三分間待つのだよ

目が覚めると洗濯機をまわして、第一回目の点眼にかかる。
五種類を五分間隔でさす。

寝ころがって上を向いて差すのだが、しょっちゅう失敗する。
病院の待ち時間に差すときは、椅子に座ったまま仰向いてやるのだが、失敗の方が多く、上着の襟を汚してしまう。
見かねた病友が、ゲンコツを作って、こうやるのよ、と教えてくれたけれどうまくいかない。
親切ついでにいっそ差してくれればいいのにと思った。
（区民センターで）

一分間、目を閉じている。
そのあと、四分間待って、次の薬。
その四分が長くて、じっとしていられない。
一つの薬から次の薬迄の間ごとに、カーテンを開けて、ルンバを起動して、ゴミを捨てに行って、新聞を取ってきて、ベランダの水やりをして、、ついつい四分が十分になったりする。
差し終わったのは間違えないように小さな籠から出しておくのだが、次の薬を手に取って準備しているときになにかやるべきこと（どうでもいいことが多いけれど）が気になって立ちあがったりすると、そういうときに不思議に次から次へと用事を思いついて、時間が経ったりする。
そうすると机の上の薬を差したのかどうかが分からなくなる。
そんなことを一日四回、あいだに二種類を二回やっている。

五分間はほんとに長いのか。

あっという間、ということでいえば一週間の方があっという間だ。
十年も今から思うとあっという間だ。
そのくせ、ずいぶん昔のことだと思うことが、たかだか二年前のことだったりする。
「はじめ」のママと「木耳とアスパラガスと豚肉の炒めもの」を作る話になって、僕が「じっと鍋をかき混ぜながら待つ三分間って長いよね」といったら、ママはいろんな料理を並行して作るときにはタイマーを使うこともあると言ってた。
僕なんかタイマーをセットする時間が待てない（漢方薬を煎じる時には使うけど）。

客の一人が、この数年身近な人がガンになることが多いのは、フクシマのせいではないかと言った。
そこから半減期の話になって、プルトニュームのそれは２４０００年だと（スマホをみて）いうと、みんなちょっと遠いところを見る目になった。
でも地球や生命の歴史からみたら、ほんの一瞬でもある。