弾圧では貧困は救えない 工藤律子「マラス 暴力に支配される少年たち」

たった二日半だったのに、旅と言ってもはばからないような「かくも長き不在」だったような気がする。
テレビや新聞とも縁を切っていたから、稲田防衛大臣の「戦闘行為と言ったら憲法9条にあたるので武力衝突と言った」という正気を疑うような発言はほんとにあったことかと思う。
それが本音だということは前から分かっていたが、まさかそれを国会でいうかい?!
あの抑揚のない無表情な口調は目の前のリアルを離れて神武天皇の実在する世界に棲んでいる彼女なるがゆえの言葉なのだろう。
国会=国民を舐めきっている、というよりも彼女の念頭には国民の存在はないのじゃないか。
本来なら一気に倒閣か!という発言なのに、テレビ各社は安倍のアメリカ訪問を楽し気にもてはやしている。

あれだけ日本を侮辱し世界を敵に回している男にものを言いに行くというのに、毅然とした風・確固たる決意の片りんも見せずに、「親しくなる」ことをのみ言い立てて、にやけ顔で飛行機に乗りこむ。
交渉も始まらないうちから何十兆円とかの「アメリカの」雇用創出計画を提案するとはしゃいで、望外の手土産にトランプは笑いが止まらないだろう。
フクシマ、沖縄、すべてうっちゃって飛行機に乗っていった。
いっしょにゴルフをする?!ちったあ慎めと言いたいけれど、通じないな。
一打一兆円で投資額の上積みを約束してくるのだろう。
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(会津坂下方面!ああ、ここで乗り換えた半世紀前のことども)

トランプはメキシコとの間に壁を作って不法移民をシャットアウトするという。
そのメキシコには中米三国(グアテマラ、エルサルバドル、ホンジュラス)からやって来た子供たち―最終目的地はアメリカーやアメリカから追い出されてきた子たちが移民局に保護されている。
そこで難民認定を受ければ成人に達するまでメキシコの施設で保護され教育などを受ける。
彼らは母国でマラスという暴力団から逃げてきたのだ。
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「マラス」とは何か?
その起源はアメリカとも無縁ではない、アメリカ移民した者たちが生活苦ゆえにカリフォルニアで暴力団化して、そのうち母国に送り返された者たちが母体となっている。

はじめはゆるい仲間・グループとして暮らしていたものがアメリカの本部からの指令で縄張りを拡げ確保するためにグループ間の殺戮が始まり、しのぎの為に市民に対する盗みや殺人の請負などをビジネスとするようになった。

ホンジュラスのリカルド・マドゥーロ政権が2003年に刑法を改悪してギャング・マラスの弾圧に乗り出してから事態は最悪となった。
タトゥーを入れている者は見境なしにマラスの一員だとして逮捕、若者たちの出口を失くして行動を過激・凶悪化した。
本来、(ギャングの一員であることでしか居場所のない)青少年たちの生活・教育支援が課題であるのに、壊滅=治安問題としてしまった。
取り締まりには軍警察を使う。
その実態はギャングと紙一重だ(ギャングより怖いという市民も)。
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メキシコのストリートチルドレンの実態を26年間も取材してきた筆者がマラスの実態を取材した。
マラスを救う教会の牧師補佐をする元マラスの大物(表紙写真)、マラスが実態支配する刑務所の実情、アメリカに行きそびれてメキシコで難民認定を待つ少年、多くの人びとにあった。

なぜ、マラスになったのか?
彼らには選択肢はなかった、そうしなければ生きていけなかったという。
食っていけない、親や家族から見放されギャングの暴力にさらされた。
彼らが共通して求めていたのは「リスペクト」、それが暴力に対する恐れによるまがい物の畏怖であれ、周囲のひとたちから畏敬の目で見てもらうことだった。
アイデンティティの喪失が問題だった。
それは日本のイジメにおけるイジメる側に所属することで得られるまがい物の安心感とも似通う。
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人口当たりの殺人数が世界一のこの国々のかかえるマラス。
フイリピンにも見られる強権的弾圧は本質的解決にはならないと思う。

本書に登場する、彼らに寄りそい相談相手になって自立支援(犯罪予防ではなく人材育成)を行うNGOや教会などの人びとの存在がわずかながら希望の燭光だ。

集英社
Commented by テイク25 at 2017-02-10 15:51 x
お帰りなさいませ。稲田の正直発言を聞いて、浮かれアベの顔など見たらまた雪の世界に戻りたくなったのではないでしょうか。

マラスというギャング集団は知りませんでしたが、貧困から犯罪へと進まざるを得ない子供たちが世界に大勢いるんですね。親から子へ、その子が親になってまたその子へと続く貧困の連鎖。それを餌食にするギャング。
昨年、「ストリート オーケストラ」というブラジル映画を観たのですが(映画自体は余り質がいいとは思いませんでした)、手を差し伸べる大人がいても、その生活から抜け出すには余りにも根が深くて、結局あの子たちの将来はどうなるのだろうとやるせない気持ちになりました。それでも手を差し伸べる人々の存在と力がなければ希望も何も生まれませんね。


Commented by saheizi-inokori at 2017-02-10 21:53
> テイク25さん、ギャングを抜けるというだけで殺される。
ただ彼らも牧師などの教会関係に行く人だけは見逃すのだそうです。
悪事を重ねていても心のどこかで救いを求めている人が多い、表紙の写真の元ボスも回心したので今は後輩?のギャングに説教をする日々らしいです。
Commented by j-garden-hirasato at 2017-02-11 06:35
生まれたその場で、
その人の人生が決まってしまう。
選択肢がないというのは、
ほんと、残酷なことですね。
Commented by saheizi-inokori at 2017-02-11 09:36
> j-garden-hirasatoさん、天皇もそうなのですねえ、考えてみると、抜ける自由もない。
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by saheizi-inokori | 2017-02-10 13:02 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(4)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori