ヒステリックな人

待ちくたびれてメールを打ち始めた、あと一行でお終いというところで、「居残り佐平次さ～ん」と部屋の奥で呼ばわる、網膜の断層撮影、今日の主目的だ。
「あと１０秒待ってね」メールを仕上げて送ってしまおうとすると、「後にして下さい」構わずにやってしまおうとすると電話番号の数字の入力が突然うまくいかない、「すみません、すぐに終わります」と焦っていると、横の別の検査機の女性スタッフが、「やめてください！皆さんずっと待っていらっしゃるんですから」、メールを出さないまま検査を受けた。
血圧だったら上がっていたかもしれない、それほど有無を言わさない高飛車な物言いだった。
(横浜駅構内で遅いランチ）

このスタッフはいぜんも、モノを尋ねる僕に木で鼻をくくったような・叱正ともいえるような横柄な口をきき、患者の呼び出しもまるで怒声のような早口だったりしたから、印象に残っていた。

しかし、七時過ぎに玄関ホールに記帳をした時は４３番、９時ころから検査や診察が始まって、僕が受けた検査は三種類、三つ合わせても１０分がいいところ、本命の診察も１０分足らず、それが終わったのが１２時を回っている(この後、付録ともいえる右目の網膜断層撮影があるのだが）。
つまり２０分のために４時起きして早い順番を取っても、待ち時間がほとんどで医療行為はわずかなものだ。
僕のような老人がもたもたして１０秒無駄にするのが積み重なってそんなにも渋滞するのだろうか。

どなたも呼ばれると「はい!」すぐに立ち上がって言われたところに赴き静かに待っている。
(病院のレストランの絵、二重に描いてあるのか、僕の目がおかしいのか、訊いたら、そういうお客さん多いです、年寄りのジョークはマンネリだね）

不愉快・恐ろしい思いをしながらも検査を終え、大きな待合室で３０分も待っただろうか、ようやく「診察室の前のベンチにおいでください」といわれて、やれ嬉しやと移動したが、実際に診察してもらうまでに６人の患者が先に診てもらい僕の番が来たのは一時間を超えた。
ある患者の如きは一人で４０分強、そのほとんどは先生の発言、患者が持参した紹介状に対する憤懣、自分が治療した結果のトラブルをこんな内容で他の医師に押し付けるようなやり方は失礼だとか、処理をやれといえばやれないことはないけれど、もし何か起きたら云云を繰り返す。
外で聞いている僕は「やるの？やらないの？早く決めろよ」といいたくなる。
(夕方の鶴見川）

あのヒステリックな女のいうように患者がもたもたするから大渋滞が起きるのではない。
医師の数が少ない(３人)か、患者の数が多すぎるのだ。
宣伝本を書いて患者数を増やし日本一の手術数を誇る(儲ける）には現状の体制(医師や看護師の質と数、システムなど）は無理がある。
さいしょにかかった若い医師も、ちょっと疑問を口にすると激して喧嘩腰になって理屈に合わないことをいう。
それでは困るからそう言って替わってもらった副院長も自分のメンツにかかわることになると必要以上に多弁を弄す。
きのうも、さいしょ看護士が網膜写真を左だけで終えるから「右はいいの？このあいだ先生は右もそうとう悪いって言ってたよ」と言ったのに、これでイイ、先生がそう云う指示です(歩いて五歩の診察室になぜ聞きにいかないのか）の一点張り(４秒くらいかかったかな）。
診察時に、先生に右しか撮らなくていいのですかと訊くと、じゃア、撮っていきますかという。
あそこは怖い看護士がいるからいやです、と朝の１０秒事件についてチクると、苦笑いだけ。
診察結果が上々だったからまだ許せるけれど、ちょっとしっかりしてくれよ。

会計を待つまで点眼をしようと上を向いたとたん、また呼ばれて右目の網膜写真を撮りますからあちらの部屋へという。
しぶしぶ、あちらの部屋に行く。
再び１５分くらい待ったか、きょろきょろ見渡せばいろんな機械の前は空席でスマホをいじっているジジババはいない。

写真を撮ったあとは帰っていいのかと思うと、そこで待て先生の話を聞いてきます、といったきり１０分近くほっとかれる。
検査室に誰もいなくなったので催促すると、ようやく「なにも問題ないのでお帰りください」、やれやれ。
（「はじめ」で医師の許可が出たから少し飲もうかと思ったが、グラスに二杯だけ、疲れているからなあ）

看護士も絶対的に不足している。
受付、患者の呼び出し、整理、検査、検査などのデータのフアイルへの貼り付け、記入、診察の立ち合い、、ひとりで同じ日に何役もこなし、検査の時以外は立ちっぱなし(データの記入も）だ。
見るからに初々しい新入社員の応対や笑顔が、いつの間にか能面のように無表情になり、感情表出の強い人は怖い顔になっていく。
この間まで、ユーモアのあるいい子だと思っていた子が昨日はジョークが耳に入らないかの如くで、切り口上で向こう３週間に使う５種類の薬のそれぞれの必要量を言えと迫る。めげずに「年をとるとこぼす量が多いからなあ」と憐れみを乞う戦術に切り替えると、ようやく「じゃあ、それぞれ二本づつにしときましょうね」と手を差し伸べてくれた。
これは別の薬を渡す女性、今回から新しく使う薬は５種の薬の最後に差すようにと注意するけれど、どこにもそんなことは書いてないから、袋にマジックで書いてくれ、というと、薬の最後に書いてあるから最後でいいでしょう、と書いてくれない、じゃア、自分で書くからそのマジック貸してください、とお願いすると、ポンと薬の袋と一緒に投げ捨てるようにして行ってしまう。
近所の薬局なんて義母の薬を毎日分、小分けにして日にちを書いてくれた。
旧大日本帝国陸軍では、時間の厳守、(陛下から支給された)物の管理などを金科玉条にして下級兵士に徹底的に叩き込み、官給品を失くしたり集合時間に遅れたりするとリンチもあったという。
物を大事にし、時間を守ることが勝利につながると洗脳されていた。
あの病院の一部の人たちはそんな下級兵士に似たところがあるような感じがする。
患者たちを一分一秒も無駄にしないように並ばせ移動させ準備させ医師の前に連れ出し診察が終わりそうになると患者の服を引っ張っても退出させようとする。
それが、日本一の○×病院の実績を作ることにつながるのだと、誰かが教えて、それを信じて疑わない(人もいる）。
前にも書いたけれど、いつか大きなアクシデントが起きなければいいのだが。

今の体制のままなら、予約制にして患者の数を減らすべきだ。