後悔することこそ損失 チョ・ソンジン ピアノ・リサイタル

雨の上野、チョ・ソンジンのピアノ・リサイタルに行った。
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恩田陸の「蜜蜂と遠雷」の舞台、浜松国際ピアノ・コンクールに15歳で最年少優勝を果たし、2015年のショパン国際ピアノ・コンクールも優勝している。
三年に一度開かれる浜松のコンクールに恩田陸はあしかけ9年、4度にわたり足を運び朝から夜まで聴き続けたという。
その二回目、2009年がチョ・ソンジンの優勝した年、小説の登場人物でいえば誰になるのだろう。
ウイキペディアで調べてみると、キム・スジュンとチョ・ハンサンという「本選で氏名がわかる」となっている韓国人が出ていて、本選でキム・スジュンがラフマニノフ、「ピアノ協奏曲 第3番 ニ短調」を弾いている。
もうその内容を忘れてしまったのがちょっと残念だ。
図書館に返してしまった本を再読しようとすると来年になってしまう、なんせ待ち行列2000人を超してダントツだったもの。
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ピアノの音ってこんなに大きく・深いのか、しかも優しさに満ちているのか、とびっくりさせて始まった、ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第八番ハ長調Op.13「悲愴」、同じくベートーヴェン ピアノ・ソナタ第30番ホ短調Op.109の二曲を聴いた。
「悲愴」の方は集中して音楽に陶酔していたが、第30番では音楽に引きこまれるほど、なぜか来し方のいろいろが断片的に頭に浮かび切ない気分になった。

なんだかこうしてはいられない、ような気持が抑えられず、後半を聴かずに退場した。
そうしても、特に何かをするあてもなく、桜新町まで帰ってきて「はじめ」(ことしまだ顔を出していない)に寄るのもためらわれて、コンビニでインスタントラーメンを買って帰宅してカミさんを驚かせた。
今朝になると、あの美しい音を思い出して、なんともったいないことをしたのかと後悔しきりだ。
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去年あたりからあちこちで見かける「行動経済学」、ノーベル経済学賞を受賞したリチャード・セイラーが唱道しているらしい。
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本を買ったのに積読になっている。
週刊誌の紹介記事によると、その考え方には、たとえば映画を見始めたらつまらなかった場合、多くの人は既に支払った入場料が惜しいと考え最後までみてしまうそうだ(僕もほとんどそうだ)が、それは経済学的にみたら、入場料の無駄に得るもののない映画館で過ごす時間の無駄を付け加えて損失を大きくするだけだ、というようなことが含まれるとあった。
それから、というわけでもないが、落語会で、あとはあまり聴きたくない噺家が出てくる場合はさっさと退場するようにしている。
我慢して坐っているよりそこらを散歩する方が時間の使い方としてずっと有益だと思う,なんせ残り少ない人生だもの。

でも、昨日の途中退場の判断はそういうことでもなかった。
チョ・ソンジンの演奏を聴きたくないというのではなく、むしろ惹かれていたのだから。
いや、やっぱり、演奏を聴き続けるよりは席をたつことを優先したのだから、同じことかもしれない。
その判断が間違っていたってことだ。
まあ、酒を飲まずにラーメンを食って早寝をしたのだから健康上は少しはいいことだったかもしれないが。
ピアノをさいごまで聴いたら、まちがいなく「はじめ」に寄って、そうしたら「年の初めのためしとて」盛大にやってしまっただろう。
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おいおい、こんな風に考えだしたらしまいには引きこもりになっちゃうぞ、と自分でツッコミをいれてみたりもする。

あるがまま、人に迷惑をかけない限り、どう生きてもそこにはなにかイイコトがある。
いけないのは、後悔することだ。



Commented by hanamomo08 at 2018-01-18 20:47
途中席を立ちたいと思ったことには何かしらの意味があるのだと思います。
もったいないということを考えれば最後まで聴くとなるのでしょうが、でもそんな気持ちになったことには何かあったのでしょう。
行動経済学・・・・難しいかもしれませんが読んでみたいな~。
Commented by saheizi-inokori at 2018-01-18 21:24
> hanamomo08さん、私は読んでませんが行動経済学の漫画もありますよ。
Commented by sweetmitsuki at 2018-01-18 21:46
今流行の行動経済学ですか。
でも物事を損得でしか考えられないのって、物凄く寂しいんじゃないのでしょうか。
つまらない映画を見たならみたで、どこがどうつまらないか自分なりの考察をまとめ、それをネタにブログ書くとか、その後を有意義に過ごす道はいくらでもあると思います。
と、いうかそういう功利主義一辺倒な風潮がアベノミクスを加速させているのでは?
Commented by saheizi-inokori at 2018-01-18 21:56
> sweetmitsukiさん、おっしゃる通りのようです、それで積読になっています。
ただ、短い人生、つまらないと思ったら席を立つのは行動経済学とは関係なくやるべきだと思うようになりました。
損得、というよりやりたいことがたくさんあるのです。
Commented by fusk-en25 at 2018-01-18 22:19
自分の人生にもう時間がないという気持ちもよーく分かりますが。。
しかし残りの時間は誰にもわからない。
佐平次さんさんだって居残るのだから。
100歳まで生きるとしたら30数年あるでしょう。
時間がない、時間がないというより。
だって誰にもわからない時間の量なんか考えても仕方がない。。
強迫観念に陥りそうなことは。。
絶対考えない私は。。ノーテンキやなあと思うけど。
ま。ダラダラしながら元気よく、明るく生きればもうそれでいいや。。
とも思うんですね。
Commented by saheizi-inokori at 2018-01-18 22:30
> fusk-en25さん、異議なし、そうでなければ落語と散歩が好きなんていってられやしません。
ただつまらないことを我慢して過ごすことはないですよね。
大勢のパーテイとかマルマルの会とか、つまらない噺家の話を聞くとか。
きのうのピアノはそういうことではなくて、、何とも言えない切なさがそこに静かに坐り続けることを不可能にしたのですが。
Commented by そらぽん at 2018-01-19 01:53 x
こんな世の中でも、音楽が存在しててくれる。
魂を揺さぶる若い演奏家と聴き手がいます。痛快です。


