東京地獄を抜けて日暮里で日が暮れた

きのうはいつもより早く二時頃散歩に出た。
ピンクのセーターを着たがその上にダウンを着たのでナンセンスではあった。
どこにという当てもなく、近所ではない裏通りみたいなところを歩きたいと思って、等々力駅の方にぶらぶら歩いたら、東京駅南口行というバスが来たのでふらふらと乗ってしまう。
乗って、しまったと思ったのは以前このバスで東京駅まで行ったことがあるのだが、途中で降りたくなりそうな場所が思いつかなかったのだ。
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しょうがないので、読みかけの山田風太郎を読むことにした。
ダンテとラ・ロシュフコー侯爵を案内人にして、世界戦争の核爆発で消滅した地球のあおりを食って崩壊した神曲の地獄めぐりをするという、奇想天外抱腹絶倒エログロ反骨辛辣皮肉機知横溢の物語だ。
飢餓の地獄、飽食の地獄を経て酩酊の地獄の途中から読む。

バスは目黒通りの高級外車販売店や家具店を横目に見て、目黒駅から白金を抜けて、桜田通り、慶応義塾大学、東京タワー、高輪、芝、日比谷、皇居、丸の内と、はとバスのように都心の表通りを走る。

小説の地獄には、飢えて死ぬ石川啄木や戦後の闇市場で餓鬼になっていた人々の惨状(地獄に来てまで!)から、小島政二郎、檀一雄、吉田健一、山本嘉次郎などの食通たちが下半身を便器に変身させて、ひたすら貪り食う場面や、稲垣足穂、江利チエミ,黒田清隆、田沼意次、エドガー・アラン・ポーなど名だたるノンベイたちの壮絶悲惨な飲みっぷりが、これでもかこれでもかと描かれる。
有名人、政財界の大物ばかりかシモジモも食らい飲む化け物になっている。

すると窓の外を流れる整然とした日本の栄華のシンボルのような町は見せかけ・張りぼてで、その裏側には、欲望に囚われ破滅の道をひた走る業突く張りや酔いどれ、ブタ化した食いしん坊たちが蠢いているような気がしてくる。
バスに乗っているのは錯覚で、僕も妖僧ラスプーチンの御する馬車に乗って東京という欲望地獄を彷徨っているようではないか。
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東京駅で降りて新丸ビルにトイレを借りに入ると、折しもセール中で殷賑を極めているが、よくみるとそれは血の通った人間ではなくて、「もっと安いものを!もっとたくさん!」と唱えて右往左往する、同じ顔をしたゾンビだった。
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へべれけ地獄のあとは愛欲の地獄に行くのだが、そのあたりからは山手線車内だ。
鶯谷のラブホテルをちらっと見せて日暮里に止まる。
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橋の上から錯綜する電車線路を眺めている親子やオバサンたちの後ろ姿を見て、ようやく山田呪縛から解放された。
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夕焼けだんだんに夕陽がかかりかけているが、あの雑踏に足を踏み入れんか、ふたたび地獄に囚われそうなので、手前で裏道・七面坂に入る。
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「コノ先通行止」「下谷警察」、石けりをする子供の歓声が聞こえた。
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こちらをそのまま左に行くと勝手知ったる根津になってしまうので、もういちど雑踏を横切って西日暮里方に向かう。
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行き止まりの路地が多い。
おや、あれはなんだ?
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お寺の入り口にいろんなものがあって、ゆっくり見たいけれど、夕陽が先を急がせる。
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松林伯圓、知らないなあ。
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富士見坂という、今は興ざめなー富士山が見えなくなって未練たらたら、見えた頃の写真を見せている―坂を歩いて諏方神社にお参りする。
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境内の脇をくだると西日暮里駅。
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当時珍しかった「炉端焼き」を食いに来たのは40年以上も前のことだ。
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喜多八、いつからあったのだろう。
あの喜多八贔屓がやっている店なのか。
串から外して食うのはご法度なんだろうな。
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日暮里から西日暮里まで、一時間足らず、歩き足りない気もしたが、夕焼け小焼けで日が暮れてお家がだんだん遠くなる、カラスは啼いてないけど帰りましょ。
こんどはもっと早く家を出て、あんなバスに乗らないで歩かないとつまらないと反省。
懐かしい「川むら」で蕎麦でもたぐりたい。
考えてみると昼飯もなにも飲まず食わずの半日散歩だった。
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帰宅すると9500歩、等々力まで歩いたのが効いたか。
Commented by comet-opeth2 at 2019-01-06 11:44
明けましておめでとうございます
今年も楽しみに伺います。
宜しくお願いします。
Commented by saheizi-inokori at 2019-01-06 12:15
> comet-opeth2さん、ありがとう!よろしくお願いいたします。
Commented by テイク25 at 2019-01-06 13:55 x
「すると窓の外を流れる整然とした日本の栄華のシンボルのような町は見せかけ・張りぼてで、その裏側には、欲望に囚われ破滅の道をひた走る業突く張りや酔いどれ、ブタ化した食いしん坊たちが蠢いているような気がしてくる。
バスに乗っているのは錯覚で、僕も妖僧ラスプーチンの御する馬車に乗って東京という欲望地獄を彷徨っているようではないか。」
この一節がいいですね。「神曲崩壊」を読んだ事はありませんが、佐平次さんのこの表現で妙に納得しました。同じ顔をしたゾンビの群れからさっと身をかわしたのは流石ですね。
Commented by saheizi-inokori at 2019-01-06 14:39
> テイク25さん、正月そうそう、面白いけどちょっと怖いお話を読みました。
Commented by jarippe at 2019-01-06 15:39
東京の下町路地など歩いてみたいものです
Commented by saheizi-inokori at 2019-01-06 16:29
> jarippeさん、なかなか楽しいですよ。
Commented by そらぽん at 2019-01-06 18:58 x
「線路を眺める親子やオバサン達の後姿」とピンクのセーターが
クリスマスに、youtubeで観た10年前のドラマ
[BSF] Sayonara Bokutachi no Youchien の 
アメと青い夜を思わせてくれました~
Commented by doremi730 at 2019-01-06 19:07
こちらでのご挨拶がおそくなりました。
新年おめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。

