないで隣にお座りください。
はしごは「はじめ」で、その後なら急な階段を上がるバーもありますよ。
Commented at 2019-04-20 06:44
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by j-garden-hirasato at 2019-04-20 07:13
三軒茶屋周辺も、
そぞろ歩きをするには、
楽しそうなエリアです。
銭湯は残念ですね。
Commented by saheizi-inokori at 2019-04-20 07:48
> 鍵コメさん、三宿には?
私はあの辺の噂は耳にしても実際に行くようになったのはこの10年ほどです。
学生時代は渋谷の恋文横丁でしたよ。
三茶のあの三角地帯も何時まで残るのでしょうね。

Commented by saheizi-inokori at 2019-04-20 07:50
> 鍵コメさん、追伸、どうぞドンドンいらっしゃいませ。
懐かしい下北の話でもしましょう。
Commented by saheizi-inokori at 2019-04-20 07:51
> j-garden-hirasatoさん、今回はいらなかったけれど、三茶には驚くような銭湯もあるのですよ。
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by saheizi-inokori | 2019-04-19 12:24 | 気になる店・ひと皿 | Trackback | Comments(20)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


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