亭主の本性を見抜く方法 柳家小満んの会

去年、「群像」に載っているのを紹介した本谷有希子「異類婚姻譚」が、芥川賞と決まった。
芥川賞受賞作を文藝春秋以前に読むことはめったにない。
映画とかミステリなどのベスト10に自分の見たり読んだりしたものが載ってると、ちょっとうれしい。

芥川賞受賞作発表の文藝春秋を買おうかどうしようか(「群像」は処分してしまった)。
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夕方から横浜・関内へ。
いつもは早めに行って横浜散歩をするのだが、午前中を病院でつぶしたのと、サンチが猫のように膝の上でまったりしているとできるだけいてやりたいのだ。

開口一番は、あおもり「子ほめ」。
45を、「しじゅうご」の「シ」にアクセントを置いてしゃべる。
「始終、五」のように聞こえるけれど、これが正しいのか。

小満ん「城木屋」

「評判娘」「伊勢の壺屋の煙草入れ」「東海道五十三次」の三つのお題を客にもらって即興で(可楽が?)作ったという三題噺。

日本橋・城木やの娘・お駒の美人ぶり。
髪は烏の濡れ羽色、額は雁がね、眉は「三日月を二つこそげる惜しいこと」三日月眉、眼はぱっちりと黒目勝ち、鼻筋通っておちょぼ口=梅花紅唇、なで肩で、背筋は伸びてあるかないかの柳腰、塩瀬の饅頭に塩小豆をのせたようなお乳。
現代娘の美の標準との違いを、くすぐりを入れながら、正月初めだからお色気も。

お駒に身の程もわきまえず磯のアワビになったのが番頭の丈八、こっちは一点非の打ち所のない醜男。
思い余ってお駒に付文をすると、お駒さんは人が悪い、わざと知らないふりをして母親に見つけさせる。
母親が小僧に丈八を呼ばせると「こいつは親と娘と両方から言い寄られるのか、困った」と、喜ぶうぬぼれぶり。

手紙をほかの店の者の書いたことにして「番頭さん、ちゃんと目を光らせてこんなことが起きないようにしてくれ」と釘を刺された。
恥ずかしさに真っ赤な顔をしても元が黒いから黒塀に夕日が当たったようなものでわかりやしない。
「はじかれ番頭」と店員たちに噂されて、いづらくなった丈八は百両もって逐電。

とどのつまりが食いつめて、しかも聞こえてきたのがお駒の婿取りの噂、もうこうなったら破れかぶれ、お駒を殺して自分も後を追う無理心中で浮名を流そう、そうだ、これがいい了見だって、あくまでもジコチュウ男。
お駒の寝所に忍び込み、えいやっと寝ているお駒を刀で刺した、と思ったらお駒が寝返りを打ったものだから、狙いは外れて刀は布団から根太に突き刺さり、抜くに抜けない。
逃げるときに落としていったのが、「伊勢の壺屋の煙草入れ」、これが動かぬ証拠となって、丈八は大岡様の前に引き据えられて、

「ことの始まりは?」と問われて、丈八は棒使いの口上・「物の始まり」、
「うぬ、ふざけおって!駒との始まりはと聞いておるのじゃ」、お奉行重ねて問えば「そもそも独楽の始まりは、、」
曲独楽師・松井源水の言い立てをペラペラ、
「そうではない!お駒とのなれそめは?」、今度は十辺舎一九の東海道中膝栗毛に出てくる「豆尽くし」をいけしゃしゃあと。
あげくの果てに、「花の下も日本橋、お駒さまの色品川に迷い、川崎ざきの評判にもあんな女を神奈(かんな)川に持ったなら、さぞ程もよし保土ヶ谷と、戸塚まえてくどいてみたが頭(かぶり)も藤沢、平塚ぬ間も大磯っと婿話。どうかこの事が小田原になればよいと、箱根の山ほど夢にも三島、たとえ沼津、食わずにおりましても原は吉原、いまいましいと蒲原立てても、口には由比かね、寝つ興津、江尻もじりいたしておりました。」 
お前の生まれは?と聞かれて「駿府の御城下で」「この不忠(府中)ものが!」

というわけで、なんとか三題揃ったところでおしまい。
去年の10月、思い立って東海道在来線ぶらり旅をやったことを思い出していた。
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「厩火事」

夫婦けんかと三日月様は一夜一夜に丸くなる

仲のいい夫婦ほど喧嘩もよくする、のかな。
おさきさんは腕利きの髪結い、7つ年下のぐーたら亭主は遊んで暮らす。
惚れて一緒になったけれど、自分がお婆さんになった時に捨てられてしまやしないか。
そんとき、怒って噛みついてやろうとしても歯がないかもしれない。

とても優しい二人といない亭主だと思うときもあるが、殺してやりたいほど憎らしい時もある。
さあ、この男の本性は?

仲人が教えてくれた、男の二つのタイプは「唐土の孔子様」と「麹町のさる旦那」。
男は緊急非常のときにその本性を現す。

さて、おさきさんのテストはいかなるもので、その首尾は?(落語力検定試験初級^^)

勝ち気でおしゃべりで早とちりで「人間はいいけどわがまま」なおさきさん、じつはいじらしくも可愛い女なのだ。
亭主が孔子様だとわかった瞬間の「わっ!」という感激の叫びがすこぶるよかった。
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「御慶」

暮れには白酒のを聴いた。
千両当たったあと、市ヶ谷の「甘酒や」で裃を買う場面は初めてかな。
刀やにも行って「金に糸目はつけない」と大口叩いたら、二百五十両の朱塗り・備前を出されて「馬鹿を言っちゃあいけねえ、人を切るんじゃないし」と驚いたり、細かいところが面白い。
この噺を聴くたびに、ああ、こんな調子で使っていたら八百両(割引後)なんてすぐなくなりゃせんか、とか泥棒にもっていかれないかと心配する。

切り餅を並べて、その上に布団を敷いて、カミさんに大の字になって、手洗いにも行っちゃだめ、と、はっつあんも同じ心配をする。

はっつあんが千両当てたことを知った仲間たちが一緒になって喜んでいる。
いい男たちだ。
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(カミさんがもらったというフットウォーマー、貸してもらってきた。あったかいんだから~)

今年初めて小満んワールドに堪能して、居残り会は四人、Kさんが新しい店を紹介してくれて、
伊豆の魚で二時間半、話が弾んだ。
俺はドクターブレーキが利いて、酒量はいつもの半分くらいかな。
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Commented by 喜洛庵上々 at 2016-01-20 15:51 x
昨夜はありがとうございます。
佐平次さん、前座さんの名前「あおもり」ではなかったですか?
Commented by fusk-en25 at 2016-01-20 19:36
↓の春団治のユーチューブに触発されて
ここ数日春団治を聞いています。昨日はこほめ。。。笑。
米朝は確かにうまいけれど。なんかお勉強の落語という感じがするのですが。
その点、春団治のうまさは所作もきれいで粋やなあと見とれるほどで。(都会的洗練さ?)
たいして男前がいいわけでないのに羽織の脱ぎ方にも惚れ惚れして。。。
Commented by saheizi-inokori at 2016-01-20 23:06
> 喜洛庵上々さん、ほんとだ、もう一度よく見たら青森でしたね。ありがとう。
始終、誤解です^^。
Commented by saheizi-inokori at 2016-01-20 23:07
> fusk-en25さん、米朝感ともども同感です。
登場してくるだけでパッと華やぐのですよ。
羽織は人気でしたね。
Commented by sweetmitsuki at 2016-01-21 05:45
そういえば他の落語でも中国のことを唐土(もろこし)と呼んでますね。
電子辞書によると、中国南方の越(えつ)(浙江(せっこう)省付近)の諸国・諸族の「諸越」の訓読みから、とあり、江戸時代は鎖国してましたが海を隔てて近しいところとは交流があったからだそうですが、本当のところはわかりません。

デジカメ画像の整理どうしてますか。
道端に咲いてる花などは処分できても、宴の席の料理などはそうはいかないんじゃないのでしょうか。
その数、膨大なものと察しますが、どうしているのでしょうか。
Commented by ikuohasegawa at 2016-01-21 06:00
初級、厩火事ですね。
私も借りて、今では所有権を主張しております。当方のはレッグウォーマーでした。
Commented by at 2016-01-21 07:03 x
この二切れずつの刺身がいいですね。
刺身に限り少しずつの方がうまいと感じます。
皿に塩があるのは何でしょう?まさか塩につけて?

さて、山藤画伯が志ん朝を「江戸の世界に連れて行ってくれる」と評しましたが、
今、それが高い水準で出来るのは小満んでしょう。
「城木屋」聴きたかったなぁ。
Commented by saheizi-inokori at 2016-01-21 09:57
> sweetmitsukiさん、今の人だとトウモロコシですよね。
おさきもそう思ったようですが。
デジカメ画面は今はスマホなのでどんどん消しています。
パソコンへの取り込みがうまくいかないのです。
以前からのパソコン内の画像も整理しなくていけないと思いつつ、、。
Commented by saheizi-inokori at 2016-01-21 09:59
> ikuohasegawaさん、厩火事は最近あまり演じられなくなったのはどうしてなのかなあ。
ああいう女性がいなくなったのかな。
そうそう、レッグウォーマーともいう、おや、どこが違うんだろう。
Commented by saheizi-inokori at 2016-01-21 10:05
> 福さん、アオリイカなどは塩の方がうまいような気がします。
フグ刺しを天然塩とライムを絞って食うと乙ですよ。
昨日、文左衛門が「落語を聴いて江戸時代の勉強をするなんておやめなさい、私だって知らないでやってるんですから」といって「化け物使い」をやりました。
洒落でしょうが、たしかに小満んとは比較になりませんでした、面白かったけれど。

記事には書きませんでしたが、小満んの「御慶」も随所に細かな江戸の暮らし・気配が描写されて、たまんない!でした。
Commented by kogotokoubei at 2016-01-21 12:13
いやぁ、三席とも実に結構でした。

それぞれ、女性が光っていたような気もします。

お駒は、その美貌で。
お崎は、可愛さで。
そして、八五郎の女房は、そのあっけらかんとした性格で。
富があたったと知った時の豹変ぶりに笑いましたねぇ。

3月も、今から楽しみです。
Commented by saheizi-inokori at 2016-01-21 21:16
> kogotokoubeiさん、落語そのもので楽しみ、居残り会で楽しみ、皆さんのブログでもう一度反芻して、お得な落語会でした。
Commented by 創塁パパ at 2016-01-23 13:10 x
ご一緒したかったです。次回は是非!!!
Commented by saheizi-inokori at 2016-01-23 22:02
> 創塁パパさん、ぜひにも!
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by saheizi-inokori | 2016-01-20 13:17 | 落語・寄席 | Trackback | Comments(14)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori
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