自分のことばかり考えていた

なにもない日、本を読むのに飽いたら散歩だ。
日に日に日が長くなり、暖かくなって、それだけ爺の老化も進んで足をいたわりながら歩く。
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等々力の菓子や、ここのロールケーキがウマいのでカミさんにそういわれて訪ねる。
引き戸に「重いので最初は力をいれてください」とあるのを、エイッなあるほど重かった。
店内の右手はカフエになっていて小さな木のテーブルが五つほど並んでそのすべてに向かいあわせになって楽しそうな人々がいた。
半分を買って外に出ると居酒屋が店開きの準備をしている。
「はじめ」が休業なので、こんどはこの辺に来てみるのもアリかな。
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祖母の歌。
春あさきしなのは風もさむからむ老ひませる君につつがあらすな
山梨の中沢厚さん(新一さんの父君)の屋敷の一部屋に叔母と二人住まいしていた祖母。
長野のことといえばたいてい僕たち一家のことで、読めばシチュエイションも見当がつく。
それなのに、この「老ひませる君」というのがわからない。
母はこの頃20代だったかとも思われ、存命だったかもしれない父もそんな年ではなかった。
叔母の編集した、今はボロボロになりつつある遺詠集は昭和16年ごろからの歌を大体の順番で載せてあるのだから「この頃」がいつなのかも明確にはわからない。
そもそもこの歌を詠んだときに中沢さんの家にいたかどうかだって定かならず。

この歌の前後には
しもともてうたるるごときくるしみに心ほうけてせんすべしらず
などという、煩悶の歌が並んでいる。

母がいた頃は、そういうことについて尋ねることができたが、今となっては本家の人に訊いてもわからないのではないか。
おばあちゃん大好き、だけで離れて暮らしていて、その祖母がなにを考えどういう人生を過ごして「おばあちゃん」になったか、もしかしたら話してくれたこともあったのかもしれないが、気にもかけずに自分がおじいちゃんになってしまった。
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母の句。
デパートのうぬぼれ鏡春来る
母がこの句を作った年齢に近づいたぼくは、いまだに毎日の外出着に何を着ようかと迷う。
実用的見地からなら寒くないようにすればいいのだが、「おしゃれ的見地」からこれがいいかあっちの方が春らしいかと迷う。
新しいセーターを手に入れて喜んでいる。

母もきっとそうだっただろうに、いっしょにデパートに行って服を買ってあげることもなく、「服でも」といって、いつもより多くのお金をあげることもしなかった。
年を取ると省みて心苦しいことが多い。
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Commented by unburro at 2017-02-20 12:12
春あさきしなのは風もさむからむ老ひませる君につつがあらすな

お祖母さまの歌の、内容ももちろんですが、
「かな」と「漢字」の美しさ、リズム、に
はあ~、いいなあ~、と感じ入っております。

視覚に飛び込んでくる、「春」「風」「老」「君」。
それをつなぐ、やわらかい、優しい、かな文字が女性らしくて、
いいなぁ、です。
横書きのパソコン画面でさえ、そう感じるのですから、
縦書き、筆文字なら、さぞや美しい事でしょうね。

そして、お母さまの、ふわりと共感できるユーモア!
このユーモアを、saheiziさんは受け継がれているのですね。
Commented by sora at 2017-02-20 15:05 x
木のテーブルが5つほど、すべてが向かい合わせで楽しそうな
人々がいる。春のセーターに迷うsaheiziさんがいらっしゃる。
お祖母さまとお母上の素晴らしい歌と句に思い深くし
そして、巡りくる春の新しい命を愛しむ。。

悪辣かつ獰猛な嵐が吹き荒み 
この真っ当な幸せを破壊するなぞ許されないです。
Commented by jarippe at 2017-02-20 15:48
お祖母様の歌 もお母様の句も
思いを馳せるものですね
今になってあの時この時の親の気持ち年寄りの気持ちが
察しられますね
お散歩にどれを着ていこうかって悩まれる
saheijiさん 素敵ですね
Commented by antsuan at 2017-02-20 16:04
幾つになっても息子のことばかり心配してくれた母。その恩に少しでも報いることが出来たらと、今は一生懸命生きるのみです。
Commented by saheizi-inokori at 2017-02-21 00:36
> unburroさん、そんなに褒められたらおばあちゃん、舞いあがっちゃう、舞い上がって天国からどこにいっちゃうんだろう。
ユーモア、たしかになにはなくともジョークが好きな一家でした。
Commented by saheizi-inokori at 2017-02-21 00:37
> soraさん、私の幸せはもう十分だとして、若者たちの将来が心配です。
Commented by saheizi-inokori at 2017-02-21 00:39
> jarippeさん、悩んで病院にいってエコー検査、異常なしということでオシャレした甲斐がありました^^。
Commented by saheizi-inokori at 2017-02-21 00:40
> antsuan、同感です。
手遅れでしょうが。
Commented by haru_rara at 2017-02-21 12:34
親の老いに直面している今、しんみりと拝読しました。
夫の母の話はたくさん聞いてきましたが、自分の父母の歴史は詳しく聞いたことがないのです。
今度、父の話を聞いてきます。
Commented by saheizi-inokori at 2017-02-21 13:54
> haru_raraさん、私はうっかりしていたとつくづく情けないです。
孫たちに話してやるネタもない。
Commented by j-garden-hirasato at 2017-02-21 19:17
春の花が増えてきましたね。
今朝も雪かきでした。
さすがに暖かくなってきたようで、
すっかり融けましたが。
Commented by saheizi-inokori at 2017-02-21 21:52
> j-garden-hirasatoさん、夕方のニュースで長野駅前の雪の様子が映っていました。
明日は晴れるといいですね。
Commented by kanafr at 2017-02-22 01:26
>デパートのうぬぼれ鏡春来る
お母様の詠まれたこの句と同じような事を、母が言った事があります。
もう親孝行さえできない遠いところに行ってしまいましたが、老いるという事が実感しつつある今、もう少し母の気持ちにそってあげていたらよかったのになあと、今頃になって思う日々です。
Commented by saheizi-inokori at 2017-02-22 09:46
> kanafrさん、孝行をしたい時には親はなし、とはよくいったもの。
でも存命だと孝行しないのかもしれない、私は。
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by saheizi-inokori | 2017-02-20 11:51 | わが母と祖母の遺したまいしうた | Trackback | Comments(14)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


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