アメリカ第51番目の州になってしまうのか日本 吉川元忠・関岡英之「国富消尽](PHP)

興銀産業調査部副部長、コロンビア大学客員教授、神奈川大学教授などを歴任した吉川氏は本書(東京銀行、国際協力銀行、早稲田大学で建築研究の関岡氏との対談)の刊行を待たずして昨年10月に逝去。これはいわば彼の遺言。今日のホリエモン事件を予想している。彼の論を敷衍すればこの事件は堀江個人の特殊なものではなく「株価の時価総額が企業価値である」という考え方を行動原理とすることに起きがちな事件なのだ。不正会計スキャンダルはアメリカの企業社会に深く根ざした構造的な問題であることが指摘されている。
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時価総額=企業価値とするのは巨額の赤字のために自国では食っていけなくなったアメリカがグローバルに手を伸ばしていく為の理屈にすぎない。すなわち企業を売り買い(M&A)しやすくするためだ。株価を上げることで株式交換などの際買収したい企業を割安に手に入れることができる。まさにライブドア。

アメリカが日本に郵政民営化を迫った最大の狙いは簡易保険に集まっている120兆円の金だ。120兆といえばカナダのGDPより大きい。それを民間保険会社化する。既にアメリカは日本の破綻した中小保険会社を手中に収めている。後は民営化された簡易保険会社の弱るのを待つのみ。M&Aで手に入るのは金だけではない。顧客情報!そこまで行かなくても新保険会社の資金はアメリカで運用される。日本に還流しそうも無い投資。

アメリカはレーガン政権下で大幅な減税を行うとともに市場原理主義を貫いたために双子の赤字を生み出した。世界最大の債権国が債務国に転落する。その中で日本が槍玉にあがる。「アメリカは常に正しく負けるはずが無いのだ。然るに競争に負けて赤字に苦しむのは相手が不正な行為を行っているからだ」。9・11以後の「アメリカに逆らうのはテロだがアメリカがイラクを攻撃するのは正当だ」などと同じ。経済では日本がけしからん、日本は「異質な国」だ。けしからん日本を根っこから変えてアメリカナイズしていくこと。日本の優れているところを叩いて襲え。狙いは日本の資金をもってアメリカの国債を買わせドルを買わせ、赤字のアメリカを支えさせる。返す刀でアメリカ資本が日本に進出しやすくすることだ。

1989年「日米構造協議」が始まる。協議とはいえない。240項目の具体的な要求が突きつけられた。論理は「日本の消費者のために」と。大きなお世話なのに国内にもお先棒担ぎは多い。関岡は彼らを「トロイの木馬」という。「規制緩和」「民営化」「国際基準」、、中身の吟味よりも掛け声が優先してこれらに反対するのは”抵抗勢力”とされる。マスメデイアが輪をかけて”世論の醸成”を図る。だらしない官僚や政治家のスキャンダル・無策が全てを表すように喧伝され「官=悪・非能率」の図式で官か民か、の選択を迫る。本来は「公」か「私」かの問題であるのに。意図的な言い換え。240項目の要求はその後94年から毎年「年次改革要望書」としてアメリカから出されて日本は至極真面目に実現を図ってきている。

新会社法の制定に至るまでの時価会計・連結会計など各種会計基準のアングロサクソンスタイルへの変更。特に新会社法における「外国株対価の合併」はアメリカの割高な株価による割安な日本株との交換による日本企業のM&Aを可能にした。大規模店舗法廃止、米国型コーポレートガバナンス、連結納税制度・・そして郵政民営化、司法改革、医療改革、教育改革・・一見アメリカの利害と関係の無いような”改革”だがその裏にギラギラするアメリカの国・業界の利益。民営化、M&A、会計制度、司法制度・・関係者にとって大きなビジネスチャンスなのだ。

日本はいわば”事前調整型”、優れた官僚たちの活躍もあり問題が起きる前に予想される問題をつぶしてから実施する。アメリカは”事後調整型”、個人が市場原理のもと自由にやってみて問題が生じたらその時点で対処する。したがって弁護士などの活躍すべき領域が極めて大きい。金がないと救われない。

