会えてよかった 彩りを帯びた思い出

私のこともわからないときがあるから、と娘さんは言った。

その娘さんの結婚式であって以来、28年ぶりの再会、やはりそれ以来の息子さんが会津若松駅に迎えてくれて、一緒に病院に行った。

(車窓からの会津磐梯山)

どきどきしながら病室に入る。

はじめは僕のことがわからなかつたようだ。

手を握り、さすり続けながら、あの頃のように、○○ヤン！と呼びかけて、あの頃は眼鏡をかけていなかつたことを思いだし、眼鏡を外して何度も呼びかけると、目に光、うなずいて握りしめた両手にぐっと力が入り、何かいう。

入れ歯を外しているから聞き取りにくいけれど、よく来てくれたと言っているようだ。

あ、わかつた！

娘さんが歓声をあげ僕は涙ぐむ。

よく飲んだよなあ、野球もやつたべした、雪かきばっかりしたつけ、、思い出すままに話しかけると、そのつどうなずき、いたずらっぽい笑いも浮かべる。

(若松にあつた潰れて久しい飲み屋たち)

一時間以上も両手を握り、さすり続けて話し続けた。

彼も驚くほど力強く握りかえす。

ほとんど聞き取れないけれど、かがみこんで口元に耳を近づけると「カンドー」えつ？「感動」と繰り返す。

昔から妙に漢語を使う人だつた。

です、なのか、でした、なのか。

「また一緒にやりましよう」、一緒に飲もうと言う意味か、僕を励ましているようにも聞こえる。

思うようにならない体のことをいろいろ訴えているようだ。

「遅れたらたいへん」僕の帰りの列車のことを心配している、どうする？そう聞こえたから、今日は泊まるから心配しないでというと、また両手に力が入った。

それでも「お名残はつきないけれど」帰ってくれというようだ。

91歳、五年前に倒れた。

「一年前にびつたりやめた」酒？うなずいて「タバコも」二年前から点滴だけで生きている。

時が早く過ぎるのだろうか。

いや、遅く過ぎているのかもしれない。

病院を出て三人で馬刺しなどを食いながら飲んで語つた。

あの頃の思い出が、はじめはうつすらと浮かび上がって、語るにつれてみるみる濃い彩りを帯びていく。

儚くすぎたあっという間の人生にもこんなにもいろんな意味が積み重ねられてきたのかと、驚き、いささか嬉しいようでもあった。

今朝はバスに乗って坂下へ。

営業所のトイレに行ったら、運転士が、坂下さいくんだべ、探しに来てくれた。

お気をつけて、そういつたらワンちやんが尻尾を振って降りて行った。