ヤバイぞ爺さん

吞兵衛だけど結婚して子供が生まれてからは昼の一人酒は(原則として)やらないことにしている(気の合った連中との旅先ではそのタガを外す喜びがある)。
新婚当時の日曜日は朝からちびちびやったこともある、なんかヘンな気取りもあったな。

テレビや紀行文などで一人で昼下がり(朝でもいいけれど)の酒を楽しむのを見聞きすると、いいなァ、と思うけれど、自分ではやらない。
晩酌がまずくなる、なんて百閒みたいなことを思ってのことではなく、アル中に対する自戒であり、飲んじゃうとだるくなって後の半日がかえってしんどくなるような気もする。
隠居になってから、散歩の出先でチョイといっぱいやりたいような店を見つけても縁なき衆生を決め込んでまっすぐ帰る。
これは、晩酌への気兼ねもあるし、飲み始めて気分が乗ると、とくに美形なんかがいたりすると止まらなくなるのではないかという自己管理力に対する不信のせいもある。
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その禁を会津田島からの特急で破った。
それは、帰りの特急を待つ田島駅で、ニューヨーク研修旅行グループへのラインで「会津ナウ」みたいな記事を発信したら、こっち出身の若者から「花泉」を飲むようにというアドバイスがあったからだ。
「男山」「国権 小法師」「會津あらばしり」「てふ」などは飲んだが「花泉」は飲んでない。
義理人情に篤い僕としては後輩の懇篤なるアドバイスを無には出来ず、弱ったなあとおもったら、
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一枚200円のコインを入れて飲みたい酒のボタンを押すと70ccの酒が注がれる、AIもびっくりの自販機に「花泉の原酒」があるではないか。
むかし山形の駅前広場にちょっとした小屋があってその中はぐるっと燗酒の自販機、50円だったかを好きな酒の穴に入れると特級酒なら70㏄、一級なら100㏄、二級酒なら150㏄みたいな塩梅でとくとくと酒が出る。
乾き物なんかを売ってる、これはオバサンがいて、スルメなんかをしゃぶりながら帰りの列車を待ったのを思い出す。
この時は独身、もちろん昼酒だ。
時うつり半世紀を閲して今、往時の会津のことどもを懐旧した旅の終わりに田島の駅で自販機の昼酒を飲むのは、これは原点回帰だ!

70ccで寝た子が起こされて、14時57分発、浅草行きの特急列車の僕の席に写真のような「會津金紋」の300ccが乗ったのは至極当然の成り行きであった。
今もあるだろうか、ウイスキーのポケット瓶についていたような小さなキャップの猪口に静かにこぼさないように注いで、舐めるように飲む。
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窓の外に流れる紅葉の山や蒼き水を湛える川、やさしき人ばかりが住んでいるだろう家々、あの煙は夕餉の支度だろうか、はしゃぐ子供の声が聞こえるのは幻聴ではあるまい。
ぱっとみえた道路標識には「魚沼・桧枝岐」とある、それぞれに貧しいかもしれないけれど豊かな暮しがあるのだろう。
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陽が落ちると山も田んぼも家も、黒い影になってしまう。
こうしてみると、人が暮らすための灯りのなんとかそけく頼りなげで、しかもそれでいて温かそうなことよ。
常温の酒はうまいなあ。
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たった二合にも満たない酒を2時間もかけて飲み終えたのは都会が始まる栃木をすぎたあたり。
土産や汗に濡れた着替えで重くなったリュックを背負ってもちゃんと歩けるような酔いだ。
こりゃあ、エライことに目覚めたか、味をしめたらこの爺さんヤバイぞ。
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ちょっとご無沙汰をした「いつもの木」、無愛想に迎えてくれた。
Commented by unburro at 2018-11-12 11:39
シメ、まで心地良い旅でしたね。
心地酔い、かな(笑)

