傑作だ堪能するぜ アンソニー・ホロヴィッツ「カササギ殺人事件」

昨夜は1時半ころ目が覚めて落語を聴いたけれど眠れないのでミステリを読んだら、さいごの種あかしが面白くて、読み終えてしまった。
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ロンドンの女性編集者・スーザンが自分が担当する、ベストセラー、名探偵アティカス・ピュント・シリーズの第九作「カササギ殺人事件」の原稿を受け取って、ワインのボトル、トルティーヤ・チップスの大袋・ホット・サルサ・ディップの瓶、煙草をひと箱、外は雨、最高の組み合わせで巨大なTシャツを着て皺くちゃのベッドに寝転がって読み始める。

その小説を読むことで彼女の人生のすべてが変わってしまった。
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(きのう見つけたカフェ、窓際の大きなソファを占有して「カササギ殺人事件」を読んだ)

彼女が読み始めると、なんと凝っていることか、アラン・コンウェイ作、名探偵アティカス・ピュントシリーズ「カササギ殺人事件」の本扉
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作者の紹介、シリーズの既刊リストとシリーズに寄せられた絶賛の声や
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登場人物の紹介というお馴染みのページが続くのだ。
僕はもう騙されてしまう、ほんとにこういうシリーズがあるのかと。
だから、アティカス・ピュントが脳腫瘍で余命いくばくもないと読むと、今までのシリーズ作品を読みたいと思ってしまう、それほど最初からアガサ・クリステイを思わせるクリスティに対するオマージュが散りばめられた、ぞくぞくするような小説世界なのだ。

上巻の終わりまでがアラン・コンウエイの「カササギ殺人事件」で、4人が死んで、村の人たちの多くが容疑者のようだ。
いよいよ、探偵ピュントが真相を述べようとするところで、原稿は終わって下巻に移る。
ここまでで上巻の真相は?僕にはわかるはずもない。
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下巻では作者のアラン・コンウエイが自邸の塔の上から落ちて死ぬところから始まる。
遺書を遺しているし、不治の病で余命いくばくもないことが動機だとみなされるが、スーザンは、アランは殺されたとみる。
こんどはスーザンが探偵役となって、亡くなった原稿(解決編)を探し、アラン殺害の謎を解く。
上巻のアランが創作した1955年の事件と下巻の現代の事件との相似形も凝っている。
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(カキが届いた!)

この小説の面白さは、上に挙げた「絶賛の声」(字が小さくてごめんなさい)の通り(ほんとの作者・ホロヴィッツの自信のほど!)、「英国のミステリに望むもののすべてがあり、端正で知的、そして意表をつく結末」「探偵小説の黄金時代に連れもどし、そもそもの始まりがどんなだったかを思い出させてくれる」ところにある。
英国流ユーモアもたっぷり、たとえばスーザンはクリステイの孫に会う場面があって、彼からアガサがポワロシリーズの終わりごろ、どれだけ自分の生みだした名探偵を嫌っていたか
「あの憎ったらしい、仰々しい、退屈で、自己中心的な、いけ好かないちび男」
と呼んでいたと聞く(きっとほんとにそんなエピソードがあるのだろう)。
天才・アガサはもっといろいろ書きたかったが、出版社が書かせてくれなかったということで、なんとこのエピソードが本筋の重要なヒントになってくる。
地雷のように埋め込まれた手掛かりはフェイクであってもそのままにはできない。
暴発に注意しながらひとつひとつ解釈をして除去せねばならない。

入れ子になっているふたつのミステリがどう交錯するのか?
アクロバティックな解決が待っている。
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(日体大は三日間文化祭)

ミステリに関する蘊蓄も横溢、好き者にはたまらないだろう。
たとえば、こんなくだり。
作家がたまたまひねり出した名前が、その豊かな物語世界の象徴となることもめずらしくはない。もっとも有名な例は、シェリンフォード・ホームズとオーモンド・サッカーだ。もしもこんな名前のままだったら、もしもコナン・ドイルがもう一度だけ考えなおし、シャーロック・ホームズとジョン・ワトソン博士という名をひねり出してくれなかったら、はたしてこのふたりは世界じゅうでこんなにも成功を収めることができただろうか。
本書は図書館じゃなくて自分で買った。
どこかに寄付しないで、来年もう一度読んでみよう。
川出正樹の解説が「一読唖然、二読感嘆。精緻かつ隙のないダブル・フーダニット」を表題としていることだし。

山田 蘭 訳
創元推理文庫

Commented by ppjunction at 2018-11-03 16:01
早速注文しました(^-^)
届くのが楽しみで〜〜す。
Commented by saheizi-inokori at 2018-11-03 16:02
> ppjunctionさん、期待できます!
Commented by PC-otasukeman at 2018-11-03 16:11
昨日の「DNS云々」の記事拝見しました。
お見事な対応でしたね。
このようなトラブルは年に2,3回の頻度で発生します。
そのときは、思い出して対応してください。
機械音痴・・卒業ですね。
Commented by saheizi-inokori at 2018-11-03 17:10
> PC-otasukemanさん、いやはや、そちらに駆け込もうかと思ったのですが、待てよ自分でもどれだけ出来るかと、、簡単に済んで助かりました。
Commented by maru33340 at 2018-11-03 17:28
気になっていました。
読みたいと思います。
Commented by saheizi-inokori at 2018-11-03 17:32
> maru33340さん、面白いと思いますよ。
Commented by hisako-baaba at 2018-11-03 22:42
読みたくなっちゃいましたが、上下2巻も読む暇なくて残念!
でも面白そうだなあ。借りて斜め読みしましょうか。
Commented by saheizi-inokori at 2018-11-04 06:11
> hisako-baabaさん、上下2巻もいっぺんに読むのではなくて、順に読んでいくのですがね。
でも久子さんはほんとに忙しそうだなあ。
Commented by j-garden-hirasato at 2018-11-04 08:15
「窓際の大きなソファを占有して…」
そこまで集中していられるもの、
自分にはないかなあ…。
Commented by saheizi-inokori at 2018-11-04 09:05
> j-garden-hirasatoさん、いや、私も窓越しに町を眺めたり、壁に映った映画をチラチラみたり、、それが楽しくもありました。
Commented by テイク25 at 2018-11-04 10:04 x
「無意識の構造」はあと数ページ残し期限切れとなり、スッキリ理解もできなかったので更新することなく返却しましたが、カササギは面白そうなので期限内に読めるか?!
Commented by saheizi-inokori at 2018-11-04 11:40
> テイク25さん、ちょっと更新がなかったので風邪でも引いたかと思っていましたが、忙しいのですね(隠居じやないもの)。
カササギ、上下がうまく来るといいのですがね。
貸出期間が私は障害者だから一ヶ月ですが、テイクさんは半月でしょう?ページターナーではありますよ。
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by saheizi-inokori | 2018-11-03 13:13 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(12)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori