茶の湯

そろそろ花粉症が始まって、マスクをしていてもその中で鼻水がだらりと垂れてくる。
昨日はこんな塩梅ではとリハビリを休むことにした、ちょっと肌寒いしサンチが可哀そうだし。
しかしリハビリの往復の5千歩ほどの散歩をしないとどうもムズムズして落ち着かない。
「ちょっとだけ、家の周りだけだよ、待っててな」とサンチにいうけれど、コートを羽織る時点でもう拗ねてこっちを向かない。
ちょっとのつもりでも歩きだすと、もう少しもう少しと6千歩、アル(歩)中だ。
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忘れかけては一章づつ読んでいく「日本精神史」(長谷川宏)、本の存在を忘れかけ読んだ内容も忘れる。
読んでいる時だけ、知れば嬉しい言葉なのだ。
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平安初期に唐から伝わった喫茶の風は、遣唐使中止(894)以降の文化の国風化のなかで、しだいに忘れ去られていった。
それが再び日本人に広まる、そのきっかけは臨済宗の開祖・栄西が宋の禅院の喫茶の風とすてきな茶種を伝えたこと、禅寺の荘厳な宗教儀礼が、武士や貴族に広がり、娯楽や趣味として、「茶寄合」「闘茶」など猥雑・豪奢・異国趣味の茶寄合は南北朝時代に一世を風靡、しかし東山時代には衰退する。

代わって登場するのが「わび茶」。
村田珠光、武野紹鷗、千利休、受験日本史でもお馴染みの三人のそれぞれについて長谷川は、わび茶の成立発展について『珠光心の文』の全文現代語訳などをして教えてくれる。
慢心と執心の戒め、和物と唐物の区別にこだわるな、経験を積み重ねて道具のよさを知りつくし、心の自然な動きがそのまま「冷えて枯れた」ものになってこそわび茶、初心者は道具などにかかずらうな。
なんか今の僕らのいろいろにも通用するような戒めだと思う。
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茶の湯に禅の精神をもちこむことによって賑やかで騒々しい茶を冷え枯れた茶へと方向転換しようとしたのが村田珠光だったとすれば、同じ禅の精神を茶席での一つ一つのふるまいや所作にまで行きわたらせ、冷え枯れた茶を客観的な形をもつ世界として作り上げようとしたのが武野紹鴎だった。その客観的な世界に身を置くとき、紹鴎は、みずからわびを生きていたにちがいない。茶会が精神と外形の調和の上になりたつのに見合って、茶会に身を置く茶人紹鴎は心身の調和を享受しえていたにちがいない。
茶の湯の大成者・千利休は、その調和がなりたたなくなった時代にあって必死に調和を求めた。
政治の一環として豪華な北野茶会や金色燦然たる茶室を作って得意満面な秀吉に仕える利休が作ったのは、京都妙喜庵の茶室・待庵(たいあん)だ。
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わずか二畳、粗い土壁に囲まれた質素な茶室は、しかし、心のどこかに美しいものをみているという感想を抱かせる。
ここにおいて、長谷川は、もともと茶の湯は、飲むこと食べることという、原始より生きていく上に欠かせなかった日常的行為に源を発するものであったことに想いを馳せる…
日常的な飲み食いを「わび」の名で呼ぶ必要などまったくないが、あえてそれを性格づければ、質素で、地味で、ありきたりの基本行為が「わび」に通じる面を多分にもつのは明らかだろう。

派手で豪華な茶室であれ、枯れさびた茶室であれ、また、珍宝・名器を道具とするのであれ、ありふれた雑器を道具とするのであれ、限られた空間と時間のなかでの、体をもって一個人の動作・所作の美しさこそが問題だとなれば、そこにはもう権力も権威も、身分の上下も、さほどに大きな意味や価値をもたない。限られた時空においてであれ、そういう美を生活に通じる一つの価値として明確に提示しえたところに、利休のわびの美学の普遍性があった。
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若い頃、会津に単身赴任したら、手伝いに来てくれた人たちが、何をおいても必要だといって、雑貨屋で買ってきたのが、茶道具をワンセットいれておく容れ物、写真のような立派なものではなかった。
大学に入って寮生活をするまでは、貧しいわが家でも食後にはお茶を淹れて飲んだ。
外出するときには「どんなに忙しくても一杯のお茶を飲むもんだよ」という祖母の(守られない)言葉が意識のなかに生きていた。
寮に入って、ネスカフェの粉末などに親しんでも、ときおり緑茶が飲みたくなって、緑茶の粉末が売り出されたときは買ってもみた(うまくなかった、茶を飲むというのは、単に茶の入った液体を飲めばいいというもんじゃないな)。
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子どもたちと暮らした頃も、食後には必ず(食前食中はない、苦手)、帰宅後など、ときどき「茶を淹れようか」と娘は言ったもんだ。

わが家の茶はまさにわび茶だったが、心豊かな茶であったと思う。
コーヒーが主体になったのは、いつからか。
さいきん、かつては足を踏み入れなかったカフェでコーヒーを飲むようになったら、なぜかお茶も飲みたくなった。
喉の渇きを癒す、嗜好品というだけでない、茶の湯の入り口に戻ってきたのかもしれない。
冷え枯れた心の茶の湯の。

Commented by jarippe at 2019-02-28 11:37
もしも我が家の飲み食いに
その「わび」に通じるものがあったらうれしいのですが
田舎の高齢者二人の光景は・・・・・サビしいものです
Commented by saheizi-inokori at 2019-02-28 12:12
> jarippeさん、それも侘び、ではないでしようか。むしろほんものの茶の湯に近いのでは?
Commented by eblo at 2019-02-28 14:34
「もう少しもう少しと6千歩、アル(歩)中だ」
もう少し若い頃、3000~5000m泳いでいました。
自己流で泳げるようになっただけなので物凄くゆっくりでしたが。
泳いでいる最中に肩を叩かれ、コーチから「気分が良くならないか」と聞かれました。
長く泳いでいると気持ちが良くなって止められなくなると。
その時に例で挙げられたのが、雨が降っても散歩やジョギングを休めないケースでした。
それを思い出しました。私はモル(モルディブ)中です。
Commented by saheizi-inokori at 2019-02-28 15:28
> ebloさん、私は若い時でも百メートル泳げたかどうか、奥松島で溺れそうになつたことはありますが(波に連れていかれて)。三千なんて魚座ですね、あ、私がそうだ。
Commented by そらぽん at 2019-02-28 16:24 x
ざわざわと心定まらずの世界に生きて 記事が心に沁みます

お嬢さまの「茶を淹れようか」そしてお祖母さまのお言葉。 
「どんなに忙しくても 一杯のお茶を飲むもんだよ」
日本から持ってきた親の旅箪笥を引っ張り出してみようかな
Commented by saheizi-inokori at 2019-02-28 16:27
> そらぽんさん、実際は「ちやーのむー?」が多かったです。
Commented by そらぽん at 2019-02-28 16:36 x
うふふ よいなー!
Commented by saheizi-inokori at 2019-02-28 16:47
> そらぽんさん、なぜかお茶の好きな娘、今はのんびり飲んでいる暇はないかな。
Commented by ppjunction at 2019-02-28 18:50
茶道具いれ、確か「茶櫃 チャビツ」では無いかと。。。

男の上等な「遊び」だった茶の湯ですが、いつから女に場を取られたのでしょうね。男性の茶会は渋くて良いモンですがー。
Commented by saheizi-inokori at 2019-02-28 20:23
> ppjunctionさん、そうですね、さいきんとみに名前が出て来ないのです。
私は茶会の経験は残念ながらありません。
憧れはありますが。
Commented by takoomesan at 2019-02-28 20:24
美味しい茶はいいもんだ。海の外に居てると有り難みが良くわかる。
Commented by sweetmitsuki at 2019-02-28 21:00
佐平次さんの記事を読んでどうして利休が秀吉に切腹させられたのか、ちょっとだけわかったような気がしました。
独裁者(アベ)に逆らう奴は切腹じゃ~。
Commented by saheizi-inokori at 2019-02-28 21:36
> takoomesanさん、そうでしようね。
ゆっくり淹れたお茶は安いものでも玉露の味がします、甘露甘露。
Commented by rinrin1345 at 2019-02-28 21:37
関東は乾燥してて喉が乾きますね。お茶もコーヒーも飲みすぎると寝れなくて、塩こぶを入れてこぶ茶にして飲んで来ました
Commented by saheizi-inokori at 2019-02-28 21:37
> sweetmitsukiさん、トランプも今コーエンをどうしたことか!と歯ぎしりしているのでしょう。
Commented by saheizi-inokori at 2019-02-28 21:43
> rinrin1345さん、我が家はデカフエ、カフェインレスですが夜は飲みません。
それなのに酒を飲まなかった(めったにない)晩御飯のあとは緑茶を飲むんです。
コーヒーは眠れなくなるという思いこみもあるけれど、なんか緑茶は気持ちを落ち着けます。
Commented by j-garden-hirasato at 2019-03-01 06:18
こちらのアル(歩)中は、
イイ習慣ですね。
Commented by saheizi-inokori at 2019-03-01 06:21
> j-garden-hirasatoさん、はい、気持ちがいいです。
Commented by 平名 at 2019-03-01 12:31 x
 茶の習慣 心に余裕を持たせるか、、 只、儀式化し過ぎか!?
西洋でも三時の紅茶かコーヒー特にイングランドでか、、
 紅茶の税金がUSAの独立へ  お茶を濁す話⁉
Commented by saheizi-inokori at 2019-03-01 12:47
> 平名さん、私の茶は無作法そのもの、心で飲むなんちゃつて。
ヘソで沸かした茶です。
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by saheizi-inokori | 2019-02-28 11:06 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(20)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


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