アメリカが日本に要求する改革はあたかも日本人の頭の中もアメリカナイズしようとしているようだ。そしてそれはかなり成功しつつあるのではないか。

ある意味では目のウロコが落ちた思いのする本だ。今までにも郵政民営化はアメリカの要望に従っているのだ、というような論を聞かなかったわけではない。しかし何となく「そうは言っても改革しなきゃ」くらいに思ってあまり深く考えていない。百歩譲って著者たちの論が牽強付会、またはためにする論だとしても、少なくともここにあげられているような論点についてマスメデイアや国会できちんと議論されなかったことは問題だ。

「族議員」という言葉で「政策通」の議員が排除され任命手続きも定かでないような民間人による「経済財政諮問会議」なるものがアメリカの要求に沿って「骨太の方針」を決めてしまう。郵政民営化もそこで決められると与党の了承も無いまま法案作りまで進み国会で否決されても・・。
ホリエモンが逮捕されてもなおかつ同情的な世論があり「この事件をもって規制改革の流れを変えてはならない。市場原理こそ全てだ」としたり顔で言う識者もおおい。
郵政民営化に反対した自民党衆議院議員・小林興起氏は元通産官僚、小泉龍司氏は元大蔵官僚というのも進行する事態の裏を読めるのはかなり限られた人たちになってしまっていることを示さないだろうか。しかもその人たちの決死の行動も”刺客”により止めを刺されてしまう。事柄の難しさ(法律・経済・国際問題・・を読む力が必要)と仕掛け方の巧みさ。それだけに識者・マスメデイアの責任は重いのだが。

俺も悲しいかな、その他大勢の一員だ。しかしよく考えてみると「改革の成果」とはナンだったのか?大きなスーパーの影にシャッター通り。さなきだに忙しい経理担当者の残業時間の増加、内部統制なんて監査や書類で担保できるのかい?俺は社長のリーダーシップが一番だと思うのだが、コンサルタント、弁護士、会計士などとの相談の増加、、そして何よりも「二極化社会」の到来。日本のバブルとその崩壊はアメリカによって仕掛けられたと本書ではいう。バブル後の企業リストラが二極化の大きな原因だ。医療制度なんて現状世界でトップクラスの長寿国なのになぜ医療荒廃、短命国のアメリカに倣わなくてはならないのか。貯蓄率が高いことはそんなに悪いことだったのか?なけなしの貯蓄は国策としての低金利に耐えかねてアメリカに流れてその金で余裕を持ったアメリカの富裕層・ヘッジフアンド(乗っ取りや)が日本買いに登場する。民営化された郵政も?何故含み損を抱えてまで売ることもできないアメリカ国債を日本は買い続けているのか?疑問は次々に湧いてきて著者たちの言うことの妥当性を証明するような気がする。

もし、彼らが正しいとせばこれからのシナリオは?最悪は円のドル化!暗澹とならざるを得ない。彼らが間違っていることを祈りたい。しかし・・。吉川氏はこういう。
グローバリズムを克服するにしても、アジアで日本がイニシアテイブを発揮するにしても、最後は思想の勝負になると思うのですが、そこで私が気がかりなのは、日本ではそのための環境が乏しすぎることです。市場化への滔々たる流れの中で、それは「金がすべて」というホリエモン的方向とは最も遠いところにあります。

彼は「日本の伝統と歴史に立脚しながら、しかも世界やアジアに訴えられる、普遍性を持った日本発の思想を構築」するために「日本の知的インフラ、そのための財政基盤を強化すること」を対談の最後に強調する。

