葛西でしよう、と井手は言った 「軌道 福知山脱線事故 JR西日本を変えた闘い」(松本創)
2018年 06月 24日
JR福知山線で電車が脱線、107名の死者を出した事故から、もう13年が過ぎた。
事故で妻と妹を亡くし、娘が重傷をおった男・浅野弥三一(1942生れ)が、
経営層と中間の技術層と実行層の三つがシステムとして鉄道事故の発生にいかなるかかわりを持ったか、それらを明らかにしようと11年もの討議を重ねた。
ブレーキ操作を誤ったという運転士の個人責任のみを捉えて(井手・元社長の思想であり刑事責任の追及のありかた)も事故はふたたび起きる。
人間はミスをするものだという前提に立って、リスクマネジメントをしなければならない。
少しでもこういう仕事に関わった人間には常識ともいえる、こんな考え方が当時のJR西にはなかった。
浅野がリードする会議を重ねても結局会社と遺族の認識の差は埋まらなかったが、冷静に理論的に対話を続けること自体日本の鉄道事故では画期的であったし、会社の考え方も大きく変わった。
ブレーキ操作を誤り停止位置をオーバーすると「日勤教育」で運転士の精神的覚醒を促す、という井手商会の事故防止策が、ヒューマンエラーによる事故は、故意や著しい怠慢によるもの以外は懲戒の対象としないと変った(2016年真鍋社長)。
本書は、浅野を追いかける形でJR西の幹部たちの動きやインタビューも重ねて、読み応えのある読み物になっている。
国鉄改革三人組のトップとして西日本に降臨、親方日の丸意識の払拭、アーバンネットワークなる関西JR網の整備、阪神淡路大震災における「神がかり」的な復興采配、などを通じて、井手正敬は、社内の天皇となり社員はこぞって彼の意向を忖度し、異議をさしはさむ者はいなくなる。
人事権を一手にした安倍/菅の独裁と同じだ。
浅野の、共に検証しようという申し入れを拒否していた南谷・垣内社長が遺族たちから総スカンを食う中で、技術屋、しかも子会社に追いやられて7年経過の山崎正夫が社長に就任、浅野は山崎の官僚らしくない・本音で話せそうなところに同じ技術や同志としても対話の可能性を感じる。
はたして山崎は元専務の坂田の後押しも得て「遺族との共同検証委員会の設置」を決断実行に移す。
山崎の社長就任に際しての社員への言葉で、JR西日本が、成功体験を重ねることで、「多くのことを求めすぎたのではないか」、背伸びし過ぎていることを反省してみせた。
と同時に
JR西に限らず日本の大企業・大組織(とくに役所)は、たいていあてはまるのじゃなかろうか。
本書の読みどころは、メデイアに(事故以来)ほとんど出てこなかった井手のインタビューが載っていること。
いまだに、事故はその個人の責任を厳しく追及してはじめて防止につながるといい、何を書いてもらってもいいと悪ぶれるところがなく、現場主義などいうことにも筋が通っていて、筆者も、なるほど「並の官僚ではない」と書いている。
事故後、井手・南谷・垣内の歴代社長が三人そろって辞めようと申し合わせたのに、南谷(当時会長)が急に残ると言い出し、井手だけが辞めることになった。
筆者が「南谷の変心にはどんな理由があったのか。何かきっかけがあったのだろうか」と問うと、井手は「まったくの推論に過ぎないが」と断ったうえで、
4時間余りに及んだ取材中、葛西の名前が何度か出た。後輩でありながら、今や政府や財界に強い影響力を持つようになった元同志への苦々しい思いと対抗心がにじんでいた、そうである。
東洋経済新報社
事故で妻と妹を亡くし、娘が重傷をおった男・浅野弥三一(1942生れ)が、
自分の存在を否定したい。この身をなくしてしまいたい。女房とくらした日々も、事故のことも、これから先の人生も、何も考えずに済めば楽になる。そんな気持ちのなかから、「事故の原因を明らかにすることは遺族としての社会的責務である」と思い定め、人生をかけて(遺族の仲間とともに)JR西と対峙、渋るJR幹部を共通の土俵に引っ張り出して専門家も交えて、事故の責任追及ではなく原因追及、とくに組織の構造的要因が事故とどのように関連しあっていたか。
