読んでアベノセイダーズに入ろう コルソン・ホワイトヘッド「地下鉄道」

あいつもこいつも「メンバー・オブ・アベノセイダーズ」！
アベ批判をする人をレッテル貼りしようという印象操作的タクラミがあるらしい。
おもしれえじゃないか、逆手にとって「アベノセイダーズ」をカミングアウト、仲間を募ろう、ってのが澤藤統一郎氏の提案。

まずは何についてもアベが悪い。アベが元凶だ」と結論することとする。同じことだが、「アベのやっていることはすべて間違い」「あれもこれもアベのやったことだからよくない」とも。そう結論しておいて、しかる後に、おもむろにその理由付を考える。この思考方法こそが正しい姿勢だ。これこそ、第１次アベ政権登場以来のウオッチャーとして到達した経験的真実であり、政治倫理上の正義でもある。

あ、それでわかった、僕が７５歳を過ぎた途端に憂鬱になったのは、まさにアベのせいなのだ。
あいつの「しっかいと」を聞くのが堪えられないからなのだ。

憲法改悪・アメリカ追随外交・集団的自衛権行使容認の安全保障・防衛費を聖域化した軍拡・格差拡大の経済政策・国家主義教育・不公平きわまる税制・極端に資本の側に偏した労働政策・苛酷な社会保障・環境破壊・原発再稼働・沖縄の見殺しと弾圧・メディア規制・ヘイトスピーチの野放し・オトモダチ人事と忖度政治の横行・政治と行政の私物化・歴史修正主義…。すべての分野で、アベ政治こそが、諸悪の根源ではないか。

加えるに異次元の金融緩和という日本破壊が極めつけ。

花粉症だってアベのせいだ。
アベ政治を許さない！
僕もアベノセイダーズに入会しよう。
１８３０年ごろ、南北戦争が起こる前のアメリカ南部が舞台。
黒人奴隷は、この世の地獄・奴隷州（小説ではジョージア）から自由州へ逃げ込めれば自由になれる。
奴隷制廃止論者たちが秘密裏に活動して、奴隷の逃亡を助けた。
その組織の暗号名は「地下鉄道」、命がけの白人たちが「積み荷」を「駅」に匿し「駅長」が世話をして「車掌」が運んだ。

そういう事実を作者はほんとに地下を走る鉄道として描く。
主人公のコーラが奴隷仲間と白人たちの支援を受けて地下鉄道で逃亡する物語。
執拗にコーラを追いかける賞金稼ぎの奴隷狩人・リッジウエイの魔手から逃げおおせられるか。
手に汗握る逃亡活劇だ。
家畜以下の生活を強いられるジョージアの日々、ここに書かれている恐ろしい話は周到な取材に基づく”事実”だという、いくら信じられなくても。
サウスカロライナは理想郷かと思いきや、あやうく生体実験されそうになってノースカロライナへ、ここでは毎週広場における市民の楽しみは黒人奴隷を「吊るす」ことだった、白人たちは増えすぎた黒人に恐怖を抱いている。
やっとついたインディアナこそ夢に見た自由の地、、だったのか、黒人たちの間にも分裂はある。

列車が走るあいだ外を見ておくがいい。アメリカの真の姿がわかるだろう。

息もつかせず読ませるメインストリームの合間に、登場人物たちの短い物語が挿入される。それぞれがすぐれた短編小説のようだ。

２０１６年に上梓されて以来、ピュリッツアー賞、全米図書賞、カーネギー・メダル、ＮＹタイムズ、ワシントンポストなどの多数紙誌の年間ベストワンに選出された由。
トランプを大統領にしたアメリカ人がこれだけ読んでいるのだから、アベをのさばらす日本人にも読む人はいてほしい。
読んで（読まなくても）アベノセイダーズに入ろうではないか。

谷崎由依　訳
早川書房