人生は小さな瞬間の寄せ集めだ ミランダ・ジュライ「あなたを選んでくれるもの」

先輩の奥様の葬儀に出席。
どこに行くのもカジュアルなかっこうをしているので、黒の上下にネクタイ、長いオーバーコートを着るのは何年ぶりか。
神妙な気持ちになる。
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(大観音寺の願掛け地蔵)

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いったん、家に帰って夕方人形町へ、こんどはピンクのセーターにダウン、レザーのパンツ。
「世界湯」のあちちの湯につかって、「カミヤ」に。
昔の会社の仲間7人とやきとんで4時間飲みかつ話す。
無性にあの頃の若い人たちに会いたくなる。
葬儀に出席したことと関係があるのかもしれない。
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(改築中の水天宮)

帰りのルート、いろいろある中で、少し遠回りになる都営地下鉄を選択。
都営は身障者は無料なのだ。
460円の銭湯に入って4000円の飲み会をして、酔っぱらっているのに200円ほどを節約する。
これは葬儀に出席したこととは関係ない、変な心理。
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1974年生まれのアメリカ人女性。
大学中退後、脚本・監督・主演をつとめた映画「君とボクの虹色の世界」がカンヌ映画祭でカメラ・ドール新人監督賞を受賞。
短編集「いちばんここに似合う人」はフランク・オコナー国際短編賞を獲得、才人だ。

長編映画「ザ・フューチャー」、信念を持てないことの悪夢をめぐる物語を構想する。
主人公は病気の老いぼれ猫を引き取ることにするのだが、そうすると自分たちの自由が失われることに気づき、猫が来るまでの一か月間、人生のムダとおさらばして、本当にやりたかったことだけをやろうと決める。
映画の最初と終わりは見えているのだが、中間部分をいかにして説得力のあるシーンを作るかが、まったく浮かばない。

屈託した「わたし」は毎週届く「ペニーセイバー」を丹念に読む。
ロサンゼルスに住む人が売りたい物を広告するのだ。
「わたし」は広告を出した人たちに興味をもつ。
そこで電話をしてインタビューを申し込む。
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カメラマンと助手をつれて行って、会えた人たちはなんと多様な人生・生活・世界観の持ち主なのだろう。

生活保護で暮らしながら毎日をエンジョイして、性転換手術をやり遂げることを夢見て(半年前から始めた)60代後半の男は着古したLサイズの革ジャンを10ドルで売りたい、ウシガエルのオタマジャクシを育てて一匹2ドル50セントで売ろうという高校生は(不本意ながら)特殊学級にいれられているが大学を出て飛行機のエンジニアになりたいと思っている(市の職員をしていた父はレイオフされた)、値段は応相談でベンガルヤマネコの仔を売りたいという未亡人の家は自然史博物館と動物園のようだった、48歳の女性は他人の写真アルバムを集めて眺めるのが趣味で一冊10ドルで売りたい、67色のカラーペン・セットを売りたいという自称「会社社長」は足首にGPSをつけていて要するにミランダと話をし続けたかった、、、。

どの人もパソコンを持たない。
バーチャルではない生の人間たち=現実に触れる喜び・衝撃。
ミランダはそのたびに人生の真実を学び、映画の脚本も形を取り始める。
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人物図鑑(写真が多い)を見て面白がっているうちにミランダは、

 (人生は)数えきれないくらいたくさんの小さな瞬間の寄せ集め。

すべてはただ何ということのない日々で、それが一人の人間のー運が良ければ二人のー不確かな記憶力で一つにつなぎとめられている。だからこそ、そこに固有の意味も価値もないからこそ、それは奇跡のように美しい。それは精緻でラディカルなアートそのもの


そんなことを考えさせる老人に会う。
このあたりからこのノンフィクションは、急にファンタジーのような盛り上がりをみせる。
彼女の映画製作とドッキングしていく展開はドラマティックで感動的だ。

映画の主人公のセリフ。

 向こうが僕を選んでくれるのを待つさ。僕はただ気をつけて、耳を澄ませていればいい。

2013年に日本でも公開されたという映画「ザ・フューチャー」、どこかで見ることができないか。

岸本佐知子 訳
新潮社

Commented by chaiyachaiya at 2016-01-27 15:43
この本、私も読みました。最初、だるいなぁ、と思ってたのですが、最後の、そうこの写真の、ペンキ塗り屋さんだったジョーさん(でしたっけ?)のとこで、大泣きしました。
ジョーさんの奥さんのお顔がまた、佳きお顔でしたね。
Commented by c-khan7 at 2016-01-27 16:05
一人ひとりにストーリーがあるんですよね。
人間の数だけドラマがある。それを面白がりたい。
Commented by koro49 at 2016-01-27 18:01
>(人生は)数えきれないくらいたくさんの小さな瞬間の寄せ集め。
これはいつも思ってることです。
だから一日を大切に積み重ねたい。
フットワークは重くなってるけど、出来るだけ楽しいことをしながら^^。

先日普段は音無しの娘からショートメールあり。
テレビ東京の「アド街なんとか」で尾山台が入り、『田園』の取材されたそう。
懐かしや^^。

同じところにコメントしたけど、途中で飛んでったので、もしふたつ入ってたら、先のを消して下さいな(ペコリッ!)
Commented by at 2016-01-27 20:27 x
おぉ、いいねぇ、「ザ・フューチャー」
free dl 探したけどなかったよ、残念や、
Commented by saheizi-inokori at 2016-01-27 21:22
> chaiyachaiyaさん、だるいような人たちがいろいろ集まってきてそれも迫力だと思いました。
そしてジョーがクライマックス、私もジンときました。
Commented by saheizi-inokori at 2016-01-27 21:25
> c-khan7さん、そうそう、実に多彩、おもしろいおもしろい。
Commented by saheizi-inokori at 2016-01-27 21:30
> koro49さん、お気に入りのブログ訪問はそういう日々を見せてくださるからやめられない。

「田園」のことを書いた記事のアクセス数が急にトップに躍り出てびっくりしました。
さいきん行ってないのです。
Commented by saheizi-inokori at 2016-01-27 21:30
> 蛸さん、マイナーな映画なのかもしれないですね。
Commented by unburro at 2016-01-28 22:44
>ピンクのセーターにダウン、レザーのパンツ

どうして、誰も、ココに反応しないのか…
と、シビレを切らして、ついに我慢出来なくてコメントしてしまいました(笑)

saheiziさん、カッコよすぎです‼︎

レザーパンツ(皮パン!)って、暖かいらしいですね〜
Commented by saheizi-inokori at 2016-01-29 10:46
unburroさん、レザーは一度履いたらはなせません。クリーニングもしないで、もう8年くらい一本のパンツをはきつづけています。へたれた方が味もデデルようです。安上がりです。
Commented by sheri-sheri at 2016-01-29 17:08
おお、なんとお洒落。ダンディですねぇ。・・・それはそうと人生は一瞬の寄せ集め…心に沁みました。
Commented by saheizi-inokori at 2016-01-29 21:07
> sheri-sheriさん、刹那刹那、ですね。
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by saheizi-inokori | 2016-01-27 12:52 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(12)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori