姉歯、小島、木村、大林・・つめの垢でも飲んだら?  中村好文「意中の建築」(上下)(新潮社)

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写真スケッチの村は韓国・慶尚北道・安東市にある。16世紀・李朝時代以来の古い村の形態と慣習が残っている生きた民家園だ。著者はソウルを離れること190キロのこの村に二度も訪れスケッチをし、実測をして”人と住いの関係やそこで営まれる日々の生活に思いを巡らし、自分の設計している住宅やそこでの暮らしとつい比較して”しまう。

著者が愛する檀一雄は、「まぎらわしい何物もないそのオンドル部屋の中で、悠々と老いさらばえてみたい願望を持っている」と書いているそうだ。
著者も同じ願望をもっていてそれをここで実験する。そして、”繭玉の中のよう”な部屋の感じとか、その繭玉がオンドルでほんわかと暖かいので”母親の胎内のよう”になること・しかも”壁で囲まれることで、心も外に向くより自然と内に内に向かっていく・・生まれる以前の自分のことを思い出したり・・しちやう”ことなどを微に入り細に入り嬉しそうに書くのだ。

上下二冊の素晴らしい写真やスケッチ、文章で紹介される著者の「意中の建築」は25例。檀一雄の”旅路の果てに辿り着いた島”能古島の晩年の家、村野藤吾の旧千代田生命本社ビル、50年前に建てられて今一層輝きを増しつつあるカリフオルニアのケーススタデイハウス(CSH)、ヴェローナにあるスカルパのカステルヴェッキオ美術館・・洋の東西を問わず、「第三の男」に出てくる地下水道、豊多摩監獄、ストックフオルムにある森の火葬場、旗の台駅の階段室など、用途もさまざまな建築が取り上げられている。その魅力が熱っぽく実証的に語られ・見せられて飽きさせることがない。ル・コルビユジエがサヴォア邸を設計するときの試行錯誤・推敲振りを丁寧に図解されるとコルビュジエが何か身近に感じられもする。

建築家が全身全霊を傾け、文字通り汗まみれ泥まみれになって普請に打ち込むと、その感性や体臭は建物にそのまま染み込み、呻吟の痕跡、推敲の痕跡としてくっきりと影を落とすのです。独特のかぐわしい匂いはこうした痕跡から漂いだすのだと思います。

姉歯、小島、木村、大林・・つめの垢でも飲んだら?  中村好文「意中の建築」(上下)(新潮社)_e0016828_212745.jpg

原則的に読んだ本はかつての部下たちに差し上げるのだが、これは近くにおいて思い屈したときに眺めていたい。俺も実際に見て回りたいと思うが、それにはもう少し体力・気力、それに金力が必要だ。せめてこの本で我慢するしかないのだ。
Tracked from 建築家の育住日記 at 2006-01-05 16:29
タイトル : タワーマンションと四合院
タワーマンションは数十人、多くてもせいぜい数百人に絶景の見晴らしをもたらすことだろう。かわりに、数千人、数万人から眺望をうばってしまう。東京は勝者、強者による空の分割、専横の歴史をくりかえしてきた。 尊敬する師が「55階タワーの50階マンション」をすすめられ....... more
Tracked from 雪の朝ぼくは突然歌いたく.. at 2006-01-06 10:40
タイトル : 060106 日々歌う
夭折の子を持つ親のかなしみを湛へて届く賀状もありて 教へ子の完の名こそかなしけれ心を病みて自死に果て逝く (完=たもつ)                    * ダルデンヌ兄弟のベルギー映画『ある子供』を観て詠める <ある子供>描く世界のひしひしと迫るを想ひ一夜眠れず (一夜=ひとよ) 寄る辺なき子らを生みつつ<改革>の笛に踊りて進みて行かば                    * 鈍色の空を彩り柿の実の映ゆるを見るもカーブミラーに (鈍色=にびいろ) ... more
Commented by ちゃめ at 2006-01-04 23:42 x
saheizi-inokori さん、明けましておめでとうございます。
この本、面白そうですね。
でも、ちょっと高そう?
>原則的に読んだ本はかつての部下たちに差し上げるのだが
素晴らしい!
私も部下になりたい(笑)。
今年も宜しくお願い致します。
Commented by saheizi-inokori at 2006-01-05 07:44
ちゃめさん、おめでとう。そちらにコメントしたいけれど登録とか分からなくて失礼してます。本は家に置ききれなくなって会社にもって行った。ただ持っていくのでは倉庫代わりで申し訳ない、コメントをつけて社員にメールをしました。そのうちに持っていくことが目的になってしまい・・というような事で素晴らしくもなんともないです。古本屋にもって行くとメチャクチャ安いですし。この本はオススメですよ。一杯飲んだと思えば安い安い!
Commented by 髭彦 at 2006-01-06 10:58 x
佐平冶さん、おはようございます。
いい本を教えていただきました。
前に『芸術新潮』の特集で中村さんの存在を知りました。
読んで見たいと思います。
ハフェマウルは前からぜひ訪ねたいと思っているところです。
先年、安東までは行ったのですが日程上どうしても行くことができませんでした。
ところで、昨夜『ある子供』をようやく観てきました。
拙い歌を詠みましたのでTBさせていただきます。

17日の新年会でお会いできるのを楽しみにしています。

Commented by YUKI-arch at 2006-01-07 07:35 x
佐平次さんへ。いつもコメントありがとうございます。
コートハウスは僕の設計の一つの理想型なんですね。
書き出せばきりがないので、いつか少しずつでも書いていこうと思っています。
コートの中に自然を切り取る、切り取った「自然」を毎日いつくしむ。
切り取った中での小宇宙をつくりだす。そんな楽しみがあります。
Commented at 2006-01-07 16:17
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented at 2006-01-07 23:03
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by saheizi-inokori at 2006-01-07 23:40
YUKI-arch さん、さっきソウルから帰りました。コートハウスというほどのかどうか面白いSCがありました。明日からアップします。
Commented by 髭彦 at 2006-01-09 10:55 x
中村好文「意中の建築」(上下)、昨日買いました。
さっそくハフェマウルを読み、これはもう行くしかないと思いました。
あの民宿のオンドルパンに何日か泊まって、村の中を彷徨ってみたいものです。
おかげさまでいい本に巡り会えまあした。
韓国旅行記もたのしく拝読しています。
Commented by saheizi-inokori at 2006-01-09 11:36 x
髭彦さん、本当に行ってみたくなりますよね。時間が止まっているような気分が伝わってきますよね。「生まれる以前の自分」なんて禅の公案みたいだけれどもっと、安らかに「父母未生以前」を感じてしまえるような。
Commented by sakuraasako at 2006-01-10 23:48
佐平次さん、こんばんは。
この本、買っちゃいました。今手元にあります。
“ストックホルムの森の火葬場” を以前建築家の友人のスライドで見た事があって、ずっと気になっていました。
「 あぁ、私もこんなところで煙になって空に還っていきたい・・・」 なんて思ったものでした。
その友人は 「今じゃなくて、いつの日か、愛する人と二人で行ってみるといいよ。ボクは残念ながら一人で行ってきたけどね」 と。
その“森の火葬場”が載っているという佐平次さんの紹介文を読んで、即インターネットで注文してしまいました。
Commented by saheizi-inokori at 2006-01-11 08:19
sakuraasako さん、おはよう。そうですか、買ってしまいましたか。ちょっと高い。でも、これは何度も眺める本だ思います。中村さんの文章もいいですよね。読むときのこちらの気持ち次第で安らぎたい場所が変わる。押入れに入った小さなころ!
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by saheizi-inokori | 2006-01-04 21:24 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback(2) | Comments(11)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori