時効は殺人犯を許すのか レイフ・ＧＷ・ペーション「許されざる者」

ラジオからベートーヴェンの第九、先日も聴いたばかり、再放送なのだ。
合唱が流れるなかをいろいろやるってゼイタクなことだと思う。
中学生のとき、僕がクラシックも好きだと知ったお金持ちの女の子が、家にはレコードがいっぱいあるから聴かせてあげようかというから、ご招待かと思ったら、電話口にかけるから聴いてね、だと。
もちろん公衆電話しかない、あいつバカにしやがったのか、それともマリーアントワネットだったのか、といまさら思い出す。在庫一掃、大臣のことではなくて、図書館から借りた本がたまり始めて返還期限に間に合わなくなりそうだ、というわけで昨日は一日寝ころがってこれを読んだ。
文字通り一日中、散歩にもでないで５６６頁を読み終えた。
手術後、裸眼でも読めるのだが、本書は活字が小さいので込み入った漢字が読みにくい。
２時間ほど読み続けて、待てよ、手術前に使っていた読書用の眼鏡を取り出してみたら、よくみえた。
うまいことみつけた、と３時間もそれで読んで、７時のニュースが始まる、そろそろお風呂に入ったら、とカミさんがいうころ漸く読み終えて眼鏡をはずしたら、テレビがぼやけてものが二重三重に見える。
長時間続けたのがいけなかったのか、くわばらくわばら。
小説は、それだけ夢中になって読ませるだけあって面白かった。
引退した「角の向こう側が見通せる」という評判をとった伝説の元国家犯罪捜査局長官が脳閉塞で倒れたあと、闘病・リハビリをしながら、古い捜査資料を取り寄せ（今でも「長官」と畏敬の念を込めて挨拶される）、その事件にあたった親友の捜査官の話を聞いたり、先祖探しが趣味であり仕事でもある会計士の義弟を使い、その他もろもろの人びとの援けを得て（好かれているからできる）、９歳の女の子をレイプして殺した男を追う。

法改正がわずかなタイミングで間に合わず時効が成立、捕まえても訴追できない。
それでも「許されざる者」をひたすら追いかける。
徐々に明らかになってくる殺人犯のイメージ、捕まえたらどうする？
殴り殺すのか、それが問題だ。

支援者グループのなかでも、親友と銀行の役員をしている優しい妻、刺青やピアス・わっかだらけでも美しくて賢くて機敏な介護の女の子と「誰にも喧嘩で負けたことがない」というロシアの孤児収容所からきた青年が、最強のチームだ。
おっと、豪快にして狡猾な実業家の兄も外せない。
心臓に重篤な疾患を抱えて、食事の節制やストレス回避・安静を命じられても「残りの日にちを数えて生き続けたくない」とスエーデンのうまいもの・ニシンやサーモンを食い、ワインを飲み、肥り続けながら頭を使う。
「白い錠剤」の世話になり不安を殺して眠る。

僕は強く感情移入をして、おい、そこは我慢しろよ、などと呼びかけたりする。

壊れた社会の悲惨な子供たちのことも語られる。
駒沢給水塔（写真はいずれも一昨日）。
民間なら大丈夫なんて誰がいえる？論より証拠、それが自動車業界の不正じゃないか。
水道事業の民営化反対！

久山葉子　訳
創元推理文庫