漱石とポピュリズム 「戦前日本のポピュリズム」(筒井清忠)

民衆が政治上に於いて一つの勢力として動くという傾向の流行するに至った初めは矢張り明治三十八年九月からと見なければならぬ
吉野作造の見立てであり、筒井清忠も同意する。
明治三十八年(1905年)九月とは日比谷焼き打ち事件のことだ。
日露戦争の講和条件に反対する国民大会が暴徒化、電車賃値上げ反対運動や日頃の不満うっ憤が一緒になって、軍隊まで出動して鎮圧された。
開戦当初は戦争に反対し負けるのではないかと心配した世論も日本の勝利が伝えられるたびに
慢心を生じ、戦えば勝ち攻めれば取る此の有様を以って進まばバイカルはおろかロシア本国モスクワまで進入するも難事にあらず
(原敬日記)という声に変り、原が、「この上戦争を継続しても何の利益もない、、だがどんな条件で戦争をやめても国民多数は満足しない」と述べると桂太郎首相は、「平和を克復したるならばきっと国民は其条件に満足せざるべし、故に自分一身は犠牲に供する覚悟なり」と言った由。
自らポピュリズムの政治家になり結果については知らぬ存ぜずの二世政治家たちとはチト覚悟が違うかな。
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戦前のポピュリズムが日本を日米戦争へと、亡国の道を用意した、その道筋をいくつかの事件の経緯を紹介し現在の我々に教訓を示す、なかなか面白い本なのに、まだ読み終わらない。

夏目漱石の「坊ちゃん」は、日比谷焼き打ち事件の頃に書かれた。
このなかで坊ちゃんは祝捷会で生徒を引率した様子を
生徒は小供の上に、生意気で、規律を破らなくては生徒の体面にかかわると思ってる奴等だから、職員が幾人(いくたり)ついて行ったってなんの役にも立つもんか。
ガキどもの悪さを書き連ねたうえで、
よく考えてみると世の中はみんなこの生徒のようなものから成立しているかも知れない。、、もし本当にあやまらせる気なら後悔するまで叩きつけなくてはいけない。
漱石は、祝勝会における生徒たちの姿のなかに、日比谷焼き打ち事件の、群れを頼んで自分は無責任な近代の大衆の姿を見たと筒井は言う。
「後悔するまで叩きつけなくてはならない」、徹底的な嫌悪と攻撃性。
漱石とポピュリズム 「戦前日本のポピュリズム」(筒井清忠)_e0016828_09502510.jpg
朴烈怪写真事件(1923)という分かりにくい事件が起きて金融恐慌ともあいまって若槻内閣は総辞職に追い込まれる。
朴烈(パクヨル)という大逆犯人の膝の上でその愛人である金子文子が何かを読んでいる、獄中でのスナップが怪文書として公開されたのだ。
死刑判決を受けた朴烈が大赦になっていたこともあり、メデイアもろとも政争の具とされた。
ナショナリズムと天皇がポピュリズムの最高のガソリンなのだ。
この事件について筒井は
この問題をここまで拡大させた根源は、一枚の写真の視覚効果(ヴィジュアルな要素)が政権の打倒にまで結びつき得ることを洞察した北一輝であったが、彼ら超国家主義者こそむしろ、大衆デモクラシー状況=ポピュリズム的状況に対する明敏な洞察からネイティヴな大衆の広範な感情・意識を拾い上げ、それを政治的に動員することに以後成功していくのである。
昭和前期の政治を「劇場型政治」の視点から理解していくことの必要性が痛感される所以であり、このことに無自覚な側は破れていくし、また過去のこの時期にこれが起きたことに無自覚な側はまたしても敗れていくであろう。
と、書いている。
漱石とポピュリズム 「戦前日本のポピュリズム」(筒井清忠)_e0016828_09512482.jpg
(きのうの駒沢公園は「わんわんフエスティバル」)

5・15事件のときの被告軍人に対する狂気ともいえるメデイアや国民の同情論について紹介しようと思ったが、時間切れ、次回にしよう。



Commented by yukiusagi_syakuna at 2018-10-15 14:46
saheiziさんこんにちは。
駒沢公園は「わんわんフエスティバル」、
神楽坂は「神楽坂化け猫フェスティバル」、
私は平和な時代に生まれて、良かったと思いました。
Commented by saheizi-inokori at 2018-10-15 17:08
> yukiusagi_syakunaさん、同感!
Commented by そらぽん at 2018-10-15 18:35 x
「ナショナリズムと天皇がポピュリズムの最高のガソリン」
ぐわーん~  コレに 日本の民衆は陥るのか。。。

アベは税金を上げ(所得、相続、消費、住民税など)
支給支援(年金、児童、生活保護、介護診療など)を減額
ついに 生活保護者受給を憎悪誹謗する大臣が登用され
アホ議員が国家に謝れと叫び「教育勅語」をちらつかせる
憎悪と攻撃の管理。記事をしっかり!読ませて頂きました   
Commented by saheizi-inokori at 2018-10-15 19:15
> そらぽんさん、本書は日本の戦前史について私は表面的なことしか学んでいなかったことを教えてくれます。図書館から借りたのですが、自分の蔵書にしたいくらいです。
Commented by j-garden-hirasato at 2018-10-16 06:04
未だに、
明治時代がどういう時代だったか、
理解できないでいます。
知識も皆無だし…。
ちゃんと勉強しないとなあ…。
Commented by saheizi-inokori at 2018-10-16 07:51
> j-garden-hirasatoさん、明治もさることながら生まれ育った昭和を知らない、盲点です。
Commented at 2018-10-18 18:11 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by saheizi-inokori at 2018-10-18 19:03
> 鍵コメさん、そうでした!ありがとう。
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by saheizi-inokori | 2018-10-15 11:22 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(8)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori
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