亡き妻に捧ぐ 大城立裕「あなた」
2018年 12月 04日
三ヶ月ぶりかな、横浜の眼科医へ。 「小説 琉球処分」や「カクテルパーティ」(芥川賞受賞)の作家が92歳で発表した中編集の冒頭の作品「あなた」は、60年に渡って作者と共に歩み、支えてきた亡き夫人の思い出を切々と語る。
いつもの朝飯を食べて待合室に上がって見れば、椅子に座りきれずに壁沿いや廊下に一杯の患者。
洗濯機だけ回して飛び出す。
東横線には座れなかったけれど、単行本を読めるほど空いている。
日吉、武蔵小杉などで、窓越しに見える上りホームは、お祭りでもあるかと思うほどの人人人だ。
長野から東京の大学に出てきて、夏休みなどで帰省してふたたび上京したときに赤羽駅のホームを見て驚いたのと同じ、ラッシュアワーに無縁な隠居、まして奈良井宿や松本の蔵造りの街に遊んで来た身には、むしろ懐かしい青春の感慨だ。
琉球士族の教養を秘めて、お見合いのあとの「デート」で、「わたし、一所懸命やります」と言った夫人のありようは亡妻を彷彿とさせた。
主人の仕事について、その社会的立場の浮き沈みには恬淡として、苦しい家計をやりくり(大城はなんども胆嚢炎を再発し復帰前なるがゆえに保険の利かない久留米の病院で死線をさ迷う)しながら二人の男の子を育てる。
役所と作家の二足のわらじをはく大城の書斎に幼い子供たちが入ることを禁じる。
大城が台湾の土産に40万円をこす宝石を買って帰ったときは、彼女が唯一心底怒ったときだ。
僕もバーゲンでブランド物のジャケットを半額(三万円くらい)で土産に買って帰ったときに亡妻はしばらく口もきいてくれなかった。
「まるでわかっていない」と。
大城が亡き夫人に心から感謝し、してやれなかった(些細な)あれこれを挙げて悔しがっている気持ちがしみじみとわかる。
こんな小説を書けない僕はこれをもつて亡妻に「俺も右に同じだよ」と報告しよう。
やれやれ都会の生活だ。
Commented
by
kanekatu at 2018-12-04 10:54
妻には日ごろから感謝感謝なんですが、これが言葉に出して言えない。ダメですねぇ。落語の「替り目」の亭主の気持ちが良くわかります。
0
Commented
by
saheizi-inokori at 2018-12-04 11:21
> kanekatuさん、この小説を差し上げたらいかがですか。
Commented
by
ikuohasegawa at 2018-12-04 17:54
「俺も右に同じだよ」今からチョッと努力するね。
ここに書いてもだめか。
ここに書いてもだめか。
Commented
by
saheizi-inokori at 2018-12-04 19:05
> ikuohasegawaさん、察するにお宅はしっかりご主人も働いているし感謝の念も伝わっていると思います。
Commented
by
hanamomo60 at 2018-12-04 22:10
こんばんは。
川本三郎さんも7歳年下の奥様をなくされました。
彼女はまだ57歳でした。
その奥様の事を書いた『いまも君を想う』を読んだことがあります。
やっぱり川本さんも奥様には褒められたり、しかられたりでした。
はて、夫は感謝しているのだろうか?
川本三郎さんも7歳年下の奥様をなくされました。
彼女はまだ57歳でした。
その奥様の事を書いた『いまも君を想う』を読んだことがあります。
やっぱり川本さんも奥様には褒められたり、しかられたりでした。
はて、夫は感謝しているのだろうか?
Commented
by
saheizi-inokori at 2018-12-04 22:16
Commented
by
doremi730 at 2018-12-04 23:28
Commented
by
j-garden-hirasato at 2018-12-05 07:03
Commented
by
saheizi-inokori at 2018-12-05 09:52
Commented
by
saheizi-inokori at 2018-12-05 09:53
Commented
at 2018-12-06 12:36
x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented
by
saheizi-inokori at 2018-12-06 12:51
> 鍵コメさん、そうです。一緒に暮らすための家を探している内に発病しました。
亡くなるまでに地価が下がり二人で探していたときには手が届かない所に住めました。なんとも言えない気持ちでした。義母が引っ越した家に来たときの気持ちはもっと切なかったと思います。
亡くなるまでに地価が下がり二人で探していたときには手が届かない所に住めました。なんとも言えない気持ちでした。義母が引っ越した家に来たときの気持ちはもっと切なかったと思います。
Commented
at 2018-12-06 17:49
x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented
by
saheizi-inokori at 2018-12-06 22:10
Commented
at 2018-12-07 11:47
x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented
by
saheizi-inokori at 2018-12-07 12:03
> 鍵コメさん、了解です。
by saheizi-inokori
| 2018-12-04 08:11
| 今週の1冊、又は2・3冊
|
Trackback
|
Comments(16)