Commented by ikuohasegawa at 2018-01-19 04:31
私も大勢のパーテイとかマルマルの会とかへは行きません。
落語は主に権ちゃんですからトリは外れはありませんが、間に挟まる噺家が嫌な芸風だと帰るわけにいかないし損失時間を過ごすことが有ります。


Commented by j-garden-hirasato at 2018-01-19 05:48
自分は途中で退場する勇気はないですね。
良かろうが悪かろうが、
最後までは一応、です。
Commented by haru_rara at 2018-01-19 08:00
退屈やイヤになったのではなく、むしろ惹かれて切ない気持ちになって思わず席を立ってしまった。私にもそういう経験があります。
そのときはそのときでそうせずにはいられない衝動に素直だったということで、それはそれでいいのではないかなと。
私のような若輩ものでも、自分の将来を考えるようになりました。
でも、今日しかないいのちかもしれないし。
今日一日、いい日にします♪
Commented by saheizi-inokori at 2018-01-19 09:39
> そらぽんさん、ほんとに素晴らしかったなあ、あの冒頭の音。
まだ頭のなかに鳴り響いています。
Commented by saheizi-inokori at 2018-01-19 09:41
> ikuohasegawaさん、権ちゃんが可愛がっているらしき、〇〇など大きな顔をして、つまらないシャレの客席の反応を伺い、拍手を待っていたりする、お金を貰っても座り続ける気になりません。
Commented by saheizi-inokori at 2018-01-19 09:43
> j-garden-hirasatoさん、それもあり、人生がいつも満足できる時間ばかりで満ちているわけもないものね。
Commented by saheizi-inokori at 2018-01-19 09:46
> haru_raraさん、ああ、わかっていただけた。
昨日考えたのは、その前日に会津の、20年闘病を続けいまもなお戦っている彼女とあったことがピアノ・ソナタに過剰な感動をもたらしてその先を聴き続けられなくなったのではないか、ということでした。
Commented by PochiPochi-2-s at 2018-01-19 10:04
おはようございます。
私はあんまり途中で席を立つという経験はないですが、
よほどその音が琴線に触れたのでしょうね。
耐えられない気持ちになることもあると思います。
私はなぜか涙が溢れてしようがなかったことはあります。
でも、演奏家によって、その人の出す音によって同じ曲でも
そうなる時とならない時があります。
この時はこのピアニストの演奏する音が、たぶんsaheiziさんの
琴線に触れ、耐えられなくなったのだと思います。
私も退席してよかったのだと思いますよ。
残りの人生の長さはよく考えますが、考えたって仕方がないと
思うこともあります。ただ出来るだけ後悔しないようにとは
思っていますが、さてどうなることやら…。神のみぞ知る世界ですから。
Commented by テイク25 at 2018-01-19 10:53 x
私は面白くなかったり聴きたくなかったりしたら出てきてしまいます。音楽会も映画も何度も経験しているし、本も面白くなければ途中で放り出してしまいます。短気なのかしらとも思いますが、好き好きだしその時の気持ちも左右するだろうし自分の判断、人それぞれでいいのではないかと。最後まで聴いてしまって後悔したこともありますしね。
Commented by saheizi-inokori at 2018-01-19 17:55
> PochiPochi-2-sさん、前夜の出来事などいろいろ引きづっていたからということもあるかもしれません。
感動はあまり連続してしたくない、一晩でひとつで十分という気もあります。
飛ぶように過ぎていく一週間、なんか怖くなります。
Commented by saheizi-inokori at 2018-01-19 17:58
> テイク25さん、私は映画は途中退席は二度くらいしかないかな、入る前に選んでいるからかもしれません。
コンサートも二度目でした。
寄席は好きな時に出るのが作法とすら言えます(独演会などのホール落語はちょっと違いますが)。
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by saheizi-inokori | 2018-01-18 11:50 | 能・芝居・音楽 | Trackback | Comments(18)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


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