オオマイガッ!綻びが多すぎるぜよ 筒井康隆「モナドの領域」

スペインでは政権が作れず王様がもう一度選挙をやり直せといった。
フランスの失業者が減り、豪州から潜水艦造りの注文を取り付けたといってオーランドがまなじりを下げて喜んでいる(このニュースに日本の防衛大臣が登場するのが今の日本、だから中国に牽制されたのに)。
イギリスでは27年前のサッカー場警備の不手際で死んだ人たちの遺族が警察署長の有罪判決に喜んだり改めて涙を流している。
アメリカでは恐るべき嵐が近づいている。
トランプが、クルーズとケーシックの”野合”なにするものぞとラストスパートに気炎をあげている。
地震大国日本は原発大国にまっしぐら。

これは神の予定、想定内の出来事なのか。
それとも別の世界(可能世界)との重なり合いによってできた綻びなのか。
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筒井康隆の最後にして最高傑作長編(というキャッチフレーズ)。

冒頭は軽妙なミステリー、と思っているとGODが大学教授に憑依して現れて、公園の人々に奇蹟を演じてみせ、筋の運びは軽妙なままに、彼らの悩みを聴き、やさしい言葉で答えるうちに、存在とは、正義とは、宇宙とは、時間とは、いつの間にか難しい哲学用語が出てくる。
アリストテレス君や、トマス・アクィナス君、ダマスケス君、ヘーゲル君にライプニッツ君、、彼らの考えたことの正しさと限界と。
難しくてわからないけれど、不思議に人びとはほっとする。
悪こそ真実、戦争も原爆も、その悲惨さが悲劇的であるゆえに、それを見る自分の心の痛みの中に美を見出すように、すべては美しい、なんて言われると泣いて喜ぶ風俗嬢もいる。

事故で足を怪我して歩けなくなった子の母親が、この子の足を治してくれというと、その子が怪我をしたのは母親の不注意のせいで、それは自然なこと、治してやれば不自然なことになってしまうと言った上に、

不幸な子供というのはだいたい、よくない両親のかわりに社会から罰せられているんだが、その罰を与えているのはわしではなくお前さんたち人間なんだ。この子がその不幸を乗り越えるかどうかもお前さんたち次第だ。そしてまた、いわゆる信心深い者たちは、善良な者が不幸な目に遭うのはそれがお前さんたちの罪の連帯責任によるものだと思っておることが多いが、これもまた、そうではない。不幸はそれを生み出した連中や社会だけによるもので、だいたい連帯責任なんてことも、そもそも責任なんてものも存在しない。架空のことだ。罪とか罰とかもだ。罪も罰もお前さんたちが好きに作って好きにやっとる。

と突き放す。
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やがて、ある成り行きからGODは逮捕され大法廷に引っ張り出される。
大審問というには裁判長も検事も俗物すぎる。
俗物なるがゆえにGODとの対話が期せずして盛り上がる。

無限大から無限小の宇宙、時間のすべてにあまねく存在してすべてを見ている・知っているというGOD。
彼はライプニッツのモナドを「お前さんたちの言い方で言うならプログラム」という。

 無限という観念はお前さんたちにはわからない。なぜわからないかというとこれは人間の悟性の問題だ。ユークリッド幾何学や三次元の空間しか理解できない者に対してわしのことを教えるのはどだい無理なんだよ。

わしとお前さんたちとの関係は、見えざるものと見えるものとの関係だから、アナロギアなんてものを設定するべきじゃないんだよ。

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この世界と別の可能世界との重なりに出来た綻びは、宇宙に偏在しているGODにすら気づかなかった、「モナドの領域」ともいうべきものがあったのか?
GODは、「お前さんの言う『モナドの領域』を守らねばならない事態の発生もモナドに含まれていた。わしの知恵がそうさせたんだが、お前さんはまだ納得しておらん」と答えるのだ。
「蒟蒻問答」みたいにも聞こえるが、なんとなく「そういうものか」とも思う。

難しいところばかり紹介したけれど、ユーモアたっぷりのエンタメ、一気読み可能です。

新潮社

Commented by jarippe at 2016-04-27 15:51
難しい本は頭がついてゆけないですー・・・・・
ただ今の日本は不幸への道を歩み始めている
って気がしてなりません
原発を全部なしにして 安保法案を廃止して
ヒミツの少ない行政で
世界に平和をアピールできる国 そんな日本を目標に
頑張れる
人と人が人らしく感性豊かに生きられる国 
なんて無理としりつつままごとみたいなこと思います

Commented by tama at 2016-04-27 19:12 x
咲き乱れる紅白のツツジは奥方が描かれたものですか。
小紫のテッセン(鉄線)もいいですね。
Commented by saheizi-inokori at 2016-04-27 23:43
> jarippeさん、私の紹介がへたくそでしたが、面倒なところは飛ばして読んでも面白いです。
おっしゃるような日本、ほんとうに実現したいですね。
それはみんな=私の責任だと思います。
Commented by saheizi-inokori at 2016-04-27 23:44
> tamaさん、これはスマホの遊びです。
鉄線があちこちに咲いているなかでこれは見事な大輪でした。
Commented by k_hankichi at 2016-04-28 07:29
少し前、東京ブックフェアで筒井さんによる自作朗読を聞いたことがあります。諧謔の極致で楽しかった。この小説も読みたいです。
Commented by saheizi-inokori at 2016-04-28 09:09
> k_hankichiさん、断筆宣言以来あまり読まなかったのですが、これはお薦めです。
Commented by ikuohasegawa at 2016-04-28 12:27
このところずーっと読んでいません。
読んで見ます。
Commented by sheri-sheri at 2016-04-28 14:29
筒井康孝氏・・素敵な作家ですね。読んでみたいです。まだ彼の御本は読む機会がなかったので。

 何となくそういうものかと思う・・共感します。
Commented by saheizi-inokori at 2016-04-28 22:10
> ikuohasegawaさん、あまり書いてなかったのかもしれないですね。
Commented by saheizi-inokori at 2016-04-28 22:14
> sheri-sheriさん、筒井康隆、私は昔は何冊か読んだのですが、最近はこれしか読んでいません。
面白いですよ。
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by saheizi-inokori | 2016-04-27 13:05 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(10)

ホン、映画・寄席・芝居、食べ物、旅、悲憤慷慨、よしなしごと・・


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