トランプは革命の先触れなのか エマニュエル・トッド&佐藤優「トランプは世界をどう変えるか?デモクラシーの逆襲」

米国の金融危機、イギリスのEU離脱、そしてトランプの当選を予見していた歴史家・エマニュエル・トッドは
トランプが当選することは当然起きたことだ。
という。
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そのわけは?
アメリカ人の生活水準がこの15年で下がりました。(略)米国の白人の一部で死亡率が上がったのです。45歳から54歳の人たちです。米国の有権者の中で、白人は4分の3を占めます。この人たちは、不平等や停滞をもたらしたのは自由貿易であり、それが世界中の働いている人間を競争の中に放り込んだ、と理解しています。自由貿易と、ある意味で移民によってだ、と理解しています。
そして、自由貿易と移民の自由を問題にする候補が選ばれた。これは当然のことが起きたと言うほかありません。つまり、米国の有権者は全体として理にかなったふるまいをした。そして、(それを結果に反映させた)米国は民主主義国だということです。
社会の上層階級の人たちは快適に暮らしていて、ものごとは正常に働いていると思いがち。
パリのテロのあとで「私はシャルリー」と言っていた人たちと同じで、自分の社会は素晴らしくて並外れた価値観を持っているというのは、「現実から完全に遊離した信仰告白」にすぎない。
米国がうまくいっていない、米国はもはや世界から尊敬されていない、トランプの言ったことは真実だ。
要するに、この選挙で私たちは現実に立ち戻ったのです。
(トランプが好きだということではなく)幻想に浸っているより、現実に戻った方が諸問題の対処は容易です。
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ラストベルトのプロレタリアに選ばれたトランプは、人類学や宗教に対するマルクスの逆襲であり、米国の民主主義の逆襲でもある。
大勢順応主義のエリートや経済学者は否定されてしまった。

米国の平等は白人の平等であって黒人差別は今も終わらない。
共和党は福祉は黒人のためのものとして福祉国家に反対してきたが、今回トランプは人種やさまざまなシンボルではなく、経済闘争を最優先事項とすることで共和党の候補者になった。
トランプの就任演説の「最も大事なことは私が政党の代表ではなく、国民の代表になった、国民が統治を取り戻したこと」というのはまさにそのことだろう。

かたや民主党は、黒人やマイノリティの味方であるということによって、結局黒人であることが重要な意味を持つ、と人種に重心を置いた考え方を存続させたのだ。
前に紹介した、黒人の自立を主張して民主党白人エリートによるアファーマテイブ・アクションなどの黒人囲い込みに反対している「反オバマの黒人保守思想」がいっそうの伸長をみせるのではないか。

自由貿易を世界に押しつけてきた国で、自由貿易に異議を申し立てる候補が政権に就く。これは思想的にきわめて大きなことだということが、明らかになっていくでしょう。
3・11直後に、ぼくが拙い言葉で、
東大を頂点とする原子力ムラ、ひいては今までの世界を動かしてきた”システム”の有効性が否定された、これからはまったく新しいシステムを構築することが求められるのではないか。
と言ったこととも重なるように思える。
ことはトランプでは収まらないのだと思う。
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トッドは
米国で民主的な揺り戻しというか革命があるとすれば、それは依然として社会を理解しようとしないエリートたちに対するものになるのではないか、
これを「心配です」といい、
今の米国のシステムで自分の経歴、歩みが断ち切られた人々が再び登場することもあるでしょう。時代の空気が変わるのですから。
という。

朝日選書
Commented by jarippe at 2017-01-21 17:09
我が国の民主主義は?
Commented by saheizi-inokori at 2017-01-21 22:35
> jarippeさん、死にかかっていますね。
メデイアもアベ一辺倒、三権がアベ、国民は韓国ほども怒らない。
Commented by urontei at 2017-01-22 06:26
必要以上に過激に訳されて伝わってきますが、トランプ現象というのは、かつて日本で小泉さんが 「自民党をぶっ壊す!」 と息巻いていた頃と同じような感覚なのではないかと、僕は考えています。

これから、アメリカはぶっ壊れてゆくのでしょう。それは確かなことだと思います。
その上で、佐平次さんの書かれたように 『まったく新しいシステムを構築することが』 できればいいのですが、現実は、壊れるのは表面ばかりで、いま甘い汁を吸っている連中は、より地下深くに潜って、引き続き甘い汁を吸い続けるような気はします。
そして、トランプさんは(小泉さんも)、壊したものは壊しっぱなしという粗雑さが感じられます。

ある意味、アメリカに先駆けてぶっ壊れているニッポンを、ぜひ反面教師としていただきたいものです (^^;
Commented by j-garden-hirasato at 2017-01-22 07:07
でも、
トランプ自体がアメリカ社会の頂点に近い立場だから、
どうなんでしょうね。
通常の大統領ではできなかったことを期待されて選ばれたのでしょうけど、
はたして、それがいいのか、
どうも疑問です。
とんでもないことにならなければいいのですが。
Commented by saheizi-inokori at 2017-01-22 10:22
> uronteiさん、トランプ政権の閣僚に金融資本の大富豪や石油資本の親分が入っていることひとつとっても、彼のいう「ワシントンから権力を取り戻す」というのは何を意味するのか不透明で薄気味悪さも感じます。
ネオナチ?
日本が主体性を少しでも取り戻すチャンスでもあるのではないでしょうか。
Commented by saheizi-inokori at 2017-01-22 10:27
> j-garden-hirasatoさん、おっしゃる通り、トランプ自身および閣僚たちにほんとうの改革はできないと思います。
そうすると彼を信じて大統領にのし上げた下層階級の人たちは黙っていないでしょう。
そのときにトランプがどう出るか?
なんだか「とんでもないこと」が起きそうで怖いですね。
日本が主体性をもってそういう動きを牽制・抑止できればいいのですが、、無理でしょうあの人たちは周章狼狽するばかり保身の塊ですから。
Commented by kanekatu at 2017-01-22 15:42
かつてのイギリスやフランスなどは植民地からの収奪によって富を蓄積してきました。
対する米国は植民地に代わる自由貿易による収奪で巨大な富を築きました。TPPもNAFTAも元はアメリカが他国に押し付けたものです。
それを保護主義に切り替えて、どのように他国から収奪をするつもりなのでしょう。
もしトランプが収奪そのものを否定する気なら賛成しますが、ビジネスマンの彼がそんな事は有り得ない。
Commented by cocomerita at 2017-01-22 18:06
ciao saheiziさん
みなさんがおっしゃってる“ とんでもないこと" は、もうとっくに起きていませんか?
それが水面下だったというだけで
近年起きている " とんでもないこと" の舞台裏にことごとくアメリカをはじめ、イスラエル 及び フランス、イギリス、ドイツなどの欧米大国の黒過ぎる思惑が脈々と息づいてたわけですから、

私は、むしろ悪いものなら悪いと、病んでる病巣は見せて欲しいと思っています
ですからむしろ 全然善人でもなければ困ってる人を助けようという気持ちもない 政治をただ私物化する( 言わせて貰えば この政治家の性癖は何もトランプに始まったことではありません) であろう トランプの行動は むしろ楽しみであり、
作り笑顔のええ格好しいのオバマも、人に好かれようなんて糞食らえと思ってるトランプも 同じ穴のむじななのに、なんでみんなこんなにトランプ、トランプと騒ぐのか よくわかりません
しつこいようだけど もしトランプが4個の折り鶴持って広島に来たら、真っ先にあ、4だって、死だ、失礼な話だと気づく人がもっといるはずで、オバマだと恭しく 記念館に飾っちゃう

外見とか態度 お金持ちってことに大きく影響されてませんか?
政治家なんて一皮むけば皆同じ
後ろから肩叩かれれば 自分の保身のために ミサイルの発射ボタン押すことなど躊躇しないのも皆一緒です
トランプだから ってことではないと思うのです。

ということで私はトランプに関しては全然怖くありません
それよりも 6年も窮地に放り出されてる、そしてこれからも決して心にかけて貰えないであろう福島のことや 人権ことごとく踏みにじられている沖縄のことや 汚染しっ放し 垂れ流しの日本列島の汚染対策を全くこうじていない日本政府の方がよっぽど気になります
Commented by saheizi-inokori at 2017-01-22 21:15
> kanekatuさん、まさにそこが致命的ですね。
人びとを潤す原資がない、自足に甘んじる覚悟があるかと言えばない、早晩次の破局に向かうのだと思います。
その先は?
Commented by saheizi-inokori at 2017-01-22 21:28
> cocomeritaさん、なるほどね。
日米の政治家・権力者の多くが信用できないという点では同じかもしれない。
すでに恐ろしい事態になっているということもそうでしょう。
でもトランプは資本主義経済・社会が行き詰っていることを最大の牽引車であるアメリカが白日の下にさらけだし、保護主義に舵をきることで事態を一回りも二回りも大きな・深刻な悲劇に導くのではないでしょうか。
それがかえって隠れて進行している病巣を明らかにして対処する動きも出てきやすくなる(トッドが言うように)のかもしれないけれど。
日本がこの機にアメリカ従属を改めて沖縄や原発に主体的に取り組むならばむしろ事態好転のチャンスかもしれないです。
Commented by ikuohasegawa at 2017-01-23 08:13
エマニュエル・トッドと佐藤優の対談?本なら読まずにはいられません。アマゾン・ポチ。
Commented by saheizi-inokori at 2017-01-23 09:22
> ikuohasegawaさん、いや、これは対談じゃないのです。
トッドに対する朝日新聞の大野記者のインタビュー(朝日新聞に一部?が載りました)があって、佐藤の「「トランプ現象」の世界的影響、そして日本は」という小論文が載っています。
ちょっとペテンみたいな表紙ですね。
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by saheizi-inokori | 2017-01-21 12:36 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(12)

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