初めて忠臣蔵を観た

忠臣蔵は、おおよそのストーリーから登場人物の名前や性格、有名なセリフまで多くの人に知られている、国民的物語だ。
落語にもよく取り上げられて、芝居好きな若旦那や店の小僧などが歌舞伎の名場面を仕方噺をしたり、歌舞伎役者が噺の主人公として由良之助や斧定九郎になつたりもする。
テレビや映画にもなんどもなつたし、丸谷才一は忠臣蔵に見られる日本人の御霊信仰について面白い評論(「忠臣蔵とはなにか」)を読ませてくれた。

ああ、それなのに、ほんものの忠臣蔵歌舞伎をみたことがなかった。
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国立劇場が50周年記念公演として、通し狂言仮名手本忠臣蔵を完全通しで3回にわけて、3ヶ月連続でやるという。
まさに冥土の土産だ。
五感の利くうちに、いかざあなるめい。
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口上人形が首をクルリと回して、とざいとーざいと出演者を、とくに大物にはエッヘンエヘン!咳払いが入って「大星由良之助 一役、まーつもと(松本)幸四郎、松本幸四郎」と呼び上げる。
物語の発端を説明する儀式的な大序(いかにも悪そうな黒服の師直・左團次、凛々しい浅葱色の若狭之助・錦之助、穏やかな黄色の塩谷判官・梅玉)で始まり、松の間の刃傷(三段目)、判官の切腹、遺された大星由良之助が家臣を説得して城を明け渡し、一人山科に向かうまで(四段目)、二度の休憩を挟んで五時間十五分、前から二列目まんなかという席で堪能した。

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関容子の名著をおさらいしていって、ここに書いてある細かい演出や工夫が、なるほどと理解出来たところと、気がつかないままに終わったところと、ニハチくらい、もちろん解らなかった方がハチ。
デーモ!血気盛んな家臣たちが、由良之助の説得に不服で、叫んだ、デーモ!じやないが、関さんほど深く観賞できなくても、涙あり笑いあり、動と静、武があり恋もあり、ハラハラどきどき、なるほど日本人を夢中にしてきただけの芝居だと深く納得した。
御霊信仰の支えなどなくとも民衆が時を越えて熱狂するはずだ。

落語などでお馴染みのセリフが、こういう状況でほんとうはこういう言い方で発せられるのかと教えられたこともいくつかあつた。
11月は第二部、菊五郎(勘平)、吉右衛門(大星由良之助)だという、楽しみ也。
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夜は横浜で落語仲間と落語ではなくベイスターズのクライマックスシリーズ進出を祝い(ユニフォームを着て来るし、年に3~40回も球場に行ったという二人の熱狂的ベイファンのために)、読売をやつつけたことを愛で(その他四人)、横浜ファンの聖地とも言われるスポーツカフェでワイワイ。
六人のうち、四人が忠臣蔵を見ていた。
「何かのファンにならない人生とはどんなものだろう」という問題提起がMさんからなされたが、答えらしい答えもないままにカブスの話やら、ベイの指導者月旦やら。
皆さん、繫多ななかによくいろんなお勉強をなさって、しっかり楽しんでおられる。

Commented by rinrin at 2016-10-27 19:36 x
↓の志村ふくみ展、見たかったなぁ~
Commented by takoome at 2016-10-27 21:43
やっぱ、日本はええなぁ、
Commented by saheizi-inokori at 2016-10-27 22:04
> rinrinさん、展覧会を追っかけする女性がけっこういらっしゃるようです。
Commented by saheizi-inokori at 2016-10-27 22:06
> takoomeさん、そう、だから日本のいいとこがあるうち、賞味できるうち、できるだけ見歩こうかと思うとります。
Commented by j-garden-hirasato at 2016-10-28 06:27
「二度の休憩を挟んで五時間十五分」
歌舞伎って、そんなに長いんですか。
演じる方も観る方も、
体力勝負ですね。
Commented by saheizi-inokori at 2016-10-28 09:20
> j-garden-hirasatoさん、昔はそれこそ一日で全編やったそうですから、深夜に及んだようです。
今でも役者は24日間、ぶっ通しなんですから、体力がなければできないです。
Commented by 喜洛庵上々 at 2016-10-28 10:12 x
おはようございます。
ご紹介賜りました関容子氏の『芸づくし忠臣蔵』、明日(土曜日)手元へ参る予定です。
楽しみです^^
文庫本は値がついていましたのに単行本は1円(!)でしたので、単行本を注文してしまいました^^;
Commented by ほめ・く at 2016-10-28 11:09 x
赤穂浪士の吉良邸討ち入りが終わったあとで、数十という忠臣蔵が上演されたそうですが、残ったのはこの『仮名手本』だけ。それだけ脚本がしっかりしていたのでしょう。陰と陽が交互に繰り返される舞台構成、お軽勘平の恋模様と悲劇的結末、道行きでは舞踊の場面を加えるなど演出上の工夫も見事です。
近代になって書かれた『元禄忠臣蔵』を通しで観たことがありますが、退屈しました。史実に忠実ってぇのは面白味に欠けますね。
Commented by saheizi-inokori at 2016-10-28 13:40
> 喜洛庵上々さん、それはお買い得!きっと満足なさると思いますよ。
Commented by saheizi-inokori at 2016-10-28 13:42
> ほめ・くさん、たしかに!これだけのものを見せられるとインスパイアされて映画などほかのジャンルへの創作欲もわくだろうと思いました。
Commented by 創塁パパ at 2016-10-28 16:21 x
楽しかったですね。今度は落語で(笑)
Commented by saheizi-inokori at 2016-10-28 23:17
> 創塁パパさん、OK!
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by saheizi-inokori | 2016-10-27 14:00 | 能・芝居 | Trackback | Comments(12)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori