腐敗した内閣であってもそれを倒すのは政党でなければならない 

ぶらり電車の中で読み終えた本は「戦前日本のポピュリズム 日米戦争への道」(筒井清忠)だ。
若槻内閣の崩壊と朴烈怪写真事件の関連(劇場型政治)、満州事変に対してのメデイアの変貌(裏切り)、5.15事件裁判の実相と社会の分極化、国際連盟脱退と世論の変化・ポピュリスト松岡洋右、帝人事件、日中戦争とポピュリズム、とくに近衛内閣のポピュリズムなど、表面的にしか知らなかった事件を通して、政党・天皇・官僚・軍部・警察・メデイアが国民世論とどうかかわり日本破滅の道を歩まなければならなかったかを明らかにしていく。
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天皇シンボルとナショナリズムを政治的に利用することで世論は激しく沸騰し変貌する。
普通選挙の実施で、そのことを理解し行動した政治家が(一時的な)成功を収める。
選挙に負けて下野した政友会が、浜口雄幸民政党内閣の緊縮財政・官吏の俸給減俸を、天皇の大権干犯として攻撃したように、苦しいときの天皇シンボルの利用が再三行われた。

著者は張作霖爆殺事件後の田中義一内閣の崩壊について
田中内閣の倒壊とは、天皇・宮中・貴族院と新聞世論との合体した力が政党内閣を倒したということである。しかし、「腐敗した」内閣であっても政党内閣が野党によって倒されるのが健全な議会政治の道なのであり、これは不健全な事態である。「政党外の超越的存在・勢力とメデイア世論の結合」という内閣打倒の枠組みがいったんできると、「政党外の超越的存在・勢力」が入れ替わることにより、それと「メデイア世論の結合」による政党政治の崩壊が起きやすくなるからである。
「軍部」「官僚」「近衛文麿」などと形を変えて再生されていったのが、田中内閣崩壊後の政党内閣崩壊の歴史だったという。
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(いつもの木)
そして、今もなお、「既成政党批判」と「支持政党なし」が多数を占めている。
マスメデイアでは、政党政治・議会政治を充実させるよりも、政党政治を補完する方策のほうが先に考えられるというような傾向すら見られるが、それは結局「軍部」「官僚」「警察」「新体制」などを生みだしたということを忘れてはならない、と筒井はいう。
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(カミさん近作)

歪んだ政党政治観を改めて、戦前ポピュリズムの産物を見直して立憲政治を確立していくためにの前提として、筒井はあとがきにいう。
日本のマスメデイアの知的向上であり、その前提としての統計など正確な資料報道の重視である。それが良質でオープンな議論を確保し、多元的な政党政治を生み出すものだからである。
そして、マスメデイアに対して批判・攻撃をするばかりでなく、よいマスメデイアを育てていくのも、政党政治を育てるのと同じく国民がなさねばならぬことだという認識が広く必要であろう。
う~む。
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普通選挙が始まったころの買収・供応・汚職などはもちろん厳しく禁じられるべきであるが、選挙や議会における支持者の増大や獲得、そのためにさまざまな方策が用いられるのは当然のことであり、それに寛容でなければ政党政治は維持できない。
このあたりは、もう少し寛容になるべきだなあ、僕も。
にしても、、。
Commented by stanislowski at 2018-10-19 16:20
潔癖すぎて四角四面では決まるものも決まらない。
雑魚は見逃して重要な大魚は逃さない。
そんな風にね。
守りに入って必死に生計を立てているところには厳しい。見えてこない視点です。

Commented by saheizi-inokori at 2018-10-19 16:31
stanislowskiさん、党利党略を根っこから否定しては政党は成り立たないのに、それを汚いとのとして、中立の軍部や官僚をよしとして、ついには全体主義に突き進んだ苦い経験を繰り返してはならない。
それはそうだが、、なかなか今の政党に信頼できないのが多くの国民なのでしようね。
それが安倍一強を許して、この先要警戒です。
Commented by antsuan at 2018-10-19 17:20
残念ながら、政党政治が国を平和にしたことはいまだかつて在りませんので、政党政治を維持しようとするのは無意味だと思います。
また、日本での共産主義者の暗躍が伊藤博文暗殺事件から始まっていることに気が付けば、ポピュリズムと共産主義は不可分なものであったことが解るでしょう。
Commented by saheizi-inokori at 2018-10-19 17:37
> antsuan、今まではね、その理由を本書は少し明かしています。
国民の不信感、無理解、不寛容、、。
Commented by そらぽん at 2018-10-19 17:43 x
この本、是非入手したいです ありがとうございます 
そして手元に置いて読みたい 
Toleranceを学ばないといけないわと思います 

今,以下の本を待っているところです~
「許せないを許してみる籠池おかん「300日」本音獄中記」
Commented by テイク25 at 2018-10-19 18:10 x
うーむ。
マスメディアの知的向上は心底望みます。
私の友人はテレビ局や新聞社に意見を伝えるべくよく電話をするのですが、「批判するばかりじゃなくて、いい番組だった、いい記事だったと褒める電話もするのよ」という友人を見習わなくてはと思っています。
>>選挙や議会における支持者の増大や獲得・・・
少し的が外れるかも知れませんが、この間の沖縄県知事選挙で相手陣営のネガティヴキャンペーンに対して、ポジティブキャンペーンでデニーさんの良さをアピールしたという若者たちの柔軟な発想がすばらしいと思いました。工夫のある闘い方で支持が広がるという一つのお手本のような気がしています。「さまざまな方策」の一つですね。
Commented by saheizi-inokori at 2018-10-19 21:41
> テイク25さん、野党共闘こそキッキンですね。
若者は凄いです。
Commented by saheizi-inokori at 2018-10-19 21:44
> そらぽんさん、面白そうな題名ですね。
読みたい本が多すぎる!
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by saheizi-inokori | 2018-10-19 11:49 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(8)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori