スケベで飲み助で妄想家で、、コリン・デクスターが好きだ コリン・デクスター「別館三号室の男」

散歩していたら、二階のベランダで布団を干しているオジサンがいた。
ときどき道で出会う人だ。
ああ、この家に住んでいる人なのか。
なんだか神経衰弱をやっているようだ。
コリン・デクスターが好きなのに、しばらくぶりに読んだ。
ほんとに好きならもっと読めばいいのに、とも思うがどの作品を読んだのか分らないのだ。

モース警部とルイス部長刑事のコンビが面白い。
あとがきで小池滋が、モースはドン・キホーテと同じで、自分が勝手に作り上げた妄想にはまり込んでいるのに対して、ルイスはサンチョ・パンサで、正しい現実感覚の持ち主だ、と評している。
他人が自分と同じような知的レベル（高いにせよ低いにせよ）で、俺と同じように考えるはずだとか、美人は美しいことしか考えないはずだと思いこむのは俺だ。
モースの美人に対する思い込みはもう少し即物的だが。

ホテルが舞台の殺人事件、肝心の名コンビの推理を追いかけるより、彼らおよび作家の饒舌が醸す、なんとも言えない空気を楽しむ。
細部に神が宿る、のだ。

ひとつだけ特に心得ておくべき原則がある。それは、ホテルに対してあれこれと要求することが多ければ多いほど、経営者や従業員たちから尊敬されるということである。

なるほどなあ、と首肯するけれど、俺は「良く思われたい」と思えば思うほど、必要以上にへりくだって、従業員をたてまつってしまう。
「お酒をお願いしてもいいですか」というほどではないけれど。
どれを読んだか、解らなくなっているくらいなら、どれでもいいから又読もうかな。

大庭忠男　訳
ハヤカワ・ミステリ文庫