ソドムに生き残りたいか マッケンジー・ファンク「地球を『売り物』にする人たち 異常気象がもたらす不都合な『現実』」

オリンピック開催中は遠慮していたかのように、今朝の国際ニュースはふたたびイタリアの地震、アメリカの竜巻、シリアへの攻撃、中国の炎暑(=火炉というらしい)、そして北朝鮮の潜水艦ミサイルの話など、にぎやかなことだ。
べつに北朝鮮の肩を持つつもりは毛頭ないけれど、休戦中とはいえ戦争状態にある韓米が自分の国を標的にして演習を行い、頼りの中国は日韓の外相と笑顔で会談をしていれば、彼らから見たら世界が自国に挑発していると思うだろう。
KBS(韓国放送)は、潜水艦からの攻撃は今の軍備では対応できないので、いずれ原子力潜水艦を配備しなければならないが、それは廃棄物などの”デリケートな”問題を孕むと(日本語通訳)いっていた。
仰向けに寝ころがってストレッチをしながらぼけっと、さかさまの画面をみていると、落語かSFの世界にいるような感じがした。
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プロキシマケンタウリという太陽系に最も近い恒星に新しい惑星が発見されて、そこには水もあるのではないかと、科学者たちが色めき立っているらしい。
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どうだろう、温暖化と人間の強欲と劣化のためにソドムと化した地球を捨てて遠くケンタウルスへ移住したら。
新自由主義の”英知”をもってすれば、けっして無茶なことでもあるまい。
そんなことを妄想したのはこんな本を読んだからだ。
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ビル・ゲイツなどに支援された、「パテント・トロール」という陰口もあるインテレクチャル・ベンチュアーズ(IV)では優秀な科学者・発明家を集めては自由形式でセッションを行い特許の取れそうなアイデアを練るのだが、そこでは地球の気候を人間の力で変える、気候工学も重要なテーマだ。

今、考えられる有力な案は、ピナトゥボ火山噴火(成層圏に噴き上がった硫黄が太陽光を遮り地球の温度が下がった)の模倣をすること。
そのまた手っ取り早い現実的なアイデアは北極圏で毎年10万トン、毎分7トンの液体二酸化硫黄を30㎞の高さまでポンプ(とホース)でおくり、そこで煙霧装置がエアロゾル粒子の霧を噴出させるというものだ。
ニューヨークに防潮壁を作ることに比べたらタダみたいなコストだという。

そのアイデアを他の学者が批判する。
気温を下げても降水量が正常なパターンにもどるとは限らない。
彼が示したシミュレーション(北極圏に硫黄の蓋をする案の)で、得られた一つの結果は、南太平洋では降雨が減り、海面上昇で水没しそうな島嶼国は干上がり、バングラデシュの降雨量がさらに増加し、インドでは永続的な旱魃がもたらされ、アフリカでもモンスーンに異変が生じ、セネガルやサヘルなどは一層ひどいことになる。

その一方で、北アメリカ、ヨーロッパ、ロシア、南アメリカ、オーストラリアの大部分には工業化以前の気温と降雨量が戻り、夕暮れの光景の美しさも戻るという。
すなわち、一部の人にとっては、これからも万事良好でありつづけるのだ。
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6年かけて北極、アフリカ、北欧など24カ国とアメリカ国内十数州をまわって突撃取材した、温暖化と戦う人間たちの現場リポート。
惨事が起きると資本主義はそれを絶好の金儲けのチャンスと捉え、普通ならできないことをやってしまうという、 ナオミ・クライン「ショック・ドクトリン」 を読んだ俺にとっては、温暖化は彼らの最大のチャンスだろうと想像した、その通りの展開。
気候変動で業績が上がりそうな企業ファンドを売る、北極海航路の活性化と領有権の争い、北極圏の地下資源の争奪、グリーンランドの独立、人工雪、淡水化プラント、火災やハリケーンの保険、営利の消防組織、水供給サービス、水利権取引、農地の世界的・大規模な買い占め、難民の増大と流入阻止のためのさまざまな対策(トランプにはヒントになるだろう)、護岸壁や防潮堤、浮遊式の都市、バイオテクノロジー、気候工学。

そのどれもが、思っていた以上に(温暖化否定論さえまだある)温暖化は加速度的に進行してしまっていることを教え、風が吹けば桶屋が儲かるの論理がこんな風に貫徹しているのか、しかもそこに国際政治力学、むき出しの国同士・民族同士のエゴも働き、ひとつひとつのエピソードが良く出来た寓話のようでもあり、よくできた映画よりもはるかに(不謹慎ながら)スリリングで面白い。
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面白うてやがて哀しくなる。
ほとんどいつも金と権力のある連中が助かり、貧しく弱い人がいっそう貧しくなり、逃げ場を失い、死に直面する、今の日本の拡大図だ。

とくにセネガルやサハラ以南の難民(まだ環境難民という言葉は認知されていないが)や世界一長いフエンスで脱出できないように囲い込まれて水没なり餓死なりしなさいと言われているようなバングラデシュの人々の悲惨は、忘れてしまわないと夢をみるほど、夢で済む俺はいいのだけれど。

だからさあ、モンサントとかなんだとか、遺伝子にいたずらして儲けているような連中にさあ、宇宙耐性の寝たきり人間作りを考えてもらってさ(いっそ分子に解体してもいいか)、ケンタウルスに飛ばして新しい惑星とやらに住むツアーを売り出してほしい。
1%の富裕人間しか買えないような値段でね。

それとも温暖化のその先は、どんな対策も無に帰するような灼熱地獄なのかもしれない。
蜘蛛の糸を切って生き残ったことを痛切に悔やむほどの。

Commented by j-garden-hirasato at 2016-08-25 22:02
やはり人間は、
地球のガン細胞ですね。
Commented by saheizi-inokori at 2016-08-25 22:14
> j-garden-hirasatoさん、地球が人間にお灸をすえているのかもしれませんよ。
Commented by ikuohasegawa at 2016-08-26 05:32
プロキシマケンタウリへ引っ越して、また一つ美しい惑星を駄目にするのでしょうね。人間は。
Commented by saheizi-inokori at 2016-08-26 09:42
> ikuohasegawaさん、だから強欲1%の人たちだけを送り込めば地球は再生するんじゃないかと。
Commented by cocomerita at 2016-08-27 16:26
Ciao saheizi さん
一体どこまで 地球を喰いものにすれば気がすむのかなあ
人間が侵してはいけない領域ってあると思うんだけど、気候もその一つ
金は腐るほど持っているけど病んだ大富豪は、死さえ受け入れられず、生き返りを夢見て死体を冷凍にして預けている人が 少なくないことを知って、片や世界中で他者の命を虫けらのように扱っておきながら、自分となると執着丸出し
情けなさ過ぎて、悲しくなります

移住などしても また一個の惑星めちゃめちゃにするだけだから、せめて地球を破壊、汚染するのみにとどまってほしいです
Commented by saheizi-inokori at 2016-08-27 21:20
> cocomeritaさん、1%だけで行けば何もできないのと違うかな。
出来たら出来たでそれもよし^^。
要するに消えてほしいのです。
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by saheizi-inokori | 2016-08-25 14:10 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(6)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori
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