教育勅語はひとを殺す 木山捷平「尋三の春」&「1秒24コマの美」&「思想としての朝鮮籍」
2017年 04月 04日
木山本人だと思われる岡山の田舎・小学三年生・須藤市太が新しい先生を迎える。
僕が只今紹介されました大倉です。苗字は大倉ですが、家には大きい倉も小さい倉もありはしません。小さな木小屋のような藁屋があるきりです。家が貧乏だったもんで、麦飯ばかり食って大きくなり、師範学校へ行ったんです。この間学校を出たばかりで、年は二十二で家内はありません。どうぞ皆さん仲よくして下さい。と、これだけ言うとぴょこんと頭を下げて号令台を飛び降りた。
その大倉先生が、「自分のことを自分で言う言葉にはどんなのがあるか」という問題を出して、「じぶん」「わたし」「わがはい」「ぼく」、、みんなが答えるなかで木山君は手を挙げてもなかなか当たらず悔しい思いをしていたら、もう誰も手を挙げなくなって、「もう外にないかな」、いきなり右手を高くさしあげて「あります。先生!」息を弾ませて立ち上がって「はい、おらとも言います」大きな声で答えると級友たちが爆笑、ついで「おらというのは下品な言葉です。そんな言葉を使っちゃいけんと、串本先生が言われました」と串本先生に「贔屓されて」いた山本医院の息子(村一番の分限者で二年まで級長をしていた)がいう。
大倉先生は、素知らぬ顔で黒板の続きに一際大きくおらと書き添えた。
山本が再度抗議すると、先生はしばらく黙ったまま、じっと山本の顔を見据えていたが、「使っちゃよいか悪いか、そんなことを今調べとるのじゃない」小さくはあるが底力のある声で答えて、分厚な唇をぎゅっとひきしめた。
小説は「贔屓をしない」大倉先生が須藤とどう関わったかを生き生きと書く。
一学期の通信簿は山本と喧嘩をして気になっていた操行が甲、みんなに笑われた先生の顔を描いた図画も甲、他の学科はみな乙で算術だけが丙だった。
でも大倉先生は一学期だけで二学期からは「都合により」北木島に島流しになると山本が言い、その通りになった。
「知能的に遅れていた」ために金平糖(コンペト)さんという仇名をつけられ泣き虫だった黒澤少年をたくましい少年に変身させたきっかけは、やはり新しい担任の先生・立川精治だった。
手本を忠実にまねるのが良しとされた時代に、「好きなものを自由に描け」と言った。
同級生が笑った黒澤の絵を先生は褒めて赤インキで大きな三重丸をつけたのだ。
ついで読んだ、中村一成「ルポ 思想としての朝鮮籍」に取り上げられた6人のトップバッター高史明(コサミョン)・作家であり仏教者として親鸞との対話などの著書が多い(ぼくは未読)。
下関の同胞からもさげすまされたような極貧バラックに育ち、朝鮮語をしゃべれない。
母は早く死に、子供たちの目の前で首つり自殺をしようとして果たせなかった朝鮮人の父親は石炭仲士として働いて帰宅するとほとんど会話がなかった。
木下武夫という通名を使っていた小学校で点呼で「キンテンサン」と呼ぶ教師がいた。
「金天三」、自分の名を名乗れ、民族的に生きる転機をくれた教師に最初は猛烈に抵抗する、差別だと思ったから。
やがて教師の熱意に高のこわばった心が溶ける。
自ら通名を捨てて「金天三」を名乗るのだが、その教師は出征、後に続いたのは時の権力に隷従する教師たち、金天三という名札を虐めの理由として毎日殴る、朝鮮人が朝鮮人であることを理由に教師が殴る。
教師への憎しみは、歪んだ方向に高を向かわせた。「本土決戦になったら「一番立派に死んでやる、見ていろ」なんて思ってましたね」。当時、社会での最高善は「御国のために死ぬこと」だった。「殴られることに反発しても、「天皇陛下に申し訳ないと思わないのか」と言われると涙が滲む。それくらい教育勅語が浸みていたんですよ」。(学徒動員された)工場でつくっていた人間魚雷に乗って「敵」に体当たりする、それが高の夢となっていく。
総理夫人付きの役人にすべての責任を押し付ける安倍夫妻、教育勅語が憲法に合致しているか否かを判断する立場にないという文科大臣、共謀罪をつくらないとオリンピックが開けないという安倍、、。
ぼくはいっそ今の内閣の連中を徹底的に教育勅語でしごいたらどうかと思う。
朋友互に信義を以って交わり、へりくだって気随気儘の振舞いをせず、人々に対して慈愛を及すようにし、学問を修め業務を習って知識才能を養い、善良有為の人物となり、進んで公共の利益を広め世のためになる仕事をおこし、常に皇室典範並びに憲法を始め諸々の法令を尊重遵守しってところを、その神髄を叩きこむのだ。
お国のために犠牲になるってところもね。
ほんの表紙の女優さん、小暮美千代さんですか?
きれいな方ですね。
私が物心ついたときはこわいおばさんでした。(笑)
花が咲き乱れていますね、こっちも今日は13度ありました。
わたしは俳優の名前(に限らないけれど)覚えられないのですよ。
いつも新鮮。
咲き乱れるまでは行きませんが、あちこち拾って歩いてます。
セーターだけで寄席に行った今日、桜はずいぶん開きました。
ありがたいです
「殴られることに反発しても「天皇陛下に申し訳ないと思わないのかと言われると涙が滲む。それくらい教育勅語が浸みていた」
心が蝕ばまれ、思考の自由が失われる生活。 ぞっとします!
然り。溜飲が下がります。