失くして生きてきた

雨かと思ったら晴れている。
あわててサンチを連れだすと、空の色、雲の形がどこか秋めいている。
８月のはじめ頃だったか、やたらに空の青さが濃くて、それが夕方になってもちっとも変わらず、なんだか夜が来そうもないなあと思いながら見とれていた日が多かった。
「はじめ」でそのことを言うと、「そうそう、私もそう思う、今年の空は濃いよね」という人、もう一人が「あれはさあ、日本が熱帯になっているからじゃないかと思う、ハワイの空みたいだもん」と言った。
今朝はもう日本の空になっているようだ。
誰かが靴を片っぽ落としていったようだ。
ママチャリに乗った子だ。
靴を失くした子のことを考えていたら、なぜか万年筆のことを思い出した。
欲しくてしょうがなかった万年筆を手に入れたのは叔父のアメリカ土産のパーカーだった。
高校時代だった、うれしくて学校でこれ見よがしに使ってみせた。
どこかでコンクリートの上に落としてペン先が割れてしまって、その頃は日本の万年筆の方が書きやすくて（それも頂き物だった）、パーカーはそのまま、いつしかなくなった。
パイロットも、ペリカンも、ウオーターマンもみんな失くした。
腕時計、クロスのボールペン、ダンヒルやローソンのライター、、いろんなものを失くして生きてきた。
ないときは欲しがるくせに、亡くなっても困りもしない。

でも、坊やは靴の片っぽがないと困るだろうな。
山梨から送っていただいたブドウ、石和のブドウ畑を思いながらむしゃむしゃと食うのだ。