中国から教わった春の愛で方 能「田村」&狂言「鎌腹」

清水寺を創建したのは坂上田村麻呂と僧・延鎮、桓武天皇のとき奈良末期だ。
中国渡来の民だった偉丈夫・田村丸(能ではこう呼ぶ)と平安遷都という大事業をやり遂げた百済渡来の血を引く桓武のタッグマッチには興味深いものがある、と言ってその先は触れなかった梅内美華子さん。
京都の桜はそらさんの旅行記で間に合わせている僕に清水寺の桜を見せてくれた国立能楽堂よありがとう。
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(能楽堂前庭)

「清水寺と田村麻呂」と題して着物姿の梅内さんが清水寺縁起、金色で三筋の音羽の滝のことなど説明するのを聴くと修学旅行や出張のときに忙しく見た寺は違うものだったような気がする。
春宵一刻値千金
花に清香有り月に陰有り
歌管楼台声細細
鞦韆院落夜沈沈
蘇軾の「春夜」、能「田村」では、後半は出てこないし人口に膾炙しているのは前半だけだ。
日本に伝わり愛されたのは、それまでの古今和歌集などの世界にはなかった「春の良いもの」を教えてくれたからだという。
花は清らかな香りを漂わせ、月はおぼろに霞んでいる。
歌声や管楽器の音が響いていた楼台も今は静まり、
かすかな声がするのみだ。
中庭には婦人が乗って遊ぶぶらんこが揺れ、
夜は深々と更けていく。
「田村」で、前シテ(花守)と僧が声を合わせて「春宵一刻値千金」と歌うとき、お囃子も止まり舞台は静寂が支配するのは、それだけこの漢詩を大事にしているからです、よく聴いてください、と梅内さん。
この「花」は梅の花だったのかな。
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狂言「鎌腹」
とつぜん幕の外から絶叫が聞こえたと思うと太郎が転がるように走りでて、それを妻が先っぽに鎌を括り付けた棒を振りかざして追いかけてくる。
仲裁人が必死の思いで二人を分ける。
妻のいうには太郎が「三界に家無し」で「夜どまり日どまり」のノラクラ、今日も山に働きに行けと言っても行こうとしないから、、こんな男は生かしておいてもしょうがないから打ち殺す、幕前からワキ柱にいる太郎に「イヤヤヤヤ~イ!」すさまじい罵声を浴びせる。
ワワシイ(口やかましい・うるさい)女は狂言にときどき登場するけれどこれほど物凄いのは初めてだ。

近郷他郷の人から喧嘩の絶えない夫婦と後ろ指をさされ、家では妻からせびらかされ(いじめられ)たうえに打ち殺されるよりは、いっそ死んでしまおう。
明るく軽く決心するのがおかしい。
だから、淵川に身投げ、鎌で腹を斬る(鎌腹)、首を斬る(鎌首)、どれも臆病者だからやり遂げられない、じゃあ鎌を立てておいて走って来てその上に飛び込んで死ぬ「走り鎌」はどうだ、走ってきても鎌が目に入ると足が止まる、それでは目をつぶって走る「目くら鎌」の「走り鎌」でどうだ。

どうやってもイザとなると死ねない、こりゃ山に行って働くしかないと永遠の真理に到達したところに、ワワシイ妻が「死なないでくれ」と止めにくる。
「いいや、いったん男が口に出した以上、腹を斬る」急に男らしく凛々しくなる太郎。
あんたが死んだら私も生きてられないから淵川に飛び込んで死ぬ、と泣き出す妻。
そうか、お前も死ぬか、それじゃあ、お前が俺の代わりに鎌で腹を斬って死んでくれ、元のワワシイ妻に戻って怒鳴り上げるのだった。

梅内さんは、「今では珍しくもないワワシイ女、当時は新しい女だった。
太郎が「男に勝って健気な人」と感心するセリフを聞き逃さないように」と注意してくれた。
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(能楽堂中庭)

能「田村」
旅の僧がお供を連れて清水寺にやってくる、おりしも桜の盛りだ。
そこへ花守が「この花は自然に春の手向けになっている」「観音様の大慈大悲の光のせいか、ここの桜は都一番だ」などと花をめでつつ登場する。
旅僧の求めに応じて清水寺の縁起を語り、四方の名所を教え、「ほら、ごらんなさい、音羽の山の峰から出た月が輝いて桜の梢に映っているでしょう」「ほんとに!ときの過ぎゆくのが惜しい!」「ほんとに惜しい」二人で言い交し「春宵一刻値千金、花に清香、月に陰」の合唱、しかと聴きました。
花守の声が威厳がある。
月光を浴びて、天までも花に酔っているかのような春宵を「面白の春べや」と寿ぎながら舞い、田村堂に消えていく。
橋掛かりで、月明かりの斑にさしている田村堂の扉をあける仕草、一瞬影絵のように静止する余韻がよかった。
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後半は田村丸が武将の姿で登場して、平城天皇(田村丸は三代の天皇に仕えた)の命令で伊勢の鬼神を征伐するとき、観音様の仏力のお陰で勝てた様子を語り舞う。
都と伊勢のあいだになんども兵馬が往来しただろう古代に想いを馳せた。
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Commented by soymedica at 2019-04-14 14:16
行きたかったなあ。
今月は身内の病気、仕事などで、せっかく切符を買ったのに銕仙会にも国立にも行かれなかった。
まあ、チケット差し上げて喜んでくださった方がいて良かったと思う事にします。
Commented by saheizi-inokori at 2019-04-14 18:06
> soymedicaさん、そりゃあ残念でしたね。
さいきんチケットが買いにくくなりました。
5月は清和さん、長島さん取れずでした、あのシステム改修も戸惑いましたが。
Commented by sweetmitsuki at 2019-04-14 18:23
桓武天皇が即位できたのは称徳天皇が道鏡を天皇にするために有力皇位継承者を殺しまくったからで、桓武天皇は百済系の血筋ゆえにターゲットから外されて命拾いしたという説もあるそうです。
鬼神も真っ青のワワシイ女は当時もいたみたいですよ。
Commented at 2019-04-14 20:58
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Commented by saheizi-inokori at 2019-04-14 21:27
> sweetmitsukiさん、坂上田村麻呂も実力でのし上がったんじゃなかったか、桓武とどこか相通じるものがあったのかもしれませんね。
Commented by saheizi-inokori at 2019-04-14 21:27
> 鍵コメさん、了解です。
Commented by j-garden-hirasato at 2019-04-15 06:36
昔から強い女性はいたのですね。
今なら、題材に事欠きません。
Commented at 2019-04-15 07:37
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Commented by saheizi-inokori at 2019-04-15 07:53
> j-garden-hirasatoさん、強くてうるさい、のですね。
Commented by saheizi-inokori at 2019-04-15 07:56
> 鍵コメさん、それなんです。そちらに返信します。
Commented at 2019-04-15 09:01
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Commented by saheizi-inokori at 2019-04-15 09:31
>鍵コメさん、そうではないのです!
Commented at 2019-04-15 11:01
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Commented at 2019-04-15 11:59
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Commented by 平名 at 2019-04-17 11:16 x
 やっぱり東京は好いですね、、 狂言の鎌、、 「わわしい」っての「新しい」って意味⁈ では皆殺人鬼に、、
 別の意味も⁈ 煩わしいだけか、、
Commented by saheizi-inokori at 2019-04-17 12:03
> 平名さん、新しいという意味はないでしょう。
ワワシイ女房というのが新しい人物像だったということで。
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by saheizi-inokori | 2019-04-14 12:19 | 能・芝居・音楽 | Trackback | Comments(16)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori
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