なるほど近松門左衛門は天才だ 文楽「冥土の飛脚」@国立劇場

国立劇場の文楽・近松名作集、「冥土の飛脚」を観た。
なるほど近松門左衛門は天才だ。
ダメな男、それはほとんどの男のことだが、が、身勝手にも哀しい定めにある女郎を地獄に引きづり込む。
迫力のあるストーリー展開、セリフの妙、これは客を夢中にさせる(今もなお)。

「淡路町の段」、飛脚屋・亀屋の忙しそうな様子から一転、客から金の催促があいつぎ、どうやら店になにか変調をきたしているらしい、きつそうな養母妙閑が養子・忠兵衛の鼻紙の使いっぷりが半端じゃないことを案じている。
(死んだ親父が)鼻紙びんびと使う者は曲者ぢゃと云はれたが、忠兵衛が内を出ざまに延紙三折づつ入れて出て、何ほど鼻をかむやら、戻りには一枚も残らぬ、身が達者なの若いのととてあのやうに鼻かんでは、どこぞで病もでませう
店の者の前でこんなことを言う、忠兵衛の遊里通いが激しいことを見抜いているのだ(昔は客が鼻紙持参だったらしいね)。

遊里から帰ってきた忠兵衛が留守の間の様子を知るために飯炊き女に色仕掛けで迫ると女が真面目にとって、訊きたいことがあるなら(今ここでなく)晩に「寝所でしっぽりと聞きましょう、、わしはお湯沸いて、腰湯して待ちます」

笑わせながら忠兵衛、二十歳、大和の大百姓の一人っ子しかも継母に育てられていたのを養子にもらわれた若者が、女郎・梅川に執心のあまり店の金を使い込んでしまうような思慮を欠いた衝動的な行動がどんどん破局に向かっていくのを暗示する。
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忠兵衛は、堂島のお屋敷に急用の三百両を届けるつもりが方向の違う遊里に向かってしまう。
行こうか戻ろうか、迷いに迷う、そのさまを
おいてくれうおいてくれうおいてくれうか、いてのけういてのけういてのけういてのけういてのけうか、イヤイヤやっぱりおいてくれう、、
を大声で、か細い声で、きっぱりと、悶えるがごとくに、、何度も何度も繰り返し、あっちに行こうと、、こっちに行こうとする。
野良犬がじっと見ている、
一度は思案、二度は不思案、三度飛脚(江戸と大坂を月に三度出立した)、戻れば合わせて六道の、冥土の飛脚と。

こういう時に正しい判断をするようでは悲劇の主人公にはなれない、冥土へ一直線だ。
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「封印切の段」。
廓の新町、茶屋・越後屋に女郎たちが集まって来て、二階で数を当てる拳で遊んでいる。
一階には女主人が火鉢をつついたり本を読んだりしている。
華やかなようで哀切な風情が漂う。
慰みに禿が浄瑠璃を弾き語り、その歌詞が女郎の哀しさを歌っているからみんなますます沈み込む。
禿の三味線を弾く撥と指が床のそれとみごとにシンクロしている。

忠兵衛はつまらない男の意地で使っちゃならない三百両を投げ出して梅川を身請けしようとタンカを切る。
そのときの梅川が、自分は「下宮島へも身を仕切り、大坂の浜に立っても、こなさん一人は養う」から、その金に手を付けるのはやめてくれ、とかき口説くのが哀れ、ちょっと落語の「お直し」のようだが、落語の方は男がそれを要求するのだった。
忠兵衛が、この金は自分の金だと嘘をつくと、梅川が喜んで仲間に盃事をしたり、暇乞いもしてゆっくり行こうというのがいじらしく、涙を誘うところだ。
友だち甲斐に忠兵衛を救おうとする侠気・八右衛門が好い。
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「道行相合駕籠の段」

雪が降りしきるなかで衰えた二人が一枚の羽織を譲り合い、案山子の笠をかざして立ちつくす。
この期に及んでも、かくなることは「こなたの科でなし、皆この私ゆえなれば、女冥利に尽きること」「ただいとしぼは私が母、、、一目逢うて死にたいもの」という梅川がますます愛しく哀れの極み。
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「しらいし」で。
はじめ」が親方の病気で休業だと貼り紙。
気がかりなことだ。

Commented by maru33340 at 2017-02-15 20:30
私も先日ついに「冥途の飛脚」で文楽デビューし、近松の天才に、文楽の世界の奥の深さに圧倒圧倒されました。
(さへいじさんの丁寧なレビューで細部を思い出しました。)
すっかり文楽にはまってしまってみたいです。
Commented by saheizi-inokori at 2017-02-15 21:22
> maru33340さん、すごい世界ですね。
私は明日、曽根崎心中で近松名作集が終わります。
次もなにか見たい気分です。
Commented by テイク25 at 2017-02-16 10:34 x
若い頃は全く興味がなかったのに人間が熟すると共に(?)面白さが少しわかるようになりました。宇都宮での地方公演を観に行った時に、ロビーで人形遣いが操って表情を作る人形を間近に見て、その美しさ、遣い手の技術に息を呑みました。恐るべし日本の伝統芸術。また遠い国立劇場で観たいです。
Commented by at 2017-02-16 10:44 x
いったい何年文楽をみていないのだろうか?
・・・・結婚してからかもしれん。うわぁ〜
Commented by saheizi-inokori at 2017-02-16 21:55
> テイク25さん、私もこのところはまりつつあります。
義太夫が歌うがごとく語るがごとく、泣くがごとく、三味線・人形と三位一体、すごい芸術だと思います。
橋下なんかにわかってたまるもんか^^。
Commented by saheizi-inokori at 2017-02-16 21:56
> 蛸さん、これはタイにはいかないのかな。
海外公演もやっているようですが。
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by saheizi-inokori | 2017-02-15 14:08 | 能・芝居 | Trackback | Comments(6)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori