小説を読む悦び 「最初の悪い男」(ミランダ・ジュライ)

一週間の過ぎるのがあまりにも早いので、ホーフも汚れず部屋の隅や棚の埃もたまるひまなんかないだろうと、つい大掃除や大洗濯をサボりたくなるがちゃんと汚れているのだ。
それは汗をかいたあとの部屋の空気が違って感じられることが証明している。
心にたまった埃の重さも、落としてみて知られる。
たとえ小さくても感動することで心の埃は落ちて心は軽くなるようだ。
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時は誰に対しても同じ速度で流れるけれど、人生のありようは千差万別だ。
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小説の女主人公・シュリルは43歳独身、独特の「システム」で「合理的」「快適」に暮らしている。たとえばフライパンからものを食べることで皿をつかわない、物は出来るだけ動かさず、動かしたらすぐに元に戻す。
落ち込んだときも部屋がいつも整理整頓されていたら快適じゃないか。

年の離れた男に片思い、9歳のときに出会って心が通じ合った運命の赤んぼをいつか我が手に取り戻すことを夢みている。
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孤独だが安らかな自分の城で満足しているかにみえたシュリルの家に転がり込んできた20歳のクリー、巨乳の美人だが足が臭い、衛生観念はゼロ、教養もない、だらしがない、両親(シュリルの上司)が持て余して「仕事を見つけるまで」と押し付けてきた子なのだ。
窘めようとすると暴力をふるう。
護身術エクササイズのDVDを販売しているシュリルもあっけなくやられてしまい、あっという間にシュリルの城は、めちゃくちゃに壊れてしまう。
シュリルの性的妄想や狂言回しを演じる妙に色っぽいセラピストとの会話などに飽きて、読むのをやめようかと思った。
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図書館に返そうと思っていたのに、なんとなくシュリルとクリーの二人から呼ばれたような気がして、もう一度読み始めたら俄かに二人が生きて動き回るではないか。
そして波乱万丈、愛の(奇跡の)物語に突入する。
はたが見たら悲惨ともいうべきカオス、だがそこに人間がほんとうに生きる喜びと苦しみと感動があった。
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部屋が汚くたって、他人が何と言おうが、規則正しくなくっても、ほんとの現実世界に自分をさらけ出して、自分もその巨大な不可解な世界の一員となってこそ、「生きる」ということなのだ。
妄想のセックスよりリアルなそれ、いかに苦渋に満ちていようとも。
母であることの喜び(苦しみ)!

文字のなかから起き上がって命を得たシュリルとクリーを知った。
図書館に返さなくてよかった。
小説を読む悦びとはそこに書かれた人物が命を得て自分の知り合いの一人になることではないだろうか。

Commented by jarippe at 2019-04-13 18:17
生きるって 自然の事なんでしょうねー 
環境をよくするとか美味しいものを食べるとか
綺麗な姿になるとか欲得徳とかって後付けで
生き物の原点に戻りたくないけど考えてもいいような・・・・・
Commented by saheizi-inokori at 2019-04-13 18:21
> jarippeさん、枠を作って縮こまって生きてきたような気もします。
まあ、それしかなかったのでしょうが。
Commented by たま at 2019-04-13 22:07 x
月桂樹の花でしょうか。
うちのものもそうですが、苗木屋のものは雄ばっかりで、滅多に花は見たことがありません。やはり、月桂樹の香りがするのでしょうか・・・。
Commented by saheizi-inokori at 2019-04-13 22:14
> たまさん、人の庭をサッと撮ったので、香りまでは分かりませんでした。
枇杷ではないですよね。
Commented by j-garden-hirasato at 2019-04-14 06:08
もうツツジですか。
これからサクラだというのに…。
でも、
これから一気に加速していくので、
アンテナを敏感にしないと。
Commented by saheizi-inokori at 2019-04-14 07:39
> j-garden-hirasatoさん、蕾がかわいいなんて思っているとあちこちで咲き始め、昨日あたりは珍しくなくなりました。
時の流れが速くておいついていかないこちらの感覚です。
Commented by urontei at 2019-04-14 07:53
面白そうな小説ですね。読んでみようかな。

いったん断念した本を再び開くと、文章が水のようにスーッと入ってくる時ってありますよね。
でもその逆もあって、毎年春先になると吉田健一の 〔時間〕 を開くのですが、これはもう五年越し、何度読んでもちっとも頭に入らない。今年も断念しました (笑)
Commented by saheizi-inokori at 2019-04-14 09:44
> uronteiさん、吉田健一はほんとに名文なのか、疑問に思うような文章がありますね。
食い物とか旅の話ならついていけるけれど、難解な批評には私もお手上げです。
分かっている人向けの文章なのかもしれない。

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by saheizi-inokori | 2019-04-13 10:55 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(8)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


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