「ある子供」(2)  ソニアの場合

18歳で初産。安産とはいえひとり病院で産むのは心細かったろう。ブリュノは病院にも来ないし退院を迎えにも来ない。たったひとり、赤ちゃんを抱いて退院。アパートに帰ると自分の部屋はブリュノがカップルに一週間の契約で貸してしまっているから入れない(ソニアにもドアは簡単に開かないのだ。ブリュノに対してよりはマシだが)。退院して泊まるのは山谷のホテルみたいなところ。ブリュノとは別々だ。今晩は一緒に寝たいと言ったのに。ソニアの退院してブリュノに頼んだともいえない独り言みたいなたったひとつの(ああ、そうじゃない、もうひとつは市役所に行って認知しようよ、というのがあったね。それだって後でもう一回くり返さないとブリュノは実行してくれなかった)希望だったのに。「ある子供」(2)  ソニアの場合_e0016828_22304351.jpg

たいていの女はそこで切れる。愛想が尽きる。出来ている子でもブリュノに会えばまず愚痴や文句の嵐が止まらないはずだ。
ソニアは違う。ちょっと「寂しかった。会いにきてくれるかと思った」としか言わない。そしてブリュノに後ろから足をかけてひっくり返しじゃれあう。自動車の助手席でブリュノの手を噛みふざける。ブリュノが好きで好きでたまらないのだ。200ユーロもする上着・ブリュノとおソロ、買ってもらってモデルのようにポーズを取る君は美しかった。幸せの権化に見えたぜ。ブリュノの愛だけをジミーを得た喜びだけを信じていたんだ。

でもブリュノが赤ちゃんを売ってしまったと聞けば、失神するしかない。もうブリュノとは口もききたくない。愚痴を言う気にもならない。なにもわからずに甘えてくるブリュノを大声で追い出すしかない。なんたってブリュノよりもっと子供なんだ。それにしては遥かにえらいよ。

しかし、ブリュノを・・・。何も保障はない。でも君は三人で生きて行く道を選ぶ。

この映画はソニアの言いたいことを極力省略している。それが見終わってじわじわと感じられて切なくなる。
Tracked from アロハ坊主の日がな一日 at 2006-01-14 00:01
タイトル : [ ある子供 ]自分の力で大切なモノを見つける
[ ある子供 ]@恵比寿で鑑賞。 2005年カンヌ国際映画祭パルムドール大賞受賞。 前作[ 息子のまなざし ]に引き続きジャン=ピエール& リュック・ダルデンヌ監督は[ ある子供 ]でもきょうび の若者の姿を見事に描き出した。 「ある若者」ではなく「ある子供」というタイトルは、若 者の行動や考えの稚拙さを的確に表していると思う。 ... more
Tracked from Cinema-Absol.. at 2006-01-14 00:33
タイトル : ある子供
ある子供  2005/ベルギー  ★★★★★ 監督 リュック・ダルデンヌ / ジャン・ピエール・ダルデンヌ 出演 ジェレミー・レニエ / デボラ・フランソワ ■あらすじ■  まだ若い二人・ブリュノとソニア(ジェレミー・レニエ、デボラ・フランソワ)の間に子供が生まれる。父親という意識のないブリュノは、金を手に入れようと、ふと子供を売ってしまう。 ■総評■  言うまでもなく、原題"L'ENFANT"とはブリュノを指している。  「子供」とは何だろうか?もちろんそれは、単純に年...... more
Tracked from 日っ歩~美味しいもの、映.. at 2006-01-14 01:18
タイトル : ある子供
ネタバレありです。 仲間と盗みをしながら、行き当たりばったりな生活を続けるブリュノ。恋人のソニアとの間に子どもができる のですが、ブリュノは父親になったという自覚がなく、お金のために子どもを売ってしまいます。そのことにショックを受け倒れるソニアの姿を見てブリ... more
Tracked from ラムの大通り at 2006-01-14 09:46
タイトル : 『ある子供』
----この映画知っているよ。今年のカンヌのパルム・ドール受賞作でしょ。 「そう、監督がベルギーの名匠ダルデンヌ兄弟。 本作の受賞でコッポラ、ビレ・アウグスト、今村昌平、 そしてクストリッツァしか成し遂げていない <パルムドール大賞2度受賞監督>の仲間入りを果たしたんだ」 ----この監督って社会派のイメージがあるけど、今度もそうなの? 「うん。久しぶりにこの言葉を使わせてもらうけど、 物語はきわめてシンプル。そしてメッセージはダイレクト。 プレスに巧くまとめてあるので、ストーリーはそこから借用しよう...... more
Tracked from カリスマ映画論 at 2006-01-15 23:51
タイトル : ある子供
【映画的カリスマ指数】★★★★☆  人肌の温もりが人間の心を救い出す... more
Tracked from Re:逃源郷 at 2006-01-28 18:52
タイトル : 『ある子供』
恵比寿にて。 05年度カンヌパルムドール受賞作品。 子供を躊躇なく売ったりするという、主人公の幼じみた行為に、何の怒りも苛立ちも覚えなかった自分自身に腹が立った。 ... more
Tracked from 酒焼け☆わんわん at 2006-03-26 14:38
タイトル : 映画「ある子供 L'Enfant 」を観る
18歳のソニア(デボラ・フランソワ)と20歳のブリュノ(ジェレミー・レニエ)に息子が生まれる。病院から戻ったソニアは、定職もなく怪しい商売でその日暮しをしているブリュノにまじめに働くよう頼む。。。 2005年カンヌ国際映画祭パルムドール賞に輝いたベルギーの名匠ダルデンヌ兄弟の作品。8mmフィルムで撮影したようなドキュメンタリータッチのリアルな映像に釘付けになった。... more
Commented by たろ at 2006-01-13 23:35 x
こんばんは。
弊ブログへのトラックバック、ありがとうございました。
こちらからもコメント&トラックバックのお返しを失礼致します。

作品の特に後半部ではあえて触れていないソニアさんの面から考察された記事を興味深く拝見させて頂きました
この点は僕も全くsaheizi-inokori様と同様に感じており、見せていないソニアさんの存在を考える事が作品鑑賞後に思考を巡らす大きく重要な部分であると思っています。

また遊びに来させて頂きます。
ではまた。
Commented by saheizi-inokori at 2006-01-14 10:07
たろさん、いつもご丁寧にありがとう。よろしく。
Commented by みい at 2006-01-14 11:10 x
saheizi-inokoriさん おはようございます!
「ある子供」以前何かの雑誌の記事を読んで、見て見たいなと思った映画でした。このブログを拝見して、益々みたくなりました。
地方にもくるのかな。調べてみたけれど今はまだ上映してないみたいでした。
saheizi-inokoriさんのこの記事、伝わるものがありました。
Commented by saheizi-inokori at 2006-01-14 16:29
みいさん、いい映画が地方でみれない文化国家なんて可笑しいですね。
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by saheizi-inokori | 2006-01-13 22:38 | 映画 | Trackback(7) | Comments(4)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori