１６歳で割腹する気持ち＆萬斎へのアドバイス

一昨日、室町の「福島館」で馬刺しを買う時にいかにも会津というオーラを感じたレジのオバサンに、５０年前に会津坂下にいたと言ったら、「５０年前ねえ」とオーム返ししたけれど、それほど感動はない、あったりまえでしょ。
会津の人に、私も５０年前に東京にいてねえ、と懐かしそうに言われてもこっちはさしたる感動がないのに、ジコチュウな感動の押し売りだったな。
きのうの「長島茂の会」、金子直樹の解説のあと、狂言「文山賊（ふみやまだち）」

二人の山賊が仲間割れをした挙げ句に果し合い、片っ方がぐいぐい押していくと、痛い痛い後ろが藪だ、ソリャ痛かろうと元に戻る。
このまま死ぬと犬死だから、ふたり並んで座り書置きをする。

今ごろ、家族が俺の帰りを待って支度をしているだろう。
今日は夜噺をする約束、それを果たしてから死にたい、、それぞれ里心がついて命のやり取りをする気持ちが失せる（はなからあったかどうか）。
思えば無用の死をやめて、仲直りして手に手をつないで帰りける。
三つ数えたら同時に刀から手を放そう、なんてとぼけた山賊のやり取りがおかしい。
トランプと金にみせたい狂言、どうだろう萬斎さん、二人に扮して五輪の開会式でやったら。
友枝昭世の仕舞「天鼓」

国立に比べるとこじんまりした能楽堂の正面席で観る国宝の舞、そりゃあ贅沢なもんでっせ。

能「朝長」

源義朝の次男・朝長１６歳は平治の乱の敗戦で足に重傷を負い、父とともに美濃の青墓の宿まで落ちのびるが、このまま逃げても雑兵の手にかかるよりはと自害する。
それを悼み悲しむ宿の女主人（前シテ）と朝長ゆかりの僧（ワキ）。
はじめはシテの声が低くくぐもって聴き取れず、いやはや、これを１００分も聴くのかと、前の席の居眠りオバサン（ショートカットにグリーンの和服で、お若く見えたが、居眠りして首をのけぞらせたらお年が)に続くことになるかと思いきや、僧の願いによって朝長の最期を語り始めると、ぐっと引き込まれた。

後シテが朝長の幽霊、こちらは矢で討たれ割腹するまでの悲愴な最期を足を踏み鳴らし仕方噺、迫力があった。

それまでに（おなじ三修羅物のほかの二人、頼政や実盛のように）さしたる功もなく(平家の公達のように）栄耀栄華の席に連なることもなく、あたら１６歳で自害を覚悟する朝長の心境はいかなるものだったか、皆さんそれぞれに考えてみてください、とは解説・金子のことば。
さて、馬齢を重ねて今に至った極楽とんぼには、想像もつかない。
なかなか読み進まない「兵士というもの　ドイツ兵捕虜盗聴記録に見る戦争の心理」に書いてあった『参照枠組み』が違うし。
（喜多六平太記念能楽堂）

帰りにご一緒した方とカミさんもよんで「はじめ」で晩飯。
牡蠣フライ、白和え、イカ大根、チジミほうれん草のお浸し、水餃子。
西部邁の自裁のことなどもちらっと頭をかすめたが食欲には敵わない。
僕が洗濯や掃除をすることをブログに書くとカミさんが何もしてないようで「その筋の、たぶんオバサンたちに評判が悪い」というネタで一座のご婦人から笑われた。
それってどこか女性による女性差別じゃないかとも、ちらっと思うのでありました。
けさ、じっと見つめて動かない猫の一家。
キツツキの音が聞こえたが姿は見えない、このなかにいるのだ。
逃げても写真のなかにはいるのだ。