原爆や強制収容所は神の恩寵ではない ジェィ・ルービン「日々の光」
2016年 01月 06日
リーダーが公衆の面前で涙をみせるなんてみっともない、か?
俺はたいしたリーダーじゃないけれど、なんどかみんなの前で泣いたことがある。
なんとかしたい!それが俺の仕事・使命だと思う。
でも、力不足!理解もされない。
そんな時に、自然に涙があふれてきた。
やっぱり、みっともないな。
でも、安倍が日本の貧困について、フクシマについて、沖縄について、自分の力不足を、たとえ暮夜密かにでもあれ泣くことがあるか。
あのニタニタ笑いしか想像できない。
「早く質問しろよ」と言った時の。
銃規制の大統領令を発表するオバマの涙に共感するとともに、それに対するトランプなどの反応を見て、アメリカの救いがたさをも思った。
日本の権力者の情けなさも。
第二次世界大戦中にアメリカ西海岸に住んでいた日本人・日系アメリカ人(アメリカ国籍があっても!)は、家も財産も奪われて「再配置キャンプ」と呼ばれた収容所に強制収容された。
涙をこぼすこともないローズヴェルト大統領の命令によって。
それまで、シアトルのバプテスト教会の敬虔な信者として活動をしていた人や牧師も容赦なく、アイダホ州ミニドカ、砂漠の中、昼はたけだけしい暑さ、夜は凍えそうな寒さのタール紙貼りのバラックに押し込められた。
当時のアメリカ憲法違反の、その措置を正しいとするアメリカ人が97パーセント、戦争が終わっても、一人も元の住居に戻らせるべきでないと答えた人が31パーセントだった。
そんな背景に描かれる一人の日本人女性・ミツコと、彼女に求愛し、戦争勃発とともに捨て去って裕福な土地の教会に移るアメリカ人牧師・トム。
彼女は、男がおいていった前妻の子・ビリーと収容所で生活する。
やがて、ミツコは日本に帰り、ビリーはトムに育てられる。
ビリーは伝道師になることをやめ、ミツコを探す意図を心に秘めて日本に留学東大で日本文学・能を学ぶ。
元旦、友人のアメリカ人夫妻とその子・ピーターで明治神宮に参拝する。
ピーターを肩に担いでいたときに、突然その重さがとてつもなく重く感じられる。
啓示!「命に代えても自分はこの無限に貴い重荷を支えつづけなければならない」。
「いま明治神宮にどっと押し寄せている何千何万という人ー一度でも太陽の温もりを感じたことのあるすべての人たちーはみなかつて聖なる幼子だったのだ。物を食べ、小便し、排泄し、死ななければならない人々。人間は愚かすぎて、このことの奇跡に何世紀も気づかなかった。そして処女降誕やら「人となられた神」たちやら天上と地上の往来といったお伽話をみずからに言い聞かせて、もともと神聖なものをさらに神聖に見せようと無意味な努力をし、それは結果的にこの世界にある奇跡をかえって見えなくしただけだった。」
ビリーが明治神宮で見たのは、「正真正銘の聖なる幼子を肩に乗せ、人々の流れに身を任せながら、大勢の人間の息子たち娘たちが聖なるものの源を賛美しに訪れるさま。その源とは、人々自身の中で脈打つ生命」だった。
ビリーはミツコに会えるのか。
日本人女性との劇的恋愛も絡め、ストーリー展開もわくわく。
作者は、漱石、龍之介、春樹などの英訳者として知られる日本文学研究者。
作者あとがきに「この本は小説であり、主要な人物や出来事は虚構だが、物語の設定はほぼ史実通りであり、登場人物たちが置かれた状況はしばしば実際に起きた状況であり、当時実際に生きていた人々に彼らは会う」とある。
永井博士が「長崎の鐘」のさいごに、戦争を終えるために長崎の人びとを生贄の羊として選んだことを神の恩寵として感謝すべきだと書いていることを、ミツコに痛切に批判させている。
一読を薦めます。
柴田元幸・平塚隼介 訳
新潮社
俺はたいしたリーダーじゃないけれど、なんどかみんなの前で泣いたことがある。
なんとかしたい!それが俺の仕事・使命だと思う。
でも、力不足!理解もされない。
そんな時に、自然に涙があふれてきた。
やっぱり、みっともないな。
でも、安倍が日本の貧困について、フクシマについて、沖縄について、自分の力不足を、たとえ暮夜密かにでもあれ泣くことがあるか。
あのニタニタ笑いしか想像できない。
「早く質問しろよ」と言った時の。
銃規制の大統領令を発表するオバマの涙に共感するとともに、それに対するトランプなどの反応を見て、アメリカの救いがたさをも思った。
日本の権力者の情けなさも。
涙をこぼすこともないローズヴェルト大統領の命令によって。
それまで、シアトルのバプテスト教会の敬虔な信者として活動をしていた人や牧師も容赦なく、アイダホ州ミニドカ、砂漠の中、昼はたけだけしい暑さ、夜は凍えそうな寒さのタール紙貼りのバラックに押し込められた。
そんな背景に描かれる一人の日本人女性・ミツコと、彼女に求愛し、戦争勃発とともに捨て去って裕福な土地の教会に移るアメリカ人牧師・トム。
彼女は、男がおいていった前妻の子・ビリーと収容所で生活する。
やがて、ミツコは日本に帰り、ビリーはトムに育てられる。
ビリーは伝道師になることをやめ、ミツコを探す意図を心に秘めて日本に留学東大で日本文学・能を学ぶ。
元旦、友人のアメリカ人夫妻とその子・ピーターで明治神宮に参拝する。
ピーターを肩に担いでいたときに、突然その重さがとてつもなく重く感じられる。
啓示!「命に代えても自分はこの無限に貴い重荷を支えつづけなければならない」。
「いま明治神宮にどっと押し寄せている何千何万という人ー一度でも太陽の温もりを感じたことのあるすべての人たちーはみなかつて聖なる幼子だったのだ。物を食べ、小便し、排泄し、死ななければならない人々。人間は愚かすぎて、このことの奇跡に何世紀も気づかなかった。そして処女降誕やら「人となられた神」たちやら天上と地上の往来といったお伽話をみずからに言い聞かせて、もともと神聖なものをさらに神聖に見せようと無意味な努力をし、それは結果的にこの世界にある奇跡をかえって見えなくしただけだった。」
ビリーが明治神宮で見たのは、「正真正銘の聖なる幼子を肩に乗せ、人々の流れに身を任せながら、大勢の人間の息子たち娘たちが聖なるものの源を賛美しに訪れるさま。その源とは、人々自身の中で脈打つ生命」だった。
日本人女性との劇的恋愛も絡め、ストーリー展開もわくわく。
