犬は世界を駆け巡る 古川日出男「ベルカ、吠えないのか?」(文藝春秋)
2006年 01月 14日

北海道犬の北の胤から生まれた血筋の3000頭と700頭と33頭が、ジャーマン・シエパードの血統に連なる2000頭と900頭と28頭が、共産圏/資本主義圏の線引きを無視して地上のいたるところに散らばりながら、同時に蒼穹(あおぞら)を見上げていた。
だから紀元前の物語から始まる。1943年”日本に占領されていた”(20世紀にアメリカ合衆国領土が他国に占領されたことがあるって知っていたかい?)旧アメリカ・キスカ島奪回作戦で日本軍が撤収したときにおいていかれた4頭の軍用犬(北を含む)の物語から。
犬たちの世界をかける物語は現代世界史でもある。特にアメリカ、ソ連からロシア、中国、ヴェトナム、アフガニスタン・・戦争の歴史だ。犬たちは翻弄され続ける。真実・忠良な犬の目から見たら理解不能なヒトどもの愚行の繰り返し・洋の東西・時代を問わず。戦争の歴史に存在するのはマフイア、ヤクザなどの闇世界、表と裏の2重構造、犬たちはそこでも翻弄される。
翻弄されながらも犬は増え続け死に続け生き続ける。犬同士の邂逅。
お前たちの邂逅は、価値観の異なる二つの犬の世界の邂逅だ。お前たちはあらゆる意味を無効にして、愛によって結ばれている。二つの血統の運命が交錯して、ここで、お前たちは家族だ。ヤクザの娘は意識において犬となり犬とともに生きることで辛うじて生きのびる。もはやまともな物語は人間によっては紡がれないと言いたいかのように?

さまざまなエピソードーそれは聖書のそれのように暴力的であったり感動的であるのだが、間違いなくもっと”面白く””スリルに満ちて読みやすい”ーが積み重ねられてやがて20世紀を殺す。これだけのイヌたちの性格と矜持(ヒトには失われた)を数多く登場させそれぞれの感動的な物語を書き分け、しかもそれを一つの大きな地球の物語に収斂させていくのは作家の並み並みならぬ力技!
今まで読んだこともないような小説。独特の”息をする”文体。戌年の始めにオススメの逸品。

ベルカ、吠えないのか?古川 日出男 文藝春秋 2005-04-22by G-Tools 戦争の世紀であった20世紀を、撤退する日本軍に置き去りにされた、4頭の軍用犬からはじまる、「犬の歴史」として描いてしまった作品。この発想がすでにただものではありません。開き直りとも思えるこんな言葉から、この小説ははじまります。これはフィクションだってあなたたちは言うだろう。 おれもそれは認めるだろう。でも、あなたたち、 この世にフィクション以外の何があると思ってるんだ?第二次大戦・米ソの対立・朝鮮戦争・東西...... more


評者が最初に読んだ古川作品が◎『13』。その後◎◎『アラビアの夜の種族』や ○『サウンドトラック』で再び古川作品を堪能し、すると「JardinSoleil」の四季さんが、文庫化された際に二つの単行本が一つに収蔵された『沈黙/アビシニアン』(←四季さんの感想です)にお薦めマークをつけたので、早速単行本の方の◎『アビシニアン』を読んだところで、当然のように四季さんから『沈黙』のほうも面白いですよと言われ、そのとき評者はこういう風に返事をしたのを記憶している。いや、多分、面白いとは思うのですが、古川作品て...... more

◎ 『13』 ◎ 『アビシニアン』 ◎◎ 『アラビアの夜の種族』 ◎◎ 『中国行きのスロウ・ボート RMX』 ○ 『サウンドトラック』 ◎◎ 『ボディ・アンド・ソウル』 ○ 『gift』 ◎◎ 『ベルカ、吠えないのか』 △ 『LOVE』 ▲ 『ロックンロール七部作』... more

