土偶が教えてくれる縄文人の精神生活 長谷川宏「日本精神史」その3

師走ともなると寒さも違う、ような気がする。
食器を洗うお湯の温かさが気持ちよく感じられるかどうかがバロメーター。
土偶が教えてくれる縄文人の精神生活 長谷川宏「日本精神史」その3_e0016828_11364338.jpg
雨の降りだす前にサンチと散歩。
園芸高校の銀杏の黄葉がそろそろ盛りだ。
スマホを構えているとどこかの奥様が「きれいですねえ、でもお掃除が大変」と言って通り過ぎた。
向こうからニコニコ笑いながら歩いてきた奥様が「かわいいですねえ」、俺のことじゃない。
サンチ、途端にくるっと回ってしゃがみこんで、ウ○チ、奥様、目を丸くして「う○こ、、ですか」「はい」。
土偶が教えてくれる縄文人の精神生活 長谷川宏「日本精神史」その3_e0016828_11371777.jpg
「日本精神史」その3は縄文人の作った土偶。

数百人規模の村落で定住生活を送る人びとの、自分たちの共同の力についての意識が、自然と張り合うような高さと力強さをもつ堂々たる形を求めて作り出したのが六本柱巨大建造物であり、暮らしに役立つ実用的な土器の製作に造形の喜びを見出した工人の美意識が、形のあってなきがごとき火の形象化に邁進し、形態と文様の統一を見事に達成したのが火炎土器であり、
たいして、日常のさまざまな場面でさまざまな強度をもってあらわれる宗教意識-願いや祈りーが、個々ばらばらなままにおのれの思いを投入できる対象として生み出したのが種々雑多な土偶である。

そういう土偶のほとんどは、写実の正確さや全体の統一と均衡を置き去りにして部分への関心が肥大化したところに、奇怪とも玄妙ともいえるデフォルメが生じている。
妊娠・出産・育児・豊作・豊漁・病気の平癒、、さまざまな思いが自在に気ままにこめられているのだ。
逆に言えば厖大な数の、多種多様なデフォルメのありようをながめることで、縄文人の土偶に託した大小・深浅さまざまの思いや願いや祈りを想定しないではいられない。
共同性へと統合されていく人びとの意志および意識とは異質な、恣意的で雑多な精神生活が映し出されている。

これらの手軽で雑多な土偶とは、別格ともいえる逸品がある。
それが、俺も尖石縄文考古館で見てきた「縄文のビーナス」だ。

デフォルメの手法を自在に活用しながらも、誇張された部分がばらばらに自己を主張するのではなく、たがいにつながり合ってまとまりのある全体を構成している。

とりわけ感銘深いのが、背中の湾曲面だ。
腰のあたりまでわずかに反り気味に降りてくる背中の面がそこでいったん力を溜め、外に向かって湾曲しながら大きく張り出していく。そして、その湾曲面に接して、その下に臀部のふっくらと丸い曲面が続く。大胆にして滑らかなその曲面には、手で触って確かめたくなるような運動感と量感がある。縄文人たちは実際に手で触って、そのふくよかさを慈しんだにちがいない。湾曲面からふっくらした曲面へのこの流れは正面からはまったく見えないが、見えない陰の部分にこんなにも秀逸な造形がなされていることに、かえって製作者の美意識の高揚をうかがうことができる。

土偶が教えてくれる縄文人の精神生活 長谷川宏「日本精神史」その3_e0016828_11382701.jpg
縄文のビーナスのほかに、山形県舟形西ノ前遺跡出土の立像土偶、青森県八戸風張遺跡出土の合掌土偶なども、たまたま製作者がおのれの美的情熱を傾けた例外的な土偶がある。
製作技術の向上とともに形の美しさを求める意識が広く深く展開していった縄文土器の歴史とは異なって、土偶の歴史は、気ままで拡散的な宗教意識が集中力と持続力をもって対象の美しさを追求する美意識と容易に結びつくことのない歴史だった。
そして、それもまた縄文時代の精神史の一面だった。

土偶が教えてくれる縄文人の精神生活 長谷川宏「日本精神史」その3_e0016828_11393109.jpg
(「白石」で、秋田の冬樹を飲んだと言ったら、あら、うちも今日仕入れたとこです、だって。なんとなくうれしかった)

パソコンを変えたら、引用文の斜体表示ができなくなった。
そのため、どこが引用文なのか分かりにくい記事になっているが、ほとんどは引用だと思ってください。
メモのつもりで書いてます。

それにしても本を読んだり文章を書く力が衰えた、急激に。

Commented by at 2015-12-02 13:23 x
朝夕涼しく、しかし、日中汗ダラの日々。
やる気も手もドンドンとろくなって来て、
悲しくなる日々を過ごしとります。;;
Commented by saheizi-inokori at 2015-12-02 22:17
> 蛸さんそれからみたら、今の東京はパラダイスかもしれない。
加齢のみが、、。
Commented by cocomerita at 2015-12-03 03:11
Ciao saheizi. さん
子供の頃から 妙に土偶に引かれるのです

まさに ビーナス !美しいですね
ギリシャ彫刻のビーナスと 競って 全くひけをとらない。。てか
私は 縄文のビーナスが 好みです
Commented by j-garden-hirasato at 2015-12-03 07:00
縄文時代には
「美」という意識があったのでしょうか。
でも、
美しい土偶ですよね。
Commented by 平名 at 2015-12-03 11:49 x
 土偶は、短足でヒップが大きい 此れが美人の条件の筈、、
西洋から入って来た八頭身とかヒップアップとかは美人と云えるか、、 どっちも良いけど、持てれば 
標準とは?
Commented by saheizi-inokori at 2015-12-03 13:08
> cocomeritaさん、日本人の血が流れていますなあ^^。
Commented by saheizi-inokori at 2015-12-03 13:09
> j-garden-hirasatoさん、「美」という抽象概念はなかったかもしれませんが。美しいものを感じる・求める心はあったのでしょう。
偶然、こういうものが生まれたとは考えにくいです。
Commented by saheizi-inokori at 2015-12-03 13:11
> 平名さん、日本人がどういうものを美しいと思ってきたか、それが本書のテーマ。
楽しみに読んでいます。
Commented by hanamomo08 at 2015-12-06 22:52
まあ、ここにも冬樹さんが。
このお酒美味しかったんです。
角館で惜しげもなくたっぷり試飲させてくれました。
Commented by saheizi-inokori at 2015-12-07 11:30
> hanamomo08さん、世田谷の店でこんな酒を見ると故郷の酒みたいな気持ちになりました。
人懐っこい酒ですね。
Commented by ikuohasegawa at 2015-12-07 16:15
順番待ちが何冊もあるけれど、飛び級しちゃおうかな。
でも結構いい値段だしなあ。
Commented by saheizi-inokori at 2015-12-07 20:26
> ikuohasegawaさん、飛び級なんてあるんですか。
私は自分で買うつもりになりました。
名前
URL
削除用パスワード

※このブログはコメント承認制を適用しています。ブログの持ち主が承認するまでコメントは表示されません。

by saheizi-inokori | 2015-12-02 11:51 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(12)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori