わたしいまめまいしたわ 赤瀬川原平「世の中は偶然に満ちている」

セコイだのなんだの、ずいぶん前に買った絵画のことまでほじくり出されて、舛添ってやつはよほど叩きやすい男らしい。
石原元知事だって多くの国会議員だって、お役人も社長から一サラリーマンに到るまで公私混同は日常茶飯事だろうに。
かく申す俺だって社用ゴルフをしたり、交際費で社員を呑みに連れていったさ(いばるこっちゃないけれどね)。
一億総聖人君子になったのならば、矛先はあんなチンピラじゃなくて、税金天国=タックス・ヘイブンに住みながら知らん顔している連中に向けるべきだと思うがなあ。
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2014年2月に亡くなった赤瀬川原平(尾辻克彦)が遺した日記帳、そこに「偶」の字を丸く囲んで書いてあった、その日に出会った偶然の出来事や見た夢、それを奥さん・尚子がパソコンに写して、松田哲夫や南伸坊の助力を得て本にした。
思わずニコリとしてしまうような微笑ましい夢や、そういえばこんな事もあったと記憶が蘇り、それは懐かしく楽しい作業になった。(略)
付き合い始めた頃、私との何気ない会話を楽しんだことや好意を寄せる思いを書いた場面を見ると、遠い過去から思いがけないプレゼントをもらったようだった。本人が存在しない今、この手帳は過去と今を繋ぐ大切なアイテムとなり、私にとって生涯の宝物になるだろう。
いいね。
母親の亡くなる日にドアのノブが折れたような話もあるが、多くは、誰に会った、噂をしてた彼から電話があったみたいな出来事が「偶然」の出来事として書き留められている。
単なるそれだけのことの記述であっても、常に周囲にキラキラした目配りをしていたから「偶然」の出来事に気がついて、しかもそれを「偶然」の賜物として受け止めようと(そんな言葉は出てこないが)している。
赤瀬川にあったことのない俺にも生前のやんちゃで生気溌剌・しかも真摯だったろう姿が彷彿としてくる。
ああ、こんな生活をしていたんだな、こんな人たちとこんな付き合いをしていたんだ、と故人の人生の一端を垣間見るのは舛添の買い物のことを知るよりも楽しい、ちょっとした驚きもある。

生き生きとした姿を日記や写真で見ると、いままで第三者の記事で事柄として知っていた赤瀬川原平の死がリアルに迫ってもくる。
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「孤独のグルメ」の原作者で番組にもいつも最後に登場していたから俺も知っている久住昌之(写真右端、作者は左端)と井の頭公園でバッタリ出会った(2001年7月)、この写真を見た日に録画で「昼のセント酒」(これも久住原作)を見た。
俺の偶然だ。
赤瀬川が体調を崩す2008年のある日、目眩になって自宅療養をしていたら、秋山祐徳太子から「わたしいまめまいしたわ」というタイトルの展覧会の案内状が送られてきた。
冗談ではなくほんとの展覧会、行ってみたらひところ流行した幾何学模様の錯覚アート、あえて目を回すまでもないので避けて、常設展の佐伯祐三などを賞味して帰ったという記述を読んだらブログの蛸さんが目眩をおこしたという記事がある。
これも俺の偶然也。
2003年8月9日、細川護熙に焼いてもらった赤楽茶器があまりにブザマな出来で、窓際に並べてみたものの使う気にもならず、こんなもの雨漏りの水受けにでも使うしかないといってたら、本当に台風接近で、窓枠の上からポタポタ雨漏りが赤楽茶器に。
赤瀬川の感受性とユーモアだけが観取できる偶然。
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巻末に「偶然小説」と題して「舞踏神」「珍獣を見た人」「偶然の海に浮く反偶然の固まり」の三篇が載っている。
「舞踏神」は、舞踏家・土方巽の死をめぐる「偶然」、ちょっと背筋が寒くなるような、を書いたものだ。
この黒い点を一つづつ書きしるしていくのだけど、小説にならないように気をつけようと思った。偶然の光というのは、小説になると消えてしまう。それは人間の想像力の外側にあって光っているのだ。
と書いている。
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「偶然の海に浮く反偶然の固まり」は森毅と偶然について話していて森が偶然に口をついて「反偶然」という言葉を発したことなどから、偶然と反偶然の関係などについて考えたことが述べられる。。
人間は常に人間の都合のいい思考世界をつくろうとしている。だから人間の秩序を外れる現象を偶然と定義づけて、自分たちの反偶然の世界を固めている。しかし自然には偶然が満ちている。その自然界と人間界の境界を漏れる現象の一滴一滴に、人間の感受性がほのかに震えて、神秘や運命をそこにふくらませていく。
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見た夢、ああ、俺もこういうの見る、ってのはトイレに行きたいときの夢だと思う。
はは、この夢のあと起きて行ったのかな、と思って読んだ。

筑摩書房

Commented by unburro at 2016-05-17 12:42
良い本を紹介していただきました。
是非是非、読みたいと思います。

舛添問題…最近の文春は、安倍政権と手を組んで、
「低レベルの話題をエサに、国民の目を国政からそらさせる作戦」
を実行いるのだ、としか考えられない!
と、昨夜も家族で話していました。
今年に入ってからの不倫スクープ⁉︎連発から、
この傾向が酷すぎます。凄い腹立つ!今日この頃です。
Commented by tona at 2016-05-17 16:25 x
面白い本ですね。
一人の人に一生の間にこんなにたくさんの偶然があるものなのですね。
自身考えても結構あります。それがいつまでも繋がっているのや、プツンと切れてしまって残念なのやいろいろです。
赤瀬川原平の路上観察会の友人としてあるいはニラハウスの設計者としての藤森照信氏がすぐ近所に住んでいますので、良く出会うのですが、お顔を見ると赤瀬川原平を思い出してしまうのです。
Commented by tocotoco-o3po at 2016-05-17 20:05
こんばんはです~いつも行き当たりばったりで感性で生きてきたので、不思議な出逢いがおおいです。
築地の近くでお会いした熊本出身のご婦人に和菓子を頂いたり、秋田の稲庭うどんをご一緒したり…メールアドレスまで交換していただいた思い出があります~o(^-^)o
今回の地震で元気でお過ごしか心配しておりますが、思いきって連絡できずにいる私でした。
Commented by kogotokoubei at 2016-05-17 22:28

幸兵衛です。

読んでいて、私のブログにコメントをいただく方に教えていただいた、中島らもさんが言っていた「その日の天使」という言葉を思い出しました。
NHKの「あの人に会いたい」でも紹介されていたようですが、誰もが“偶然”その日の天使に会っていても、気づいていないんですよね。
https://www.youtube.com/watch?v=nD_r3qV18KQ

Commented by saheizi-inokori at 2016-05-17 22:53
> unburroさん、メデイアがいちばん堕落しているのでしょうが、それを喜ぶ人たちも情けない。
今夜はついつい飲みすぎました。
Commented by saheizi-inokori at 2016-05-17 22:59
> tonaさん、偶然は赤瀬川が言うように世界に満ちているのですから、こっちが気がつきさえすればいつでも偶然、偶然でない方が珍しいのではないでしょうか。
つながるも偶然、ぷつんと切れるのも偶然、藤森さんの近所に住むのが偶然ならば、あったときに声をかけるのもかけないのも偶然、世の中は確かに偶然に満ちています。
Commented by saheizi-inokori at 2016-05-17 23:04
> tocotoco-o3poさん、昨夜の地震、けっこう大きかったですね。
でもなんともなかったですよ。
世の中はほとんど偶然でできているというのが今日この頃の心境です。
Commented by saheizi-inokori at 2016-05-17 23:07
> kogotokoubeiさん、私は偶然以外のものはないとすら思います。
自分が次の瞬間に何をするか、それは自分にもわからないのです。
ここでパソコンを切るか、もっと何かを見るか、それは結果として明日(生きていれば)わかるのですね。

Commented by saheizi-inokori at 2016-05-17 23:20
kogotokoubeiさん、らもの偶然はちょっとこわいなあ。
俺もわかるってことが。
Commented by ikuohasegawa at 2016-05-18 06:01
悔しいです。
原平さん大好きなのに、この本は知りませんでした。

こんなにしっかり読まれてしまったら、感想の抱きようがないですね。

そういえば、生前の著にも「偶然」に触れている個所はありましたね。
Commented by wawa38 at 2016-05-18 09:50
私が知らないだけかもしれませんが、
石原慎太郎の都知事時代に、ものすごい赤字を出した銀行のことは
どうなってしまったのだろうと思っています。
責任追及されるべきは、あのときのトップでは?
うやむやになってしまったのかなぁ。
あれに比べたら、猪瀬さんも舛添さんもセコイ悪です。
この二人の醜聞については、タイミング的に何か裏の力が
働いたのではないかと勘繰ってしまいます。
Commented by saheizi-inokori at 2016-05-18 10:26
> ikuohasegawaさん、図書館で予約してあった本を受け取りに行ったら、「話題の本」という書棚にあったのに気づき、即借りてきました。
偶然が偶然を呼ぶのでした。
Commented by saheizi-inokori at 2016-05-18 10:30
> wawa38さん、そうそう、そんなこともありました。
登庁日数も週に2・3度、あとは行方不明だとか、海外漫遊もよくやりましたね。
だいたい伏魔殿と言われる都庁は知事に変に仕事をされると既得権が侵されるのでたいていリークが発生するしきたりです。
Commented by hanamomo08 at 2016-05-19 05:09
おはようございます。
また読みたい本がここに一冊。
赤瀬川源平さんの本は読んだことがありませんが、面白いよと何度も友人が勧めてくれました。
細川・・・・赤楽茶わんのくだり・・・・あの方今白洲正子さんのような暮らしなんですよね。(実際知人同士のようですね)
是非読みたいと思います。
今、水害にあった夢を見て目が覚めました。
これは起きるとまずいな~。
たぶん、トイレ関連で見てしまった夢でしょう。(笑)
Commented by saheizi-inokori at 2016-05-19 10:28
> hanamomo08さん、これは日記、それも偶然日記ですから、赤瀬川の断片?かもしれない。
合わせて「老人力」なんかも読まれると面白いですよ。
私は洗濯物が風に飛んでアンテナにひっかかっているのを外している夢を見ました。
ヘンですねえ^^。
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by saheizi-inokori | 2016-05-17 11:51 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(15)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


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