私たちはなにも知らなかった 「ゲッペルスと私 ナチ宣伝相秘書の独白」(ブルンヒルデ・ポムゼン+トーレ・D.ハンゼン)

近くの路上で小1の子がバスに轢かれて亡くなった。
テレビで世田谷の道路事情を後追いで報道しているせいもあって、あったこともないその子のこと、親たちのことがとても気の毒で胸が痛む。
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ゲッペルスの秘書をしていた女性が104歳のときに語った「あの頃」のこと。
あのころと似た無関心は、今の世の中にも存在する。テレビをつければ、シリアで恐ろしい出来事が起きているのはわかる。たくさんの人々が海で溺れているのが報道される。でも、そのあとテレビではバラエティ・ショーが放映される。シリアのニュースを見たからといって、人々は生活を変えない。生きるとはそんなものだと私は思う。すべてが渾然一体になっているのが、生きるということなのだから。
彼女がいうことに頷いてしまいたくなるかもしれない。
でも、そうして「バラエティ・ショー」を見ている間に、過激な少数派は、自分たちの世界像に合わない人々に対するスローガンで非難と憎悪を煽り、あの頃はナチスが登場し、今は世界、もちろん日本も排外主義・軍国主義的に変わりつつあるのだ。
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親切な優しい紳士とみえたゲッペルスが「諸君は総力戦を望むか?」という演説で聴衆を熱狂・興奮させたとき、彼女は
その瞬間私は、ゲッペルスをとても恐ろしいと思ったわ。恐怖を感じたの。でもそれをまた心に封じ込めてしまった。
いま、トランプが、トルコのエルドアンが、ドイツではペギーダやAfDが、オーストリアではホーファが、そして日本会議では、同じような熱狂が見られる。
自分が極右思想であるかどうかに関係なく、彼らの狙いはわれわれを包みこみ、気がついたときは、身動きが取れなくなっている。
1933年より前は、誰もとりたててユダヤ人について考えていなかった。あれは、ナチスがあとで発明したようなものだった。

人々にとって最大の関心事は、仕事とお金を得ることだった。第一次世界大戦でドイツはすべてを失ったうえ、ヴェルサイユ条約でペテンにかけられた。私たちはのちに、そう聞かされた。
ヒトラーについて行けばどんなことになるのか、人々はかけらも理解していなかったのよ。
現在の日本人にとって、怖いことを彼女はいう。
ドイツは指導者を欠いていた。そういう人間が、誰一人いなかった。だからこそヒトラーは、あんなにもやすやすと勝利できた。
「ほかに適当な人がいないから」、ヒトラーを選ぶようなことがあってはならない。
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面倒くさいからといって中身をあけもしないで捨ててはならない。
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いい気になって酔っぱらっているうちに食われてしまうかもしれない。
「それをまた心に封じ込めて」はならない。
「生きるとはそんなもの」ではない。

森内薫+赤坂桃子 訳
紀伊国屋書店
Commented by jarippe at 2018-12-19 13:47
最近なぜかむなしい気持ちがこみ上げて来ます
自分でも何だかわかりません 家族に何かあったわけでもなく
健康を害しているわけでもないのに
地方では皆さん必死で生きています 年寄りたちは地域のために
子や孫たちがとどまってくれるように
貧乏しながら壊れそうな体で頑張っています
なんだかそういうのがむなしい気がしてしまいます
新しい年を軽やかに小さくても望みをもって迎えたいのです
Commented by saheizi-inokori at 2018-12-19 16:21
> jarippeさん、私は年のせいもあって虚しく感じる日が多くなりました。
でも高齢化社会にあって私たちが投げやりになるのを喜ぶ奴がいると思うと、なんとか元気を出して暮らして行こうと思います。
Commented by haru_rara at 2018-12-19 22:29
あの事故はご近所だったのですね。痛ましいです。

「人々にとって最大の関心事は、仕事とお金を得ることだった。」
今もそうですね。
私たちは歴史に学ばなくてはならないのに。
子どもたちの未来を奪わないために。
Commented by saheizi-inokori at 2018-12-20 06:03
> haru_raraさん、しかもあの頃のドイツは貧しく飢えていたのに今の日本は飽食の時代なのに。


Commented by j-garden-hirasato at 2018-12-20 07:08
「中身入り」とは、
どういうことでしょうか。
Commented by saheizi-inokori at 2018-12-20 08:05
> j-garden-hirasatoさん、缶や瓶の中身を捨てないでゴミに出したということでしょう。

Commented by ほめ・く at 2018-12-20 11:33 x
三谷幸喜の戯曲「国民の映画」はゲッペルスを主人公にしたもので、ゲッペルスは大のハリウッド映画好き、夫人はエーリッヒ・ケストナーのファンだったという人物設定になっています。
「ファッシズムは笑顔でやってくる」恐ろしさを描いたもので、三谷はこの作品を通じて「今の日本でも十分成立するような物語にした」と語っていました。
Commented by テイク25 at 2018-12-20 11:40 x
この映画を観ようかどうか迷っているうちに観そこなってしまいましたが、この本は読んでみたいです。

ナチス台頭の時代と今の世界がぴったり重なる気がしていますが、幸いなことにこうして私たちは過去を学ぶことが出来ますね。アベたちは違う学び方をしているのでしょうが、市民は本や映画や講演などで、またはインターネットによる情報を選び取って、愚かだった過去に戻らないように必死で歯を食いしばっています。負けそうだけど負けないと・・・。
Commented by saheizi-inokori at 2018-12-20 12:44
> ほめ・くさん、安倍の平べったい笑顔!
ああ、気色悪い!
Commented by saheizi-inokori at 2018-12-20 12:49
> テイク25さん、学んでいる人たちがどれほどいるのか。
辺野古の署名が急速に集まったことは希望を感じさせました。
安倍たちが学んでいる、ずる賢くなっていますね、独裁と見せないように。
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by saheizi-inokori | 2018-12-19 10:01 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(10)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori
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