行ってみよう「水の匂いがするようだ 井伏鱒二のほうへ」(野崎歓)
2018年 11月 27日
「山椒魚」が切り開いたのは、極度に貧しい生活を強いてくる、ヘルダーリン風にいうならば「乏しい時代」のただ中にあって、耐え忍ぶこと自体から愉悦を引き出す散文の技法であり、自己自身を辛抱強く護り続ける生存の流儀なのである。ゴーンとやらには逆立ちしても理解できないだろうなあ、「自己自身を辛抱強く護り続ける生存の流儀」!
井伏鱒二の初期の傑作についての野崎歓の評言である。
ゴーンは無理としても、昏迷、先が見通せない、なんとなく暗い予感のなかで生きていく”貧しい”(ひょっとしてクレジットカードも持てない)若者たちに井伏を薦めたい。
夏目漱石、森鴎外、内田百閒、辰野豊、後生大事に持ち歩いて読んでいない。
全集を買うと「いつか老後にゆっくり」と思って、そのままになっている。
いつか、でなくて今でしょ、老後真っ盛りなのに。
今から心を入れ替えて、持てる全集を踏破しようとしたって裾野にすら辿り着けないじゃないか。
きのう読み始めて、明日が図書館の返還期限なのに半分も読んでいない。
今日は忙しいし、、それならばアマゾンだ、さっそく発注完了、本書を導きとして完全踏破とまではいかなくても、月に二三編は読んでいこう。
井伏が苦しみ楽しんで訳したドリトル先生シリーズ(原作の紹介者である石井桃子が「頭が二つで胴体が一つの珍獣、押しっくらをしているけものの名前」といったら、即座にPushmiーPullyuを「オシツオサレツ」と訳した)全13巻が店頭に並んでいるのは日本だけだ。
その訳は井伏が「傾倒」していたからだと野崎はいい
第一次大戦中に西アフリカに出征した(原作者)ロフティングが「実戦の塹壕のなかで吾が子を楽しませるために書いた童話」である点に「私は興味を覚えるのである」と井伏が書いているのを紹介し
1941年という日本が全面的に戦争に突入した時点において、この物語の翻訳が井伏にとって一種の抵抗としての意味をもたなかったはずはない。と指摘する。
標準語・都会言葉を吊るしあげて、懐かしい里の言葉を使う女に揺るぎない日常のモラルを見る井伏が、作家として彼らの言葉を「訳述」するについては、対象として観察し描き出す人々の生に対する大きな敬意と愛着を支えとしていた。
井伏の作品の進展を追うことは、その敬意と愛着の深化をたどることに等しい。さて、僕も遅ればせながら追いかけようか、よたよたと。
集英社
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tona
at 2018-11-27 16:17
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全く今でしょう!ですね。全集を見て同じ思い。
ゴーンと井伏鱒二が並んでいやはや、とても考えが及ばなかったです。
ゴーンと井伏鱒二が並んでいやはや、とても考えが及ばなかったです。
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saheizi-inokori at 2018-11-27 16:21
> tonaさん、あの人はどんな本を読むのでしようか。文学とは縁がなさそう、でも人は見かけに寄らないから、、。
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k_hankichi at 2018-11-27 21:33
「山椒魚」のほかは、雑にしか読んでいませんでした。たしかに今、井伏を読む時間かもしれません。読んでみたい。
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saheizi-inokori at 2018-11-27 22:04
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福
at 2018-11-28 06:33
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>「乏しい時代」のただ中にあって、耐え忍ぶこと自体から愉悦を引き出す散文の技法であり、
これ、散文を話芸に変えれば志ん生でしょうか。
オシツオサレツは愚かにも子供の頃は原作のまんまと勘違いしておりました。
これ、散文を話芸に変えれば志ん生でしょうか。
オシツオサレツは愚かにも子供の頃は原作のまんまと勘違いしておりました。
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saheizi-inokori at 2018-11-28 08:14
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maru33340 at 2018-11-29 08:04
気になっていた本でした。
読みたいと思います。
読みたいと思います。
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saheizi-inokori at 2018-11-29 08:41
> maru33340さん、明晰な文章で説得力があります。
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buribushi at 2018-11-29 10:20
わたしナマイキにも内田百閒の初版本かなり持っていましたが、身辺片づけなくては・のトシで(1937年生)手放して仕舞いました。文庫本があるからいいや、と思ったんですけど、やっぱり気分が違う。文章がおなじならいいというもんじゃなかったです。
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saheizi-inokori at 2018-11-29 13:50
> buribushiさん、私も若い頃初刊本を集めたこともありますが、ほとんど散逸してしまいたした。百間全集は持っていますが文庫本で読むことが多いです。あまりにも大きく厚いので。
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urontei at 2018-12-01 08:44
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saheizi-inokori at 2018-12-01 08:53
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ウイークエンド
at 2019-03-01 10:04
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野崎歓、井伏鱒二、そして ブログ主さま の文章の混ざり合いが非常に気持のいいものでした。野崎歓さんの本については「翻訳教育」とか「赤ちゃん教育」とか、快楽のうちに読んできましたが、「水の匂いがするようだ」も読んでみます! ありがとうございました!
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saheizi-inokori at 2019-03-01 12:27
> ウイークエンドさん、過ぎたるお褒め、恐縮です。
by saheizi-inokori
| 2018-11-27 11:17
| 今週の1冊、又は2・3冊
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Comments(14)