経営層と中間の技術層と実行層の三つがシステムとして鉄道事故の発生にいかなるかかわりを持ったか、それらを明らかにしようと11年もの討議を重ねた。
ブレーキ操作を誤ったという運転士の個人責任のみを捉えて(井手・元社長の思想であり刑事責任の追及のありかた)も事故はふたたび起きる。
人間はミスをするものだという前提に立って、リスクマネジメントをしなければならない。
少しでもこういう仕事に関わった人間には常識ともいえる、こんな考え方が当時のJR西にはなかった。
浅野がリードする会議を重ねても結局会社と遺族の認識の差は埋まらなかったが、冷静に理論的に対話を続けること自体日本の鉄道事故では画期的であったし、会社の考え方も大きく変わった。
ブレーキ操作を誤り停止位置をオーバーすると「日勤教育」で運転士の精神的覚醒を促す、という井手商会の事故防止策が、ヒューマンエラーによる事故は、故意や著しい怠慢によるもの以外は懲戒の対象としないと変った(2016年真鍋社長)。
国鉄改革三人組のトップとして西日本に降臨、親方日の丸意識の払拭、アーバンネットワークなる関西JR網の整備、阪神淡路大震災における「神がかり」的な復興采配、などを通じて、井手正敬は、社内の天皇となり社員はこぞって彼の意向を忖度し、異議をさしはさむ者はいなくなる。
人事権を一手にした安倍/菅の独裁と同じだ。
はたして山崎は元専務の坂田の後押しも得て「遺族との共同検証委員会の設置」を決断実行に移す。
山崎の社長就任に際しての社員への言葉で、JR西日本が、成功体験を重ねることで、「多くのことを求めすぎたのではないか」、背伸びし過ぎていることを反省してみせた。
と同時に
地味で根気のいる仕事や、継続的な努力が必要な分野に関心が行かなくなってはいなかったか。本社、支社、現場、グループ企業という序列、それぞれの内部での序列、上下意識を無意識に形成してこなかったか。成功体験の中から内部論理を優先し、外部に無関心であったり、独り善がりであったりしなかったか。さらに、保守的な傾向が強くなり、現状を変えるとか、チャレンジ精神を発揮するといったことに十分な配慮がなされてこなかったのではないかと言っている。
JR西に限らず日本の大企業・大組織(とくに役所)は、たいていあてはまるのじゃなかろうか。
いまだに、事故はその個人の責任を厳しく追及してはじめて防止につながるといい、何を書いてもらってもいいと悪ぶれるところがなく、現場主義などいうことにも筋が通っていて、筆者も、なるほど「並の官僚ではない」と書いている。
事故後、井手・南谷・垣内の歴代社長が三人そろって辞めようと申し合わせたのに、南谷(当時会長)が急に残ると言い出し、井手だけが辞めることになった。
筆者が「南谷の変心にはどんな理由があったのか。何かきっかけがあったのだろうか」と問うと、井手は「まったくの推論に過ぎないが」と断ったうえで、
葛西でしょう。国鉄時代の部下だった南谷を残し、井手もいなくなれば影響力を持てる。東海の人間を送り込むことができる。それで残るよう言ったんじゃないですか。と言ったという。
4時間余りに及んだ取材中、葛西の名前が何度か出た。後輩でありながら、今や政府や財界に強い影響力を持つようになった元同志への苦々しい思いと対抗心がにじんでいた、そうである。
東洋経済新報社
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そらぽん
at 2018-06-24 14:56
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葛西。。。め!
