私だっていろいろ考えまさあね 「余白の春 金子文子」(瀬戸内寂聴)
2019年 03月 18日
面白いのに、、空腹時に、がつがつとうまいものをかっ込むような読書が出来ない。
腹が空いてないのか。
朴烈は3・1朝鮮独立運動や大震災における朝鮮人に対する大虐殺を法廷で内外に示したい、その朴烈にどこまでもついて行きたい文子だった。
アナーキストというより生存競争の罠から脱することができない生きとし生けるものを否定する虚無主義者でもあったから、いずれ死に場所が必要だった、としても文子23歳、若すぎる死だ(大逆罪の死刑は恩赦で減刑されたが獄中で自ら縊死する)。
『死線を越えて』(僕注。賀川豊彦のキリスト教社会主義自伝小説)を読むと、貧民層という人間の層の醜さの中に、私は自分の優越を喜んでいるように思える。何しろ呆れたユートピアンだ。まっすぐで、ちょっと剽軽で悪戯っぽい笑顔の(映画の)文子が、もう少し近くなった。地球をばしかと抱きしめ我泣かん 高きにゐます天帝の前とでもいいそうなアンバイ式だ。
フーサン(自分のこと)はいってやる。ころころと蹴りつ蹴られつ地球をば 揚子の水に沈めたく思ふ(中略)
水煙揚げて地球の沈みなば 我は笑まんしぶきの陰に
少し歌作の稽古でもしようかしら?すまんがね、たしか新潮版で『啄木選集』てのがある。探してなかったら、一つ買って下さるまいか。(略)用語や色彩に於いて、あの人のが好きだ。真似るなら、あの人のを真似たい。
私、いうのを忘れてた。着物ありがとう。紺絣には苦学時代の俤が深い。袂の単衣には、白粉とチキンライスのにおいがした。
朝鮮服の雑作(ぞうさく)が、一つ足りないのだ。裾にレースの着いた袴ようのものがもう一つ有る筈だが、見てもしあったら、汚れたままで、一向差し支えないのだから、入れてくださるまいか、序の時、それから誠に誠にいいにくいのだが、派手なモスリン型の裾除けー解らねば腰巻ーそれでも解らねば女の褌がある筈だ。序の時、投りこんでくださるまいか?二つしかないので一寸不自由だ。ただしなかったら要らん。
オカミのを拝借するから。
私だっていろいろ考えまさあね。考えて行けば、その間多少なりとも思想が発展して行くのは当然でしょう。私は元来その時その時に最もよいと考えることを実行し、またそれを私の最善の行為と信じているのです。二年間も監獄でこうやって自由を束縛されていれば、目下の最善の思想はまた以前の思想とはどうしても同一であり得ないではありませんか。しかしだからといって私が改心したの、権力に屈服したのと言われては承知出来ません。私の反逆的思想は決して萎縮してはいません。ただ反逆の実行が不可能だと知った時、その実行方法に就いての考えが変わらざるを得ないのではないかというのです。
ぐんぐんと生ひ育ちゆく我が友ともうちょっと生きているべきだった。
訣るゝ日近し
我のかなしみ
朴烈は戦後釈放されて、民団の結成に関与したが、選挙で敗れて韓国に渡り、朝鮮戦争時に北朝鮮に捕虜として連行され、1974年に71歳で刑死したと言われている(Wikipedeiaによる。本書後書きでは自ら北朝鮮に行って77歳で死亡とされている)。
ずれにくく手触りも良い。
幼い頃の事をよく覚えていて大変な人生の中で愛情を求め自然を愛した女性であったとわかります。できれば生き伸びて戦後の時代を生きてほしかった