震災後のハサミ状の較差 中井久夫「いじめの政治学」
2018年 09月 18日
夜来の雨が上がって秋晴れらしい爽やかさ、といいたいところだが、ムシムシ、じっとしていてもTシャツの背中が張り付く。
図書館の返還期限をチエックしたら、あす返さなければならない、中井久夫「いじめの政治学」。
表題の論文のほかにも、「一九九六年一月・神戸」「ロールシャッハ・カードの美学と流れ」」「記憶について」「『創造と癒し序説』-創作の生理学に向けて」「私の歩んだ道」など30編のエッセイや小論文が収録されていて、読みごたえがあった。
丁寧に紹介しようと思っていたのだけれど、そのままになっていた(安倍さんのことをいえないね)。
例によって抜き書きをいくつかしておく。
阪神淡路大震災の渦中にいた筆者が発災後の変化を記録した「一九九六年一月・神戸」から 精神的なダメージを受けるのは被災者だけでなく救援者にも見られることに気づいたのは少したってからのことで、 僕は能天気だから他人事にしていて、こんどの災害続きに初めてランタンや水タンクなどを発注(トイレ袋など11月まで届かない)したありさまだが、関係者(ってどこまでをいうのか)は中井先生の記録などを夙に学んでいるのだろう。
駒沢公園「いつもの木」に、今年も美しい紅葉を見せてくれと挨拶、久しぶりにカフェで一時間ほど読書した。
帰途、ぽつりぽつり降ってきたので、来かかったバスに乗った。そのあとあんなに降るとは想定外だった。
表題の論文のほかにも、「一九九六年一月・神戸」「ロールシャッハ・カードの美学と流れ」」「記憶について」「『創造と癒し序説』-創作の生理学に向けて」「私の歩んだ道」など30編のエッセイや小論文が収録されていて、読みごたえがあった。
例によって抜き書きをいくつかしておく。
阪神淡路大震災の渦中にいた筆者が発災後の変化を記録した「一九九六年一月・神戸」から
「ハサミ状に拡大する較差」が次第に眼につき始めた。ふだんより元気になる人と、出勤できずに家に閉じこもる人とがあった。考えられないほど石頭になる人と、たいへん柔軟に新しい発想を出すようになる人とがあった。酒を飲まなくなった人とアルコールにのめり込む人とがあった。仲がよくなる夫婦と、ヒビがはいってしまう夫婦とがあった。最初の差は小さくても、どちらかのコースに入ると、どんどん差が開いていった。アルコールと夫婦仲とは後遺症となって長く残る場合が少なくなさそうである。
何よりも、貧富の差がハサミ状に拡大するのが眼にみえるように思われた。
貧富の差は単に貯金や財産の問題だけでなく、社会的なパワーを持ち人脈の広い人と、そうでない人との差が大きかった。故郷に地縁を残す人、友人の多い人も有利であった。大企業は初期から社員だけでなく、その縁者にまで手をさしのべた。これは日本だけの現象だそうである。
その眼で見直せば、多くの救援者側の記録に、被災地から帰った直後はしばらく現実感がなかったとか、仕事が手につかなかったとあった。
10月になって、兵庫県と「こころのケアセンター」から派遣されてロサンゼルスの地震対策を調査研究に行った人たちの報告は、私を驚かせた。そこでは救援者は「デブリーフィング」つまり体験を語り合い、「デフュ―ジング」つまり感情の高ぶりをおさめ、「デモビライゼーション」つまり緊張の武装解除を行ってから家庭に戻るように配慮されている。米国でも校長先生は特にもっとも注意しておかなければならない人とされていた。
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そらぽん
at 2018-09-18 17:18
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「いつもの木」「久しぶりのカフェ」~.~
こちらまで気持ちのよいそよ風が吹いてきました!
「ハサミ状に拡大する較差」で、先週末に行った
林檎の丘の物理学研究所公開で、70代の元学生らが
孫や家族と丘を巻いて登ってくる様を思い出しました
こちらまで気持ちのよいそよ風が吹いてきました!
「ハサミ状に拡大する較差」で、先週末に行った
林檎の丘の物理学研究所公開で、70代の元学生らが
孫や家族と丘を巻いて登ってくる様を思い出しました
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saheizi-inokori at 2018-09-18 18:00
> そらぽんさん、なにか物語を感じます。
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j-garden-hirasato at 2018-09-19 06:16
「ハサミ状に拡大する較差」
人の心って、複雑ですね。
人の心って、複雑ですね。
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saheizi-inokori at 2018-09-19 09:12
> j-garden-hirasatoさん、そうですね。
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ppjunction at 2018-09-20 13:36
確かに11年の三陸津波の後、離婚した人が私の周りでも2家族居られます。理由は漠然とした不安から、奥様は実家で子供と年金暮らしの両親とで過ごす方が気持ちが楽って事でしたがー。残された夫は一時期仕事も減少し鬱状態になったらしい。
もう一家族は妻がボランティアへ出たが、仙台にある家へ滅多に帰らなくなった、帰っても話題が被災地の事ばかりで、家事も家族も後回しになった事からだそうです。
もう一家族は妻がボランティアへ出たが、仙台にある家へ滅多に帰らなくなった、帰っても話題が被災地の事ばかりで、家事も家族も後回しになった事からだそうです。
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saheizi-inokori at 2018-09-20 14:48
> ppjunctionさん、人々はさまざまな矛盾や困難を抱えても、平常時はなんとか乗り切れるけど、大きな災難に見舞われると、それを契機に団結して消し去るか、そうでなくクラックが広がり対応しきれなくなるか、たつた一言の重みも増すようですね。
by saheizi-inokori
| 2018-09-18 11:31
| 今週の1冊、又は2・3冊
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Comments(6)