益々、旅心が疼きます…
Commented by saheizi-inokori at 2018-11-12 11:41
> unburroさん、けさもまだ酔ってるのかな。心酔い。
Commented by kogotokoubei at 2018-11-12 12:19
なんとも羨ましい限りの旅。
次の居残り会で、じっくりお土産話を聞かせていただきます。
Commented by saheizi-inokori at 2018-11-12 12:31
> kogotokoubeiさん、話せばどうってことのない他愛ない老人旅行ですよ。
Commented by そらぽん at 2018-11-12 13:37 x
自らのルールをちょいと越えたり 戻ったり
自在な酔い心地とは 贅沢なロマンですね  
黒い帳に人の暮らす灯りを見ながら 常温の酒を愉しむ~
口跡と景色の写真にもやられました! 
Commented by saheizi-inokori at 2018-11-12 14:05
> そらぽんさん、どうも日頃の私は急いで飲み過ぎているようです。
お猪口を小さいのに変えてみましよう。
Commented by doremi730 at 2018-11-12 18:08
旅窓を肴に美味しいお酒で、羨ましい♪
Commented by saheizi-inokori at 2018-11-12 21:42
> doremi730さん、暗闇に溶けていくような気分にもなりました。
Commented by hiromama2015 at 2018-11-12 21:49
お酒が好きだった父を
思いだしました。
定年して家に居るようになってからは
昼はビールを飲んでいましたねぇ~。
私も若い頃はそんな父の姿は見たく
なかったのですが 今 父の亡くなった
年齢に近くなってくると「生きてる内が華」
人に迷惑をかけないのなら 好きな事を
すればいいよね・・なんて思うのです。

楽しそうなブログを読んでホッコリしました。
ありがとうございました。
Commented by saheizi-inokori at 2018-11-12 21:52
> hiromama2015さん、もうそろそろ肝臓に悪いからよりも、元気な気持ちを持っていることの方が大事になってきました。
Commented by jarippe at 2018-11-13 06:05
旅を楽しまれたご様子ビンビン伝わってきました
晩秋もいいものですよね ぶらり旅憧れます
森繁久彌さんが言っておられたそうですが
俳優は哀愁 色気 品格が必要だと
俳優でなくともsaheiziさんは全ておもちですね 更に粋まで
Commented by ikuohasegawa at 2018-11-13 06:30
私も昼の一人酒はほとんどいたしませんが、こういう文章を読むのは大好きです。
Commented by j-garden-hirasato at 2018-11-13 06:45
おおー、
こんな販売機がありますか。
初めて見ました。
これは、スゴイ!
酒を売りにするなら、
導入すべきですね。
Commented by at 2018-11-13 06:45 x
時間の経過と気持ちの経過が酒を飲むときに強く感じられます。
電車だから景観の経過もある。
浅草や上野は昼飲みの店がたくさんあって、驚かされたのは「まだ夜まで間がある、つないでなくちゃ」と言った30代半ばの男の独り言でした。
Commented by saheizi-inokori at 2018-11-13 10:19
> jarippeさん、おやまあ、見ている分には哀愁はあるのでしょうが、ほかはなにもないゲス爺さんですよ。
でも旅は楽しかったなあ。
こんどはカミさんとサンチを連れて松本に行こうと思います。
Commented by saheizi-inokori at 2018-11-13 10:22
> ikuohasegawaさん、車ですからね。
蕎麦屋の昼酒なんて最高ですが、公園際のカフェなどでビールを飲んでいるオジサンも羨ましがってないで、こっちもやってみようかな。
Commented by saheizi-inokori at 2018-11-13 10:23
> j-garden-hirasatoさん、有楽町にもかつてあったような気がします。
燗酒がでるともっといいのですが。
Commented by saheizi-inokori at 2018-11-13 10:26
> 福さん、今や、都内のあちこちに昼間酒の店が見当たります。
私のような老人と無職者が増えたからでしょう。
ウマイ蕎麦屋で粋に一本の昼酒の風情はありません。
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by saheizi-inokori | 2018-11-12 11:25 | よしなしごと | Trackback | Comments(18)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


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