ブッシュは秀吉を見習った? 江宮隆之「沙也可 -義に生きた降倭の将」(桐原書店) 司馬のことも

ブッシュは秀吉を見習った? 江宮隆之「沙也可 -義に生きた降倭の将」(桐原書店) 司馬のことも_e0016828_2141173.jpg1月10日付の記事に書いた「沙也可」だ。文禄・慶長の役で朝鮮に降伏したという日本の武将の話。

司馬遼太郎の推理とはちょっと違う沙也可像を描く。たとえば司馬は「さやか」とは「左衛門」の誤読ではないかといい、彼の降伏に当たっての「中華(文明)を慕う」ということばは、本人らしくなく後人の創作だという。江宮は「さやか」は「雑賀(さいが)」が朝鮮人に「さやか」と聞こえたとし、「慕夏洞文集」にあるとおり沙也可は中国古代王朝の「夏」を理想の政治を行った国として憧れていたとする。

朝鮮の貴族の血を引いているという想定の江宮・沙也可の母は
朝鮮という国は武器や力を持った武士(もののふ)よりも、すべてを言葉と法とで律している文官の方が位は上です。それは強い者が勝つという力こそ正義だという日本とは違った国の成り立ちをしているからなのです。あの国では、争いのないことが自慢なのです。人の生き方は斯くありたいものですね。
と、教え諭す。

このところは司馬も儒教原理を骨肉としている中国、それを見習い、姓まで中国流にして「東方礼儀の国」と称賛されている朝鮮に対し、中世日本は武士の”ことさら美的に言えばじつに凛々しい”といい、
凛々しさというものは是も非もないもので・・(略)政治や思慮分別と断絶するところに成立する。
と書く。

江宮の沙也可は「降倭」すなわち朝鮮に降るときに言う。
大義を失ったら、戦もただの虐殺に過ぎぬ。

我らは、人間として日本軍のやり方が許せないから、降倭としてこの国に残ることにした。祖国を裏切る訳ではなく、もっと大きな・・人間としての大義を。

どこで生きていても、その国には、その国の人々の生活があり、幸せがある。それを邪魔する権利も、奪い取る権利もどのような人間とて持ってはいないはず。ましてや他国の人間が隣国の人間にそのようなことをする権利など一切ない!

確かに当時の秀吉が朝鮮を攻める大義は、アメリカがイラクを攻めている大義(ほとんどないと思われるのだが)より遥かに少なかった。すなわちゼロだった。しかも無辜の市民を侵し、虐殺すること遥かに烈しかった。あとがきで著者はこの戦争で朝鮮の人口は30~50パーセントが失われたという説を紹介している。

江宮も司馬も秀吉の無益かつ非道な戦争を憎む気持ちが沙也可を動かしたという点で共通している。すなわち二人の作家も同じ気持ちだということだ。

歴史小説としても雑賀鉄砲衆の強いこと、沙也可の知略・武勇の勝れていること、当時の朝鮮や明のだらしなさ(李舜臣の英雄ぶり)なども面白く読める。

司馬は「儒教の理想が現実には官僚の腐敗により国の弱体につながった。逆に日本は武家による土地私有制が、アジアの国としては例外的に清潔な統治システムをつくることにつながった」と書いている。
ブッシュは秀吉を見習った? 江宮隆之「沙也可 -義に生きた降倭の将」(桐原書店) 司馬のことも_e0016828_21251945.jpg





梟はソウルにもたくさんいたよ。
Commented by suiryutei at 2006-01-16 16:21
saheizi-inokoriさん、こんにちは。
雑賀が朝鮮の人には沙也可と聴こえたという解釈はなかなか魅力的ですね。そいいえば司馬遼太郎にも紀州雑賀衆を描いた『尻くらえ孫市』という小説があります。司馬の作品の中では、私はこれは好きなほうです。
Commented at 2006-01-16 20:21
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Commented by saheizi-inokori at 2006-01-16 21:49
suiryuteiさん、ネット見ていたら和歌山の観光関係の人が「沙也可」を紀州観光の目玉にと張り切っていましたよ。小説は孫市の息子が「沙也可」になるという設定だった様です。雑賀の恨みも晴らすのですね。
Commented at 2006-01-16 21:49
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by saheizi-inokori | 2006-01-15 22:05 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(4)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori
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