面白そうな本に引き込まれました♪
続きの愛欲編も楽しみにしております。
Commented by saheizi-inokori at 2019-01-06 21:47
> そらぽんさん、見ていませんがさぞかしロマンチックな場面なのでしようね。
かつて払暁にブルートレインが雪を乗せて帰ってくるのを見たのは、ここだつたか、オバサンたちはそれぞれの思い出に重ねていたのでしようね。
Commented by saheizi-inokori at 2019-01-06 21:51
> doremi730さん、愛欲編はちょっとここに引くのは憚れます。
古今東西の性豪の哀れとも言うべき姿が見られるのです。
松本の古本屋で買った本です。
Commented by j-garden-hirasato at 2019-01-07 06:46
変則的な気ままなお散歩、
こういう楽しみ方は、
東京だからこそ、ですね。
Commented by at 2019-01-07 06:49 x
「川むら」は志ん朝が通った蕎麦屋。「んまいねぇ」なんて聞こえてきそう。
菊之丞がプロデュースする「大古今亭まつり」がありますが、
東京落語界の二高峰(柳家と古今亭)の切磋琢磨が期待されます。
Commented by saheizi-inokori at 2019-01-07 07:40
> j-garden-hirasatoさん、そうかもしれませんね。交通網が助けてくれます。
Commented by saheizi-inokori at 2019-01-07 07:44
> 福さん、あのジャズ喫茶も近く、あれ?この間は見なかったなあ。まだあるのか。
古今亭が盛り返しているのかな。
Commented by ru-ji8 at 2019-01-07 10:03
はじめまして。まだ拝見初心者(?)ですが、今日のは次々懐かしい所が現れて来て嬉しく楽しくなってしまいました。それと山田風太郎も懐かしく愛読した日々を思い出しました。この著者の
『人間臨終図鑑』が最高興味深かったです。私のブログは「樹と花と」といいます。よろしくお願いいたします。
Commented by saheizi-inokori at 2019-01-07 11:24
> ru-ji8さん、いらっしゃいませ、新年早々に新しいお客様を迎えて嬉しいです。
「人間臨終図鑑」とダブル臨終場面もあるかもしれません。
彼の戦中戦後日記は貴重な文献になっているのではないでしょうか。
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by saheizi-inokori | 2019-01-06 09:54 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(16)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


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