読ませてもらいたいです
ようやく夕焼けになる夜9時半頃。ガラガラの路を走っていたら
国旗を貼り付けた車達が、急に湧き出て。。 サッカーでした
読ませてもらいたいです
ようやく夕焼けになる夜9時半頃。ガラガラの路を走っていたら
国旗を貼り付けた車達が、急に湧き出て。。 サッカーでした
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saheizi-inokori at 2018-06-24 15:24
> そらぽんさん、葛西のことはあまり書いてないですよ。
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cocomerita at 2018-06-24 16:09
Ciao saheiziさん
原発もそうだけど、日本は人間がミスを侵しうる存在である事を全く考慮しない社会ですよね
人間の身が 肉身であり、働けば疲れ、疲れが溜まればいろいろな症状を引き起こし、死に至る事もある。という事をも考慮しないのと同じく
ただ完璧を求める故に完璧でないといけないと他者に完璧を強制する
それは、「間違える」 事もできる人権を無視して 奴隷制度に等しいといつも思っています
子供に、オールマイティ、完璧を求めるバカ親と同じく、。
( 我が身を振り返ろって)
それは 格差社会の土壌にもなり、百害あって一利も無しだといつも思っています
人間は間違いを起こす生き物、猫が階段を踏み外すのと同じく、笑
完璧など なんの役にも立たない 、いかに気をつけて 心を込めて仕事をするか、間違っても 同じ間違いをいかに繰り返さないようにするかが大事なのであり、しかしながら その間違いを許してあげる懐の深い環境がなければ、その愚かな間違いは繰り返される、と
、、ここまで書いてきて、 鶏が先か卵が先か の気分になってきました 辛笑
今の日本は クソエロ親父のくせに 無駄に威張りちらし、後続の人々、社会を育てる事なんて 夢にも考えない、金 金 権力のおぞましい大人たちに壊されています
原発もそうだけど、日本は人間がミスを侵しうる存在である事を全く考慮しない社会ですよね
人間の身が 肉身であり、働けば疲れ、疲れが溜まればいろいろな症状を引き起こし、死に至る事もある。という事をも考慮しないのと同じく
ただ完璧を求める故に完璧でないといけないと他者に完璧を強制する
それは、「間違える」 事もできる人権を無視して 奴隷制度に等しいといつも思っています
子供に、オールマイティ、完璧を求めるバカ親と同じく、。
( 我が身を振り返ろって)
それは 格差社会の土壌にもなり、百害あって一利も無しだといつも思っています
人間は間違いを起こす生き物、猫が階段を踏み外すのと同じく、笑
完璧など なんの役にも立たない 、いかに気をつけて 心を込めて仕事をするか、間違っても 同じ間違いをいかに繰り返さないようにするかが大事なのであり、しかしながら その間違いを許してあげる懐の深い環境がなければ、その愚かな間違いは繰り返される、と
、、ここまで書いてきて、 鶏が先か卵が先か の気分になってきました 辛笑
今の日本は クソエロ親父のくせに 無駄に威張りちらし、後続の人々、社会を育てる事なんて 夢にも考えない、金 金 権力のおぞましい大人たちに壊されています
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saheizi-inokori at 2018-06-24 22:10
> cocomeritaさん、そうですよね。
だからミスがあったら隠さずに申告して予防策を考え共有すること、それが懲戒処分や日勤勤務などにつながると隠すのが人情、ほんとのことがわからないのです。
小さな事故・インシデントこそ大事故の予兆、ありがたく受け止めていかなくてはね。
だからミスがあったら隠さずに申告して予防策を考え共有すること、それが懲戒処分や日勤勤務などにつながると隠すのが人情、ほんとのことがわからないのです。
小さな事故・インシデントこそ大事故の予兆、ありがたく受け止めていかなくてはね。
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j-garden-hirasato at 2018-06-25 06:43
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saheizi-inokori at 2018-06-25 07:47
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mother-of-pearl at 2018-06-25 08:54
〉自分の存在を否定したい。
そんな気持ちのどん底から自力で這い上がっていった人。
誰もが変えようとしなかった保守的な体質、体制に挑んだ人。
心の強さとは、と考えさせて頂きました。
自分では到底読み通す力の無さそうな一冊をご紹介頂いて、ありがとうございます。
諦めなければ、道はあるのですね。
そんな気持ちのどん底から自力で這い上がっていった人。
誰もが変えようとしなかった保守的な体質、体制に挑んだ人。
心の強さとは、と考えさせて頂きました。
自分では到底読み通す力の無さそうな一冊をご紹介頂いて、ありがとうございます。
諦めなければ、道はあるのですね。
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saheizi-inokori at 2018-06-25 09:30
> mother-of-pearlさん、しかも狭心症、脳梗塞、腰痛、糖尿病、などに悩まされながら、家事を一人でこなし(料理がうまくなる)、仕事をしながらですから、わたしとほぼ同年配の男としてしてもどんなに敬服してもしたりないです。
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ikuohasegawa at 2018-06-25 10:12
過去の成功体験を神話のように信じ、ごり押ししてこなかったか、部下の提言を排除してこなかったか。幸い人命にかかわるようなことはありませんでしたが、あれこれ思い出されてなりません。
読んでみたいです。
読んでみたいです。
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saheizi-inokori at 2018-06-25 11:10
by saheizi-inokori
| 2018-06-24 12:27
| 今週の1冊、又は2・3冊
|
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