たくましさが切ない 映画「マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白」

朝から腹の立つことがあった。
理不尽なことでも心を広く持って受け止めれば、と思うが小心なのだ。
ラジオでモツアルトの室内楽、バイオリンとピアノが交互にやさしく宥めてくれてささくれた心がやっと落ち着いた。


理不尽な目に遭うというならこのドキュメンタリー映画の主人公・マダム・ベーだ。
家族を少しでも楽にしようと出稼ぎのつもりだったのに、騙されて中国の農家に売られた脱北の母。
悲劇に打ちひしがれてしまうのではなくて、脱北ブローカーになり中国と北朝鮮の家族に金を送る。
彼女を買った中国の貧しい農家(貧しいから嫁を買うしかない)の両親と夫の温和でやさしいこと、マダムベーはきびきびと働き、夫を怒鳴りつけてもそこには愛がある(「好きで来たんじゃないのに」)。

金を貯めてから北に戻るつもりだったが一向に貯まらない。
息子たちを韓国に脱北させ、彼女自身も中国大陸を縦断、タイに行って韓国に入国、やはり脱北してきた父も一緒に一部屋のアパートで暮らす。
北には戻れず、韓国は嫌いだ。
スパイ扱いして調べる役人を殺したいという息子。

愛はあるけれどほんとの家族になりきれない。
北と南の分断が個人の生き方をも歪めて幸せになることを許さない。

血を分けた家族と夫、対する中国に残してきた「私の苦しみを理解してくれた」家族。
「なぜ私はこういう運命に生まれてきたのだろう」そっとつぶやくけれど顔をあげて生きていく。
中国の家族が彼女の帰りを迎えに行く。
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久しぶりに映画を観たせいか、画面、とくに字幕の読み取りがぎごちなく、はじめはストーリーをつかみにくかった(状況に想像力が追い付かないほど微温的現在に生きているってことだ)が、次第に絵のような映像にも引きこまれてベーに感情移入をしていた。
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帰途、敗戦で釜山から命からがら僕を連れて引き揚げてきて、夫に早死にされた後、貧窮に窮することもなく、明るい笑顔を見せながら二人の息子を大学にまで行かせてくれた母の強さを想った。


Commented by pallet-sorairo at 2017-06-13 10:49
最後の3行にじんわり。
息子さんお二人優しく、立派になられて
お母様もさぞ本望だったことでしょう。
Commented by sheri-sheri at 2017-06-13 10:54
今日は。                         
人は、それぞれ運命を背負って生まれてきてそのなかで精いっぱい生きて行くんだなと、拝見しながら考えました。苛酷ですね。今もそういう状況の中で生きている大人、子供いますね。どうにか少しでも報われる日が来ることを願います。お母様、立派でしたね。くじけたりめげる暇が有ったらさへいじさん御兄弟のために頑張ろうと奮いたたられたのですね。今は、亡きお父様と一緒に天国から見守っていらっしゃるでしょうね。・・・
Commented by PochiPochi-2-s at 2017-06-13 13:00
通っている絵の教室に生徒の中にも、満州から引き上げてきた人が二人います。一人は小6、一人は赤ちゃんだったそうです。
その後の生活はどんなに大変だったか、よく話されます。
お母様の強さに圧倒されます。
昔の母親は本当に強かったですね。
saheiziさん 、素晴らしいお母様に育てられて幸運でしたね。
お母様に気持ちに応えられたsaheiziさんも立派だと思います。
Commented by そらぽん at 2017-06-13 16:06 x
saheiziさんの記事を拝読して いつも基底に強く感ずるのが
「愛と智慧」です。ソクラテス(うろおぼえ)が人間を定義した
お母様やご家族、サンチちゃん、市井の方々、花や風を語られ。
正に、打倒アベ内閣のエンジンです。ありがとうございます! 
Commented by saheizi-inokori at 2017-06-13 19:43
> pallet-sorairoさん、お帰りなさい。
本望?かなあ。何を望んでいたか、結局わからないのです。
大学に入ることではないような気がします。

Commented by saheizi-inokori at 2017-06-13 19:45
> sheri-sheriさん、そうですね、育てなきゃいけないと、育てる喜びはあったのだろうと思います。
そういう母親に育てられたのはとても幸せなことだとも思います。
Commented by saheizi-inokori at 2017-06-13 19:47
> PochiPochi-2-sさん、たしかに幸運でした。
ただ気持ちに応えたかどうかといえば自信が今一つです。
Commented by saheizi-inokori at 2017-06-13 19:48
> そらぽんさん、安倍を倒すのには愛と知恵が必要だというのには賛成、でもそれを私が備えているかどうかは自信がないのです。
ただがんばるのみ^^。
Commented by j-garden-hirasato at 2017-06-14 06:07
最近、
何が真実なのか、
よく分からなくて…。
Commented by saheizi-inokori at 2017-06-14 07:36
> j-garden-hirasatoさん、何を真実と思いたいのか、とも関わるような気がします。
Commented by koro49 at 2017-06-14 22:32
saheiziさんのお母さんは、旅立った後もsaheiziさんご兄弟の支えですね。今も。
素晴らしいお母さん^^。
Commented by saheizi-inokori at 2017-06-15 09:39
> koro49さん、多くの人にとって母親というものはそういう存在なんではないでしょうか。


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by saheizi-inokori | 2017-06-13 10:06 | 映画 | Trackback | Comments(12)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


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