身につまされる 若竹千佐子「おらおらでひとりいぐも」
2018年 02月 13日
右足首の捻挫でしばらく歩くのを控え目にしていたが、春めいてきたしそろそろ歩こう。
スマホのアプリからも「このところ低調です」とご注意があったし、体重もじりじり増え続けている。
何よりも歩かないとフラストレーションがたまる。
捻挫治療中は帰りはバスに乗っていた喫茶店から、歩いて家の近くまで来たら7千歩、もうちょっととひとまわりして8千歩にした。
桃子さんもオベント作って亭主の墓参りに行く途中で、滑って右足を石の角にぶつけて激痛があるなかを引き返さないで頑張っていたなと思う。
桃子さん、芥川賞の「おらおらでひとりいぐも」の主人公の名前だ。
見合い結婚の直前に「東京オリンピックのファンファーレに押し出されるようにして」家を飛び出して上京して、運命の人と結婚して40年、身も心も捧げて生きてきた夫が突然逝ってしまって、「体が引きちぎれるような悲しみ」があることを知って、ようやく10年、一人暮らしになんとか折り合いをつけたつもりでいたが、そうは問屋が卸さない、75歳を目前にしてああでもないこうでもないと思い悩む桃子さん。
何ごとにも「意味を探求する」性格、日常のくさぐさに意味を求めて考え込んだりもする。
スマホのアプリからも「このところ低調です」とご注意があったし、体重もじりじり増え続けている。
何よりも歩かないとフラストレーションがたまる。
桃子さんもオベント作って亭主の墓参りに行く途中で、滑って右足を石の角にぶつけて激痛があるなかを引き返さないで頑張っていたなと思う。
見合い結婚の直前に「東京オリンピックのファンファーレに押し出されるようにして」家を飛び出して上京して、運命の人と結婚して40年、身も心も捧げて生きてきた夫が突然逝ってしまって、「体が引きちぎれるような悲しみ」があることを知って、ようやく10年、一人暮らしになんとか折り合いをつけたつもりでいたが、そうは問屋が卸さない、75歳を目前にしてああでもないこうでもないと思い悩む桃子さん。
何ごとにも「意味を探求する」性格、日常のくさぐさに意味を求めて考え込んだりもする。
突然の感情の変化にとまどいもする。
夫と暮らした半生、自分を捨てて亭主のために生きてきたのは正しかったか、夫の病気(心筋梗塞)に早く気がつかなかった自分の責任は。
今は疎遠になってしまった二人の子供たちには自分の考えを押し付けてきたようでもある、これは自分と母親との関係が「うつった」のだ。
そもそもおらの人生ってなんだったのか。
そこから逃げ出したつもりの東北弁の「おら」が自然に口をついて出てくる。
東北弁はおらの古層なのかもしれない。
子供のころに嫌いだった八角山が今では拠り所なのだ。
今は疎遠になってしまった二人の子供たちには自分の考えを押し付けてきたようでもある、これは自分と母親との関係が「うつった」のだ。
そもそもおらの人生ってなんだったのか。
おらは後悔してねのす。見るだけ眺めるだけの人生にひとりごと、自分のなかにいる大勢の桃子さんと話している。
それもおもしぇがった。おらに似合いの生き方だった
んでも、なしてだろう。ここに至って。
おらは人とつながりたい、たわいもない話がしたい。ほんとうの話もしたい
東北弁はおらの古層なのかもしれない。
子供のころに嫌いだった八角山が今では拠り所なのだ。
まぶる。オレで言えば飯縄山だろうか。
おめはただそこにある。何もしない、ただまぶるだけ。見守るだけ。
それがうれしい。それでおらはおめを信頼する。
おらの生きるはおらの裁量に任せられているのだな。
おらはおらの人生を引き受ける。
そして大元でおめに委ねる。
お墓で塔婆にからまるカラスウリの赤に感応して、なぜかひとりで笑いだす。
このオレも今から文楽、感応してくるぞ、終ってないぞ。
標準語の部分は深刻な話が多いけれど、ここぞというときに桃子さんが発する東北弁の持ち味を生かした「桃子さんは」の文体とユーモアのせいで楽しく読めてしまう。
ただ死を待つだけではなかつた、赤に感応する、おらである。まだ戦える、おらはこれがらの人だ、こみあげる笑いはこみ上げる意欲だ、まだ、終っていないと。
このオレも今から文楽、感応してくるぞ、終ってないぞ。
老いの考現学であり哲学探求だ。
ああ、あるある、そうそうそうだよなあ、分かる分かる、桃子さん、ありがとう、力づけられましたよ。
同時に、ああ、お袋もこんな気持ちだったのかと教えられもしました。
ああ、あるある、そうそうそうだよなあ、分かる分かる、桃子さん、ありがとう、力づけられましたよ。
同時に、ああ、お袋もこんな気持ちだったのかと教えられもしました。
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haru_rara at 2018-02-13 10:45
これはぜひ読みたいです。
こちらの言葉とも通じるものがあって、佐平次さんのご紹介の部分にも感じるものがありました。
地元の友人に「方言」という言葉を決して使わない人がいるんです。
東京から見た「地方」その言葉だから「方言」なんだと。
だから彼女はいつも「土地の言葉」と言っています。
その言葉でなければ表現できない感情や思いというものがあるのが、その土地の言葉。
そういう言葉を持たない私は、いつも羨ましく感じます。
こちらの言葉とも通じるものがあって、佐平次さんのご紹介の部分にも感じるものがありました。
地元の友人に「方言」という言葉を決して使わない人がいるんです。
東京から見た「地方」その言葉だから「方言」なんだと。
だから彼女はいつも「土地の言葉」と言っています。
その言葉でなければ表現できない感情や思いというものがあるのが、その土地の言葉。
そういう言葉を持たない私は、いつも羨ましく感じます。
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そっか、文藝春秋を買って読んだ方が早かったんですね。図書館に予約して現在15人中5番目で待っているのです。一人1ヶ月として5か月後に手元に来る計算で、それなら文藝春秋を買ってしまえ~、かな?
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rinrin
at 2018-02-13 20:40
x
今回は芥川賞も、岩手が出てきて,賢治ファンは大喜びですね。私はまだ読んでいないのですが方々からあらすじや感想を聞き読みたいと思ってます。
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sweetmitsuki at 2018-02-13 21:49
金時鐘が「在日を生きる」の中で芥川賞についてかなりきついことを書いていましたけど、今読んでる「朝鮮と日本に生きる」の中で「私には自前の言葉で唄うわらべうたがありません。軍国日本を風靡した戦時歌謡でしか振り返れない少年期をみじめと思い、かぎりなくいとしいと思い、なつかしんではならないなつかしさの中で、私の少年期が黄ばんでいる。」と書いてあって、故郷というものについてあらためて考えさせられました。
この本もいつか読んでみたいです。
この本もいつか読んでみたいです。
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saheizi-inokori at 2018-02-13 21:51
> haru_raraさん、もともとの東京の言葉と標準語は違いますね。
たまに東京言葉を聴くと、それはまたいいものです。
私も自分の古層としての言葉はないです。
だからどの言葉にも地方にも簡単に(浅く)感情移入をしてしまうなあ。
たまに東京言葉を聴くと、それはまたいいものです。
私も自分の古層としての言葉はないです。
だからどの言葉にも地方にも簡単に(浅く)感情移入をしてしまうなあ。
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saheizi-inokori at 2018-02-13 21:53
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saheizi-inokori at 2018-02-13 21:55
> rinrinさん、遠野の出身だそうですね。直木賞も宮沢賢治、岩手ブームかな^^。
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saheizi-inokori at 2018-02-13 22:13
> sweetmitsukiさん、芥川賞は商業主義的なものでしょう。
「朝鮮と日本に生きる」のなかでは小野十三郎の「慰安の欲求としての郷土は郷土に値せず」という言葉に強い衝撃を受けて、あらためて「日本」と向かい合うようになったようなことが述べられています。
皇国少年時代に日本の叙情的唱歌を愛したのですが、それは私が幼少の頃の歌を懐かしがるように歌うことを自分に禁じる気持ちにもなったのでしょう。
八月十五日、解放を喜ぶ朝鮮人と離れて「児島高徳」「海ゆかば」などを一人で口ずさんでいたそうです。
「朝鮮と日本に生きる」のなかでは小野十三郎の「慰安の欲求としての郷土は郷土に値せず」という言葉に強い衝撃を受けて、あらためて「日本」と向かい合うようになったようなことが述べられています。
皇国少年時代に日本の叙情的唱歌を愛したのですが、それは私が幼少の頃の歌を懐かしがるように歌うことを自分に禁じる気持ちにもなったのでしょう。
八月十五日、解放を喜ぶ朝鮮人と離れて「児島高徳」「海ゆかば」などを一人で口ずさんでいたそうです。
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j-garden-hirasato at 2018-02-14 06:50
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saheizi-inokori at 2018-02-14 09:37
> j-garden-hirasatoさん、後から運命の人になる場合もあるのでは^^。
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cuckoo2006 at 2018-02-14 14:34
saheiziさんが「百年泥」よりこちらが好みと言われ嬉しいです。日常の底知れぬ孤独と希望の光と、、、年を重ねた女性の心情に大きく共感しました。芥川賞受賞記者会見の若竹さんの受け答えが初々しかったです♪
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saheizi-inokori at 2018-02-14 21:55
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hanamomo08 at 2018-02-15 11:31
こんにちは。
捻挫いかがですか?
治ってからでも運動は出来るので無理はだめですよ。
隣のご主人が先日雪道で転び、散歩を続けようとしてあっかしました。でも自分のことは自分が一番知っていますよね。
桃子さんの本、私も読まねば。
岩手の方言はやさしいのっす!
>ああ、お袋もこんな気持ちだったのかと教えられもしました。
ほろり!
捻挫いかがですか?
治ってからでも運動は出来るので無理はだめですよ。
隣のご主人が先日雪道で転び、散歩を続けようとしてあっかしました。でも自分のことは自分が一番知っていますよね。
桃子さんの本、私も読まねば。
岩手の方言はやさしいのっす!
>ああ、お袋もこんな気持ちだったのかと教えられもしました。
ほろり!
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saheizi-inokori at 2018-02-15 12:54
> hanamomo08さん、そうなんです、一昨日14000歩、昨日8000歩歩いたら今朝痛むのです、あ~あ。
きょうはまたバスに乗って行動します。
お袋も、亡妻の義母も、みんな同じ、でも桃子さんは桃子さん、同じで違う、そこが面白かったです。
きょうはまたバスに乗って行動します。
お袋も、亡妻の義母も、みんな同じ、でも桃子さんは桃子さん、同じで違う、そこが面白かったです。
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sheri-sheri at 2018-02-15 21:25
いい御本をご紹介いただき感謝です。桃子さん、素敵です。私も、これで良かったのかなとふとわが身を反省する時があります。いままでは思わなかった感情が出るようになりました。色々な方に不快な感情をおこさせてしまったかもしれないと、親子でも、夫婦でも友人でも近隣の人でも。でも人間だから仕方がない。これからは人さまに優しくしなければと思ったりしています。さへいじさんの率直なお人柄にいつもホッとして共感しています。
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saheizi-inokori at 2018-02-15 21:31
> sheri-sheriさん、私は自分を素直だとは思えないなあ。
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sheri-sheri at 2018-02-16 10:17
でも率直で、気概に満ちていて勇気づけられます! フレ~フレさへいじさん。
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saheizi-inokori at 2018-02-16 11:54
> sheri-sheriさん、あんがと^^。
by saheizi-inokori
| 2018-02-13 10:31
| 今週の1冊、又は2・3冊
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