ベルカ、吠えないのか?発売元: 文藝春秋価格: ¥ 1,800発売日: 2005/04/22売上ランキング: 3,651おすすめ度 posted with Socialtunes at 2005/12/08 噂のベルカ、やっと読み終えました。図書館で借りては読めずに返し、 それを2回繰り返しさらには図書館で行方不明になり、やっとみつけて 「おお、ベルカ!」と再会を喜び、そしてやっと読みました。 いやあ疲れた。1章読んで呆然、一息ついてまた読む、を繰り返し。 大して分厚い本でもないのに、す...... more

これは悲劇である。イヌと人間の。また、この世界を生き抜いた証でもある。込み上げる熱い感情の置き場が見つからないまま、多くの試練や数々の生死、繰り返される闘いに目を奪われる、古川日出男・著『ベルカ、吠えないのか?』(文藝春秋)。それは、己との闘いでもあり、敵と... more

ベルカ、吠えないのか?古川 日出男 文藝春秋 2005-04-22 第二次世界大戦末期、日本軍によってキスカ島に残された四頭の軍用犬。人間に、そして時代に翻弄されながらも、子孫を増やし、生き抜いていく犬たち。時にすれ違い、時に交わりながら世界中に散っていく彼らは…。 犬が主役の戦争小説だというので、犬が人間のように会話をしたり、回想したりしながら戦争のことを語るような、そんな安易な想像をしていた私ですが、まったくの誤りでした。そんなもんじゃありませんでした。こんなふうに戦争を描けるなんて、犬...... more

ベルカ、吠えないのか? 古川 日出男 文藝春秋 2005-04-22 売り上げランキング : 3,651 おすすめ平均 Amazonで詳しく見る by G-Tools ★★★★★★☆☆☆☆多くの書評で好評価をもらっているこの作品。表紙の写真がインパクト強すぎて敬遠していた... more

いきなり脱線してマンガの話になりますが、「マスターキートン」の話のひとつに軍用犬を題材にしたものがありました。その話を読んだとき、兵器として訓練された犬に人間が太刀打ちするのは不可能と知り、戦慄を覚えたものです。 そしてこの「ベルカ、吠えないのか?」で再び戦慄、加えて確信しました。 やっぱり、犬は最強なのだと。 第二次世界大戦中の1943年、アリューシャン列島キスカ島に日本軍が置き去りにした四頭の軍用犬から第一の物語は始まります。四頭から派生した純血種、混血種の子孫たちがその後、朝鮮...... more

ベルカ、吠えないのか? 吉田日出男 文藝春秋 2005年4月 1943年、アリューシャン列島のキスカ島/鳴神島に、日本兵が置き去りにいた4頭の軍用犬。北海道犬の北、ジャーマンシェパードの正男と勝、シェパードのエクスプロージョンの4頭。その子孫たちは、どのよう... more

もっと早く読むべきでした、この本。 世間では大評判であることを知りながら、「早く文庫化されないかな〜」とセコいことを考え、ようやく最近になってハードカバーを買うふんぎりがついた【ベルカ、吠えないのか?】。 おもしろいです。 ベルカは犬なのね。 ...... more

古川日出男とは相性が悪そうなので、『アビシニアン』で読むのを止めようと思っていたのですが、やけに評判がいいので、魔がさして本書を手に取ってしまいました。が、結果は案の定でした。 この作家はリアリティのある描写を狙っていないから、わざとやっているのでしょうが、なんか安っぽく感じられてしまうんですよ。 この作品だと、犬に人間流の思考をさせていて、しかも思考内容は、子供時代に少年漫画誌で読んだことがあるような安直な擬人化。犬の行動に作者の恣意が強く感じられて、犬が悪い意味で人間臭くなっていて、動物と...... more




今、クーンツの「ウォッチャーズ」を読んでいます。これも犬ものなの。
アインシュタインというレトリーバーがとても賢いです。でもなかなか進まない(>_<)
池袋演芸場、近々ぶらりと行ってみます。映画も。

まさに“息をする”文体ですよね。歴史はさっぱりですが、五感を刺激されて感覚的に強く惹かれるものがありました。でも、古川作品3冊目にして壁にぶちあたってしまいました…自分に合うのか合わぬのか、迷い考えあぐねております。