作者は、漱石、龍之介、春樹などの英訳者として知られる日本文学研究者。
作者あとがきに「この本は小説であり、主要な人物や出来事は虚構だが、物語の設定はほぼ史実通りであり、登場人物たちが置かれた状況はしばしば実際に起きた状況であり、当時実際に生きていた人々に彼らは会う」とある。
永井博士が「長崎の鐘」のさいごに、戦争を終えるために長崎の人びとを生贄の羊として選んだことを神の恩寵として感謝すべきだと書いていることを、ミツコに痛切に批判させている。
柴田元幸・平塚隼介 訳
新潮社
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sheri-sheri at 2016-01-06 19:59
深いお話ですね。是非読んでみたいです。
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学童疎開の子供たちの中で昭和20年4月に中学に進学する予定の男子生徒は、昭和20年の初めに東京に戻されました。「本土決戦」の戦士にするためでした。軍部は最後まで本気で「本土決戦」をするつもりでいました。もし原爆投下が無ければ「本土決戦」は避けられず、その際の犠牲者の数は沖縄戦を例にとれば推して知るべしです。恐らく数百万人は優に超えたでしょう。永井博士の文書はそうした文脈の中で評価すべきではないでしょうか。戦前の日本の指導部は狂気としか言い様がなく、安倍ら日本会議の戦前回帰指向が何をもたらすのか恐ろしくなります。
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saheizi-inokori at 2016-01-06 22:02
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saheizi-inokori at 2016-01-06 22:16
> ほめ・くさん、永井博士はそう思った・思うしかクリスチャンとして生きられなかったのでしょう。
この小説の作家・アメリカ人はそう思わなかった、キリスト教に対して否定的ですね。
私も広島の惨劇を見届けたうえでなお長崎に原爆を落とすアメリカはキリストの教えに反していると思います。
永井博士の言葉がアメリカの原爆支持者たちの精神的な支えになっているとしたら、恐ろしい。
オバマの涙と安倍のノッペラガオを比べると、再びジャップとさげすまれる時が来たような気すらします。
この小説の作家・アメリカ人はそう思わなかった、キリスト教に対して否定的ですね。
私も広島の惨劇を見届けたうえでなお長崎に原爆を落とすアメリカはキリストの教えに反していると思います。
永井博士の言葉がアメリカの原爆支持者たちの精神的な支えになっているとしたら、恐ろしい。
オバマの涙と安倍のノッペラガオを比べると、再びジャップとさげすまれる時が来たような気すらします。
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旭のキューです。
at 2016-01-06 22:57
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戦争は、悲劇をよびますね。やっては、いけないと分かっていても…イランとサウジどうなるのでしょうか?
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nenemu8921 at 2016-01-06 23:48
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kanafr at 2016-01-07 07:59
憲法改正し戦争する事になったら、やむにやまれずで仕方がないとか、国民の平和を守る為..という人ほど、実際に戦争が起きたら、後方の安全地帯に身を置くんだろうと思います。
ヤジを飛ばしうすら笑いをし、挑戦という言葉が好きな方に是非、戦争の悲劇に挑戦していただきたいと思いますけどね。
ヤジを飛ばしうすら笑いをし、挑戦という言葉が好きな方に是非、戦争の悲劇に挑戦していただきたいと思いますけどね。
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saheizi-inokori at 2016-01-07 09:27
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saheizi-inokori at 2016-01-07 09:28
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saheizi-inokori at 2016-01-07 09:29
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antsuan at 2016-01-20 11:01
凛々しく生きる日本女性の物語。久しぶりに感動して読みました。
名前を変えて"自分の存在を否定して"生きる姿に胸を打つと共に、あの当時の日本人が同様の生き方を強いられたと思うと、涙が止まらなくなりました。
名前を変えて"自分の存在を否定して"生きる姿に胸を打つと共に、あの当時の日本人が同様の生き方を強いられたと思うと、涙が止まらなくなりました。
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saheizi-inokori at 2016-01-20 23:04
> antsuan、このところキリスト教に不信をいだく人の物語を続けて読みました。
宗教の問題なのかその人の人間性の問題なのかはわかりませんが。
差別される・するということは絶対に許せないと思います。
宗教の問題なのかその人の人間性の問題なのかはわかりませんが。
差別される・するということは絶対に許せないと思います。
by saheizi-inokori
| 2016-01-06 12:32
| 今週の1冊、又は2・3冊
|
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Comments(12)