「金」にもいろいろありまして ダニエル・シュルマン「コーク一族 アメリカの真の支配者」
2016年 08月 19日
先日紹介した「資本の世界史」に、ドイツ人は際立って金(きん)を貯めたがるとあった。
かつて曽祖父母(1923年)や祖父母(1948年)が経験したハイパーインフレが世代を超えてトラウマになっているらしい。
生産量が減り続けるから希少価値があると言っても、金自体に使用価値がそれほどあるわけではないから、金協定で各国の発券銀行が地球上の金の5分の一弱をストックしているのでまだ相場が保たれている(それでも乱高下はしている)けれど、それを放出したら、金の価値は無に帰してしまうだろう、という。
ドイツ人は中央銀行が信用できないからインフレに備えて(いるつもり)で金を買い込んでいるのだが、その金の価値を安定させているのは中央銀行なのだ。
ウォーレン・パフェットいわく、「金は地中から掘り出され、溶かして延べ棒にされ、また地下の金庫室に埋められる」。
この独特な循環が進行すると、シアン化物や水銀、重金属などの有毒廃棄物が発生し、自然保護区が破壊され、住民が追い出される。
オリンピック選手、いやメデイアも拝金だ。
金が取れなくて泣いたりしている選手をみると気の毒になる。
金を取ることを期待されながら銀や銅メダルになった選手におためごかしで「がんばりましたね、この喜びを誰に報告したいですか」なんてインタビューしているアナウンサーをみると蹴っ飛ばしたくなる。
アメリカの1%の連中も拝金(かね)だ。
草の根運動でのし上がってきたというティ―パーテイ、共和党のなかの青嵐会(古いか)みたいなリバータリアンたちのグループで、旧来の共和党中枢部にも反旗を翻す。
草の根運動は見せかけに過ぎず、全米非上場第二位の巨大企業の持ち主、コーク兄弟が自らの金と巧妙な(インチキ臭い)ネットワークで富裕層の金を集めて、精力的な(あたかも日本会議が地方議員を組織するように)運動を展開してオバマに代表される「社会主義的」な政党をぶっ潰す運動だ。
コーク兄弟の自由主義市場革命を目指す戦略の第一段階は大学や研究所・講演会に金をだし、オーストリア学派、ハイエク、フリードマンなどの新自由主義、とくにリバータリズムを学ぶ人材を育成し理論をつくりだす。
第二段階では、その理論・アイデアを現実の諸問題に当てはまる形に加工する。
そういう研究所やシンクタンクを設立し長年にわたって支援し続ける。
社会保障制度の民営化、公務員組合の活動制限、地球温暖化理論の否定、公的医療費補助制度の縮小などに具体的な提言・リポート・論説発表を行う。
政府関係機関に人を送り込む。
第三段階は市民活動家、実行グループの育成・組織。
豊富な資金を提供し、猛烈なCM、電話、市中活動を展開する。
選挙で弱い民主党議員を集中攻撃する。
一回のパーテイで軽く何百万ドルもの寄付が集まる。
ロムニーを支援して勝利を確信したがオバマに負ける。
それでも、全米屈指のキングメーカーの名は健在だという。
コーク兄弟を育てたカンザスの石油精製業者・フレデイ・コーク、彼は巨大な石油企業連合と真っ向から闘い、反共の牙城・ジョン・バーチ商会の設立者のひとりであり、4人の兄弟を厳格に、貧乏人と同じように育てる。
フレッドの後継者になった次男のチャールズと双子の弟の兄貴分がデイヴィット、このふたりがコーク財閥をモンスターにまで成長させ、リバータリズム伝道のダイナモとなる。
長兄・フレデリックは芸術に興味を持つ軟弱な男に育ち人前に出たがらない。
美術品や芸術的建造物を買い漁る。
双子の弟分・ビルこそ本書のもう一人の主人公だ。
兄たちに対する劣等感・嫉妬心が精神を歪め、兄たちに対して20年に及ぶ執拗な訴訟を仕掛ける、ほんとよくやるよなあ、そして兄貴たちからむしりとった金の使い方!アメリズカップの優勝までやってしまう。
518頁、猛暑をものともしないモンスターたちのノンフイクション。
「アメリカの真の支配者」って、コーク兄弟ではなくて、「金」=「強欲」、なんだね。
大富豪たちの天をも恐れないような金の使い方を読んでいると俺は長屋のはっつあんになったようで、いっそすがすがしいくらいなもんだ。
2013年までで終わっているが、テイ―パーテイのクルーズを推すはずのコークにとってトランプの登場は失望なのか?
アメリカ孤立主義という点ではトランプとコークには近いものがあるという見方もある。
トランプやサンダースが、コークたち1パーセントに反対する連中に支持されているのは間違いないと思うけど。
古村治彦 訳
講談社
かつて曽祖父母(1923年)や祖父母(1948年)が経験したハイパーインフレが世代を超えてトラウマになっているらしい。
生産量が減り続けるから希少価値があると言っても、金自体に使用価値がそれほどあるわけではないから、金協定で各国の発券銀行が地球上の金の5分の一弱をストックしているのでまだ相場が保たれている(それでも乱高下はしている)けれど、それを放出したら、金の価値は無に帰してしまうだろう、という。
ドイツ人は中央銀行が信用できないからインフレに備えて(いるつもり)で金を買い込んでいるのだが、その金の価値を安定させているのは中央銀行なのだ。
ウォーレン・パフェットいわく、「金は地中から掘り出され、溶かして延べ棒にされ、また地下の金庫室に埋められる」。
この独特な循環が進行すると、シアン化物や水銀、重金属などの有毒廃棄物が発生し、自然保護区が破壊され、住民が追い出される。
金が取れなくて泣いたりしている選手をみると気の毒になる。
金を取ることを期待されながら銀や銅メダルになった選手におためごかしで「がんばりましたね、この喜びを誰に報告したいですか」なんてインタビューしているアナウンサーをみると蹴っ飛ばしたくなる。
草の根運動でのし上がってきたというティ―パーテイ、共和党のなかの青嵐会(古いか)みたいなリバータリアンたちのグループで、旧来の共和党中枢部にも反旗を翻す。
草の根運動は見せかけに過ぎず、全米非上場第二位の巨大企業の持ち主、コーク兄弟が自らの金と巧妙な(インチキ臭い)ネットワークで富裕層の金を集めて、精力的な(あたかも日本会議が地方議員を組織するように)運動を展開してオバマに代表される「社会主義的」な政党をぶっ潰す運動だ。
コーク兄弟の自由主義市場革命を目指す戦略の第一段階は大学や研究所・講演会に金をだし、オーストリア学派、ハイエク、フリードマンなどの新自由主義、とくにリバータリズムを学ぶ人材を育成し理論をつくりだす。
第二段階では、その理論・アイデアを現実の諸問題に当てはまる形に加工する。
そういう研究所やシンクタンクを設立し長年にわたって支援し続ける。
社会保障制度の民営化、公務員組合の活動制限、地球温暖化理論の否定、公的医療費補助制度の縮小などに具体的な提言・リポート・論説発表を行う。
政府関係機関に人を送り込む。
第三段階は市民活動家、実行グループの育成・組織。
豊富な資金を提供し、猛烈なCM、電話、市中活動を展開する。
選挙で弱い民主党議員を集中攻撃する。
一回のパーテイで軽く何百万ドルもの寄付が集まる。
ロムニーを支援して勝利を確信したがオバマに負ける。
それでも、全米屈指のキングメーカーの名は健在だという。
フレッドの後継者になった次男のチャールズと双子の弟の兄貴分がデイヴィット、このふたりがコーク財閥をモンスターにまで成長させ、リバータリズム伝道のダイナモとなる。
美術品や芸術的建造物を買い漁る。
双子の弟分・ビルこそ本書のもう一人の主人公だ。
兄たちに対する劣等感・嫉妬心が精神を歪め、兄たちに対して20年に及ぶ執拗な訴訟を仕掛ける、ほんとよくやるよなあ、そして兄貴たちからむしりとった金の使い方!アメリズカップの優勝までやってしまう。
518頁、猛暑をものともしないモンスターたちのノンフイクション。
「アメリカの真の支配者」って、コーク兄弟ではなくて、「金」=「強欲」、なんだね。
大富豪たちの天をも恐れないような金の使い方を読んでいると俺は長屋のはっつあんになったようで、いっそすがすがしいくらいなもんだ。
2013年までで終わっているが、テイ―パーテイのクルーズを推すはずのコークにとってトランプの登場は失望なのか?
アメリカ孤立主義という点ではトランプとコークには近いものがあるという見方もある。
トランプやサンダースが、コークたち1パーセントに反対する連中に支持されているのは間違いないと思うけど。
講談社
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sweetmitsuki at 2016-08-19 15:53
プルトニウムが地下から採掘され地下に埋められ、その過程で放射能を地上に撒き散らすのと同じですね。
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saheizi-inokori at 2016-08-19 20:48
> sweetmitsukiさん、いずれも人間の強欲を満たすためでしょうか。
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j-garden-hirasato at 2016-08-20 07:56
金とは無縁なので、
全然ピンときませんね(笑)。
全然ピンときませんね(笑)。
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saheizi-inokori at 2016-08-20 10:21
> j-garden-hirasatoさん、まあね、でも99%のマグマが爆発寸前なのは気になります。
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ikuohasegawa at 2016-08-22 10:46
金が取れなくて悔しがる選手の気持ちは解るような気がします。銀では怒られると言う選手を見ると気の毒になります。
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saheizi-inokori at 2016-08-22 11:51
by saheizi-inokori
| 2016-08-19 12:13
| 今週の1冊、又は2・3冊
|
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Comments(6)