傑作だ堪能するぜ アンソニー・ホロヴィッツ「カササギ殺人事件」
2018年 11月 03日
その小説を読むことで彼女の人生のすべてが変わってしまった。
彼女が読み始めると、なんと凝っていることか、アラン・コンウェイ作、名探偵アティカス・ピュントシリーズ「カササギ殺人事件」の本扉
僕はもう騙されてしまう、ほんとにこういうシリーズがあるのかと。
だから、アティカス・ピュントが脳腫瘍で余命いくばくもないと読むと、今までのシリーズ作品を読みたいと思ってしまう、それほど最初からアガサ・クリステイを思わせるクリスティに対するオマージュが散りばめられた、ぞくぞくするような小説世界なのだ。
上巻の終わりまでがアラン・コンウエイの「カササギ殺人事件」で、4人が死んで、村の人たちの多くが容疑者のようだ。
いよいよ、探偵ピュントが真相を述べようとするところで、原稿は終わって下巻に移る。
ここまでで上巻の真相は?僕にはわかるはずもない。
遺書を遺しているし、不治の病で余命いくばくもないことが動機だとみなされるが、スーザンは、アランは殺されたとみる。
こんどはスーザンが探偵役となって、亡くなった原稿(解決編)を探し、アラン殺害の謎を解く。
上巻のアランが創作した1955年の事件と下巻の現代の事件との相似形も凝っている。
この小説の面白さは、上に挙げた「絶賛の声」(字が小さくてごめんなさい)の通り(ほんとの作者・ホロヴィッツの自信のほど!)、「英国のミステリに望むもののすべてがあり、端正で知的、そして意表をつく結末」「探偵小説の黄金時代に連れもどし、そもそもの始まりがどんなだったかを思い出させてくれる」ところにある。
英国流ユーモアもたっぷり、たとえばスーザンはクリステイの孫に会う場面があって、彼からアガサがポワロシリーズの終わりごろ、どれだけ自分の生みだした名探偵を嫌っていたか
「あの憎ったらしい、仰々しい、退屈で、自己中心的な、いけ好かないちび男」と呼んでいたと聞く(きっとほんとにそんなエピソードがあるのだろう)。
天才・アガサはもっといろいろ書きたかったが、出版社が書かせてくれなかったということで、なんとこのエピソードが本筋の重要なヒントになってくる。
地雷のように埋め込まれた手掛かりはフェイクであってもそのままにはできない。
暴発に注意しながらひとつひとつ解釈をして除去せねばならない。
入れ子になっているふたつのミステリがどう交錯するのか?
アクロバティックな解決が待っている。
ミステリに関する蘊蓄も横溢、好き者にはたまらないだろう。
たとえば、こんなくだり。
作家がたまたまひねり出した名前が、その豊かな物語世界の象徴となることもめずらしくはない。もっとも有名な例は、シェリンフォード・ホームズとオーモンド・サッカーだ。もしもこんな名前のままだったら、もしもコナン・ドイルがもう一度だけ考えなおし、シャーロック・ホームズとジョン・ワトソン博士という名をひねり出してくれなかったら、はたしてこのふたりは世界じゅうでこんなにも成功を収めることができただろうか。本書は図書館じゃなくて自分で買った。
どこかに寄付しないで、来年もう一度読んでみよう。
川出正樹の解説が「一読唖然、二読感嘆。精緻かつ隙のないダブル・フーダニット」を表題としていることだし。
山田 蘭 訳
創元推理文庫
届くのが楽しみで〜〜す。
読みたいと思います。
でも面白そうだなあ。借りて斜め読みしましょうか。
カササギ、上下がうまく来るといいのですがね。
貸出期間が私は障害者だから一ヶ月ですが、テイクさんは半月でしょう?ページターナーではありますよ。