ありえた世界が百年泥に埋まっている 石井遊佳「百年泥」
2018年 02月 11日
朝、近所のコンビニに文藝春秋を買いに行った。
芥川賞受賞作二編ながら全文掲載!980円。
588頁のうち二作が135頁をしめている。
ずいぶん前に「文藝春秋一冊をまるまるすべて読む」という記事をなにかで見たことがある。
僕は芥川賞のときだけ買うけれど、他の記事は二三目を通すくらい、全部読むなんてとてもできない。
「選択」という雑誌を定期購読し始めたのは去年の秋ごろからだったが、これは120頁弱、世界の政財官界スキャンダルや内幕など興味をそそる記事が多い。
毎月、世界が終わりに近づいていることを確認させてくれて憂鬱でもある雑誌だ。
それでも、だからか、全部読み通すことはない。
先に載っている「百年泥」を読んだ。
>1996年にマドラス(Madras)から正式に改名された。
「南インドの玄関口」「南アジアのデトロイト」「インドの健康首都」「インド銀行業の首都」の異名を持つ。自動車産業、情報技術産業、ビジネス・プロセス・アウトソーシング業が盛ん
Wikipediaがそう教えるチェンナイで現地企業の社員に日本語を教える女性の語り口が面白い。
マドラスと言ってくれれば僕にも見当がついたチェンマイならぬチェンナイに百年に一度の洪水が来て、アダイヤール川の泥が橋の上を500メートルに渡って堆積する。
人々は群がり、泥の中から生き別れた男の子や恋人を見つけ出して再会の喜びに浸る。
人魚のミイラが見つかると主人公は自分の母親も人魚であった(ほとんどしゃべらない)ことを語り、それは母とともに作ったヨモギ餅の思い出に繋がり、やがて日本語教室の教師泣かせでありながら実はクラス運営に欠かせない生徒の生い立ちとも繋がっていく。
空では特権階級が通勤地獄を避けて有翼飛行(途中で空から脱糞する)する。
何の資格も用意もないのに、元夫からの借金を返すために日本語教師になった時の心細さ、後ろめたさ、僕は家庭教師をやっていたときのことを思い出し、生徒(及び母親)たちに今ごろ謝る(どうか立派な大人になっていてくれよ)。
それにしてもこの現地エリート(プログラマーとしては超一流だけど精神年齢は子供)たちの教室の滑稽なこと。
(文藝春秋を買ったコンビニの前の電話ボックスに歩道から車が激突した)
小説家を夢見て、多重債務者に新たな借金をさせる紹介屋(小説にも出てくる)、洋菓子職人、スナックのホステス、温泉旅館の仲居などを転々として、36歳で一念発起、東大のインド哲学仏教哲学研究室に学士入学、大学院に進んだ(サンスクリット語が難しく挫折)、そこでサンスクリット語を学んでいた男と結婚、インド留学に同行したり、現在はチェンナイで日本語教師をしているという経歴が影響しているのではないか、どっちが原因でどっちが結果かは分からないが。
きっともう一つの僕が埋まっているだろう。
芥川賞受賞作二編ながら全文掲載!980円。
588頁のうち二作が135頁をしめている。
ずいぶん前に「文藝春秋一冊をまるまるすべて読む」という記事をなにかで見たことがある。
僕は芥川賞のときだけ買うけれど、他の記事は二三目を通すくらい、全部読むなんてとてもできない。
「選択」という雑誌を定期購読し始めたのは去年の秋ごろからだったが、これは120頁弱、世界の政財官界スキャンダルや内幕など興味をそそる記事が多い。
毎月、世界が終わりに近づいていることを確認させてくれて憂鬱でもある雑誌だ。
それでも、だからか、全部読み通すことはない。
>1996年にマドラス(Madras)から正式に改名された。
「南インドの玄関口」「南アジアのデトロイト」「インドの健康首都」「インド銀行業の首都」の異名を持つ。自動車産業、情報技術産業、ビジネス・プロセス・アウトソーシング業が盛ん
Wikipediaがそう教えるチェンナイで現地企業の社員に日本語を教える女性の語り口が面白い。
マドラスと言ってくれれば僕にも見当がついたチェンマイならぬチェンナイに百年に一度の洪水が来て、アダイヤール川の泥が橋の上を500メートルに渡って堆積する。
人々は群がり、泥の中から生き別れた男の子や恋人を見つけ出して再会の喜びに浸る。
人魚のミイラが見つかると主人公は自分の母親も人魚であった(ほとんどしゃべらない)ことを語り、それは母とともに作ったヨモギ餅の思い出に繋がり、やがて日本語教室の教師泣かせでありながら実はクラス運営に欠かせない生徒の生い立ちとも繋がっていく。
空では特権階級が通勤地獄を避けて有翼飛行(途中で空から脱糞する)する。
何の資格も用意もないのに、元夫からの借金を返すために日本語教師になった時の心細さ、後ろめたさ、僕は家庭教師をやっていたときのことを思い出し、生徒(及び母親)たちに今ごろ謝る(どうか立派な大人になっていてくれよ)。
それにしてもこの現地エリート(プログラマーとしては超一流だけど精神年齢は子供)たちの教室の滑稽なこと。
現に目の前にある人生にたいし、私はとかく高をくくる傾向があるかもしれない。これはありえた人生のひとつにすぎない、無限にある可能性の中で、たまたま投げた石が当たって鼻血を出してるのがこれにすぎない、そう思うとつい扱いがぞんざいになる。私にとってはるかにだいじなのは話されなかったことばであり、あったかもしれないことばの方だ。これはモラトリアム症候とは違うようだ。
小説家を夢見て、多重債務者に新たな借金をさせる紹介屋(小説にも出てくる)、洋菓子職人、スナックのホステス、温泉旅館の仲居などを転々として、36歳で一念発起、東大のインド哲学仏教哲学研究室に学士入学、大学院に進んだ(サンスクリット語が難しく挫折)、そこでサンスクリット語を学んでいた男と結婚、インド留学に同行したり、現在はチェンナイで日本語教師をしているという経歴が影響しているのではないか、どっちが原因でどっちが結果かは分からないが。
かつて綴られなかった手紙、眺められなかった風景、聴かれなかった歌。話されなかったことば、濡れなかった雨、ふれられなかった唇が、百年泥だ。僕も百年泥をほじくりに行ってみよう。
きっともう一つの僕が埋まっているだろう。
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tona
at 2018-02-11 16:17
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世界が終わるのは80年後とか言われていますね。
根拠はあるのでしょうが、ちょっとびっくり。
日本を取り巻く環境でも隣国たち、大地震、火山爆発から生き延びるのも大変そうです。
でも私には関係ないと思っていましたが、そうもいかなき状況になってきましたね。
根拠はあるのでしょうが、ちょっとびっくり。
日本を取り巻く環境でも隣国たち、大地震、火山爆発から生き延びるのも大変そうです。
でも私には関係ないと思っていましたが、そうもいかなき状況になってきましたね。
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k_hankichi at 2018-02-11 19:22
ようやっと僕も文藝春秋買いました。読まねば!
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saheizi-inokori at 2018-02-11 21:21
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saheizi-inokori at 2018-02-11 21:22
> k_hankichiさん、もう一遍を読み終わるところです。
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doremi730 at 2018-02-11 21:41
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j-garden-hirasato at 2018-02-12 06:45
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tona
at 2018-02-12 09:17
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saheizi-inokori at 2018-02-12 09:19
> doremi730さん、死んでしまった人にも遇えるかもしれない^^。
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saheizi-inokori at 2018-02-12 09:23
> j-garden-hirasatoさん、昨日のテレビニュースによれば居眠り運転、信号待ちをしていた若い男が頭を打って重傷の由、怖いですね。
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saheizi-inokori at 2018-02-12 09:24
> tonaさん、有難う。図書館にあればいいのですが。
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ikuohasegawa at 2018-02-13 10:08
私も、久しぶりに980円投資しました。
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saheizi-inokori at 2018-02-13 21:46
by saheizi-inokori
| 2018-02-11 11:10
| 今週の1冊、又は2・3冊
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Comments(12)