分かりやすく、分かりやすいことが恨めしくなるような警世の書である。
Tracked from ニュースヘッドライソ at 2006-01-30 18:44
タイトル : ライブドアを潰すのはもったいない
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Tracked from ば○こう○ちの納得いかな.. at 2006-01-30 22:46
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Tracked from 日本がアブナイ! at 2006-01-31 00:32
タイトル : 堀江氏逮捕に思うこと(1)~「夢の勝ち組」維持のためには..
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Tracked from 日本がアブナイ! at 2006-01-31 00:33
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Tracked from 時評親爺 at 2006-02-01 17:07
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Tracked from 日本がアブナイ! at 2006-02-09 06:11
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 さて、いよいよ(やっと?!)、話はバブル期に突入である。  私はこのバブル期が、日本をと~ってもダメにしてしまったと思っている。そして バブルがはじけたあと、何で大人たちはもっとあの時期の問題点を考えたり、反省 したりして、日本の社会全体をいい形で立て直そうとしなかったのかと思ってもいる。 そのツケがここに来ているのではないだろうか?  だから、(4)でも少し書いたが、TV等で年長のコメンテーターやら政治家、経済 人やらが、堀江氏やライブドア社のことを「カネで何でも買えるなどとい...... more
Tracked from 日本がアブナイ! at 2006-02-14 04:25
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    (*^^)。_o●。o●・・・HAPPY VALENTINE!・・・●o。●o。_(^^*) MYブログを読んで下さる方々に感謝を込めて。<チョコのつもり> もしよろしかったら、←メモ欄のバナー&リンクのクリックをお願いしますね。(^^♪  ☆ IMAGINE PEACE! ~ドミノ倒しのように平和のメッセージを伝えよう!~  トリノ・オリンピックが始まった。スポーツ大好きの私は、これから2週間、眠れぬ 夜を過ごすことになる。  10日に行なわれた開会式は、全体...... more
Commented by antsuan at 2006-01-30 07:58
「州に組み込まれるぐらいならまだ良いと。つまりは資産と労働力を略奪する植民地になっているのではないか。」と、誰だったか言っていましたっけ。多分、すべて略奪されてしまってから気がつくのではないでしょうか。
Commented by saheizi-inokori at 2006-01-30 08:35
antsuanさん、なんだか人種差別を感じます。「黄禍」思想。
Commented by mew-run7 at 2006-01-30 14:36
TB有難うございます。

上記の本の紹介文、全体にわたって「そうだよ、そこが問題なんだよ」
と思いながら読んでおりました。
私もまさに同じようなことを危惧しています。

軍事的に属国のようになっているのは、致し方ない部分もあるのですけど、
日本は経済では、かなりアメリカとは闘っている部分もあったのに。
(保護主義だと批判されながら。)

もうすぐ外資も株式交換でM&Aができるようになります。
日本の企業がどんどん、アメリカに乗っ取られるのではないかと
懸念している人が少なくありません。
大企業はそれを防衛すべく、合併を繰り返し体力をつけようとし、
中小企業はますます厳しくなってしまう・・・
どこかで歯止めをかけて欲しいところです。
Commented by chaotzu at 2006-01-30 22:47
GMは1兆円近い赤字見込みだそうで、もう天文学的です。これほどダメなところがあるアメリカの企業文化を真似しようというのが、「構造改革」であるとしたら、何をかいわんやですね。
Commented by xxx at 2006-02-02 00:12 x
郵政改革の真の狙いは、「簡保」にあり。次は日米保険業界が「おいしい」と狙う「医療」という。そこでのキィワードは「保険」。「民間開放推進会議の議長は宮内義彦氏(オリックス会長)が努めています。オリックスは医療分野に積極的に進出している企業であり、今後、医療におけるビジネスを拡大することをめざしています。保険業にも進出していますので、混合診療が解禁されて民間保険のマーケットが拡大すれば、そこでも事業の拡大が見込めます。また、総合規制改革会議の前議長代理は飯田亮氏(セコム最高顧問)でしたが、株式会社による病院経営の解禁を長年主張されていて、医療機関の買収や経営参加を行っています。そうした直接の利害関係を持った方が国の政策を動かそうとしている。」(市場原理が医療を滅ぼす-医学書院刊より)
saheijiさんのお孫さんかわいいですね。そんなかわいいお孫さんの将来の日本のために、僕たち大人は、「偏った」あるいは「良くない」改革にキッチリものを言っていかなければなりませんね!!
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by saheizi-inokori | 2006-01-29 23:10 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback(7) | Comments(5)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori
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